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第15話 リヴェスの仕事

 翌日になり、ルーペアトはすぐに執務室に向かい外出する主旨を伝えに来た。


「今日は庭の道具を買い足すために外出しようと思います」

「わかった。護衛をー」

「護衛は必要ないです」


 護衛を勧めるリヴェスの言葉を遮って、ルーペアトはそれを拒んだ。

 人の話を遮るのは良くないが、護衛を就けないという強い意志は絶対に曲げたくない。


「前のようなことが起きるかもしれない」

「だからこそです。私はこれ以上リヴェスの部下を失わせたくありません」


 襲撃されたことをわかっていたのだから、すぐに馬車から出ていれば救えた命だった。

 いくら言われたからとはいえ、護衛が殺されるまで馬車の中に居たことを後悔している。自分の身を守れる力を持っていたのだから。

 そのことがずっと心残りで胸に引っ掛かり続けている。


 二度と同じことを繰り返さないために、今回は護衛を連れて行くわけにはいかない。


「ルーに自分の身を守れる力があることはわかっている。だがそれでも心配なんだ」

「ハンナとは一緒に行きます。それでもいけませんか?」

「……」


 リヴェスは迷っている様子だった。

 以前から思っていたが、リヴェスは何をそんなに心配しているのか。

 ルーペアトが十数人の暗殺者を相手に勝てることを知っているのに。

 やはり剣を扱えたとしても女性だと心配なのだろうか。


「…わかった。その代わり危ないことはしないでほしい」

「はい。でも剣は持って行きますね」

「むしろそうしてくれ」


 剣を所持することを許可してくれるのは助かる。これで街で剣を持ち歩いていて誰かに何か聞かれたとしても、リヴェスの許可を得ていると発言出来る。

 羽織で隠れて見えないだろうが、堂々と持ち歩けるのは良い。


「ではいってきます」

「気をつけて」


 リヴェスは執務室を出て行くルーペアトを見守った。

 足音が聞こえなくなれば、部屋で黙って話を聞いていたジェイがリヴェスに話し掛ける。


「ちゃんと言わないと伝わりませんよ」

「わかっている。だがな…」


 そんな会話を二人がしていたことをルーペアトが知れるはずもなく、リヴェスが心配する理由もわからないまま、ルーペアトはハンナと街へ向かった。


 一番の目的である、英雄に関する情報収集はハンナが居るため踏み入った聞き込みは出来そうにない。

 道具を買い足しながら、街の人達の話を盗み聞きして情報を得る方法しかないだろう。


「今日は普段より人が多いですね」

「そうなんだ。何かあるのかな」


 街で催し事があるのかもしれない。あるなら少し見てみたいが、こういう人が多い時に限って何かが起こりやすいものだ。

 例えば何か盗まれたとしても、その犯人はすぐ人混みに紛れ見失ってしまうから、こんな時が好機ということ。


(何もないと良いんだけど…)


 そう思いながらも買い物を続け、何も情報を得られないまま買いたかったものを全て買い終えてしまった。

 これではただ買い物に来ただけになってしまう。どうにか当初の目的を少しでも果たせると良いが。


「少し遠回りをして帰らない?街をもっと見てみたいから」

「わかりました。この付近も治安は問題ないと思います」


 発展している街中を外れ、店よりも家が多く落ち着いた雰囲気の通りを歩いて行く。

 賑やかな通りのすぐ横だが、全く違う場所に来たかのように感じる。人の数、明るさ、音、通りが違うだけこうも街の印象が変わるものなのか。


 ヴィズィオネアではずっと同じところに住んでいたからか、同じ造りの街と通りしか見て来なかったから不思議だ。

 人の少ない街でもルーペアトが住んでいたところより発展しているのだから、ハインツは本当に凄い。


「ハンナはハインツの皇帝陛下がどんな人か知ってる?」

「よく存じ上げていません」

「そっか…、この国を作り守っている人がどんな人なのか気になったんだけど…」

「……若い方ですよ。歳はリヴェス様より上ではありますが。私が知っているのはそれだけです」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう」


(若いのに凄い…)


 是非一度会ってみたいが、そう簡単には会えないだろう。ロダリオ公爵夫人とはいえ、元はヴィズィオネア出身の平民。  そもそも会って良いような身分を持っていない。


(諦めるしかないか…)


 そんなことを考えていた時、更に隣の薄暗い通りから「きゃあぁー!」という甲高い声が聞こえた。子供の、それも女の子の声だ。

 ルーペアトはすぐに声の聞こえた方を振り向いた。目に入ったのは、男に服を捕まれ引きずられている。


(子供に何てことを…!)


 ルーペアトは持っていた荷物をハンナに預け、駆けつけようとした。

 しかし、ハンナに腕を捕まれ阻止される。


「危ないことをさせるわけにはいきません」

「でも子供が…!」

「それを助けるのがリヴェス様のお仕事、助けを呼んで待つているべきです」

「だからってこのまま見ているだけなんて出来ない!」


 ルーペアトはハンナの手を振り解いて裏路地に消えてしまった。

 その様子にハンナは溜息をつきながらも、落ち着いた様子で助けを呼びに大きな通りに向かった。


 追いついたルーペアトは男に剣先を向け、声を掛ける。


「今すぐその手を離して」

「何だぁ、可愛い嬢ちゃんじゃねぇか。そんな物騒なもんは仕舞って俺達と良いことしようぜ」


 そう言ってニヤリと男が笑えば、周りから男の味方と思われる人が現れて、道を塞がれてしまった。


(やっぱり複数人いたか…)


 男一人が少女を誘拐しているというより、何人かで同じことを繰り返しているような気がしていた。その考えは間違いではなかったが、この状況は少し困る。

 狭くて剣が振りにくいのと、少女が見ている前で血を飛び散らすのは良くない。


「その子を解放して、そうじゃないと痛い目みるよ」

「嬢ちゃんがついて来るならこいつも解放してやるよ」

「どうして私がついていかないといけないの」

「だって嬢ちゃん、あの憎たらしいロダリオの妻だろ?」


(何で知って…!?というか、憎たらしいロダリオ?)


 リヴェスを知っていることも、こんな奴らが敬称つけないのも不思議なことではないが、気になるのは男がリヴェスに恨みを持っているかもしれないこと。

 リヴェスが恨みを買うようなことがあるのか。


(そういえばハンナが言っていたことを考えると、今私のしている様なことがリヴェスの仕事ってことだから…)


 悪人を裁くのがリヴェスの仕事ということか。それなら裁かれた、仲間が捕まったという理由で恨みを持たれるはず。

 となれば、リヴェスは多くの悪人から恨み買っている可能性が高い。


「いつもは護衛がたくさんついてて狙いにくいのに、今回の妻は自らのこのこと現れてくれて助かるぜ。これで嬢ちゃんを始末すればあいつの良い顔が見られそうだなぁ」


 そう上機嫌に笑う男の話を聞いていてルーペアトは気づいた。リヴェスが護衛をつけたがっていた理由と心配していた理由に。

 リヴェスが職業上恨みを買っていて、弱い人間であるその伴侶が狙われやすいわけだ。だからリヴェスは護衛をたくさんつけようとしていた。心配していたのも同じ理由だろう。

 それに令嬢達がお茶会で言っていた、破談になった令嬢が怯えて帰って来たといのは、狙われて命の危険を感じた令嬢が恐怖に耐えられなかったからのだろう。


 ルーペアトはずっと戦場の前線に立っていたんだ、幼い頃から常に死とは隣り合わせの人生。

 命の危険なんて、もう怖くも何ともない。


「あいつの良い顔だけじゃない。あのお方も褒めてくれるはずだ」

「あのお方?」

「なんだ、気になるのか?あのお方っていうのはな、ある商会の会長で素晴らしいことをされているんだ。色んなことを知っていて、こうして俺らにも仕事を与えてくれる」


(人攫いが仕事…、その商会は怪しい)


 でも色んなことを知っているというなら、ヴィズィオネアの英雄についても詳しいかもしれない。

 これは良い取り引きに使えそうだ。


「ねえ、その方に会わせてくれない?それならあなたについて行ってあげる」

読んで頂きありがとうございました!


次回は木曜7時となります。

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