第144話 数ヶ月ぶりに皆と
あれから、ノーヴァとウィノラがこちらに住むようになって、数ヶ月という月日が経った。
中央都の整備は終わり、頑丈な造りになった建物に、植物も増え景観の良い街となり、初めて街を見た時と比べものにならないほど変わっている。
それだけ職人やノーヴァが連れてきた人達が尽力してくれたおかげだ。
月明かりだけが見える暗い夜に、ルーペアトは窓から街の方を見つめていた。
まだまだヴィズィオネアは発展途上で、今は中央都しか整備出来ていないけれど、この先もっと広げていけたらと思う。
義両親と住んでいた所も。
(変わってしまうのは寂しいけど、これからを生きていく人達が住みやすい国にしていかないとね)
もう思い出の故郷も建物が古くなってきてしまっている。あの家に住み続けることはできない。
取り壊して建て直すしかないのだ。
だけど、その新しくなった場所でこの先誰かが思い出を作ってくれることを願おう。
(…そろそろ寝ないと)
数ヶ月も経てば公務にも慣れてきたとはいえ、やらなければならないことが山積みなのに変わりない。
ここ最近はルーペアトとリヴェスの結婚式が迫っており、準備で皇宮内は慌ただしくなっている。
結婚自体はすでにしていることもあって、式は大々的に行わずにひっそりと身内だけで行う予定だ。
それなのに眠る時間が遅くなるほど忙しい。パーティーを開いていたら今よりどれだけ忙しかっただろうか。想像するだけで慄いてしまう。
(一人なるとつい考え事をしちゃって眠れないんだよね…、早く寝ないといけないのに)
夜更かしは美容の天敵だとハンナに言われ、日付が変わる前には眠りにつくよう言われている。
今夜はもうその時間を過ぎてしまったが。
これ以上遅くならないよう、ルーペアトは深呼吸を繰り返し何とか眠りにつけた。
次の日も、その次の日も目まぐるしく時が過ぎていき、式もいよいよ二日後だ。
そんな今日はティハルトとイルゼがヴィズィオネアに訪れる日。二人とは数ヶ月ぶりに会う。
この数ヶ月の間、イルゼはハインツに滞在したり戻って来たりしていたと手紙に書いてあった。
二人の関係がどのくらい進展しているのか、ルーペアトは気になって仕方がない。
ノーヴァとウィノラは相変わらずといったところだし、ほぼ毎日どちらかとは会っているのもあって、余計に気になるところだ。
イルゼは恥ずかしがっているのか、ルーペアトが手紙でティハルトとのことを聞いても、ちゃんと返事を書いてくれなかったから。
ルーペアトは会えるのを楽しみに待っていれば、到着したという知らせが。
足早に部屋を出て玄関へと直行する。
「久しぶりだね、元気にしてた?」
着いてすぐにティハルトが声を掛けてくれた。
しかしルーペアトの期待とは裏腹に、二人は腕を組んでも手を繋いでもいない。
以前より二人の距離は近くなっているが、二人の間に甘い空気がなくてルーペアトは不安になる。
「…お久しぶりです。私達は元気にやってますけど、二人はどんな感じですか…?」
その不安を表情には出さなかったものの、やっぱり気になってしまって不自然さが言葉に出る。
「元気だよ。ね?」
「ええ。それなのに、どうしてそんなに嬉しくなさそうなんです?もっと喜びなさいよ」
「喜んでるよ…!二人が着いたって聞いてから急いでここに来たくらい」
「…本当ですの?」
「もちろん」
イルゼにものすごく疑われている。
けれど来たばかりのところでいきなり進展したのか、なんて聞きづらく上手く言葉が出てこない。
「イルゼはルーに会えるのが楽しみで、馬車の中でもずっとルーの話をしてたよ」
「ど、どうして言っちゃうんですの?!私だけ楽しみにしてたみたいで恥ずかしいと思ってたところでしたのに…!」
「ルーが心配してそうだったからね」
ティハルトにそう告げられ、ルーペアトはぎくりと肩が跳ねる。ティハルトにはお見通しだったようだ。
「…どういうことですの?」
「僕達の関係がどうなっているか気になっていたんだよ。そんな中、僕らが腕を組んだりしていなかったから、不安に思ったんじゃないかと思ってね」
「そういうことでしたのね」
「お義兄さんのおっしゃる通りです…」
完全に見透かされている。本当にティハルトには敵わないなと思う。
隠し事や心配事なんて無意味かもしれない。
始めから普通に聞けば良かったと少し後悔する。
「私達、普段もこの距離よ。婚約しているとはいえ、外で二人きりで居る時の様には振る舞えないもの」
「そ、そうだよね」
言われてみればそうだ。ルーペアトだって常にリヴェスと密着しているわけではない。
ノーヴァがウィノラにべったりだったせいで、ルーペアトも感覚が狂ってしまったのだろうか。
「僕達のことは心配しなくても大丈夫だよ」
「はい…。さっきの会話で仲が良いのが伝わりました」
ルーペアトの不安もなくなったところで、遅れて来たリヴェスが不思議そうな顔をしていた。
「遅くなってすまない。これは…どういう状況だ?」
「ルーが僕達のことを心配していただけだよ」
「そうか。何事もなかったのなら良い。皆元気そうだな」
四人揃ったところで、ノーヴァとウィノラが待つ客室に移動する。
そしてルーペアトとイルゼは客室内の光景に、呆然と立ち尽くすことに。
「ウィノラは何色のドレスを着ても似合いそうだね。リヴェス達の式が終わったら、すぐに仕立て屋を呼ぼう」
「いや、早すぎるでしょ!もうちょっと後でも…」
「僕はなるべく早くウィノラと結婚したいんだ」
「その気持ちはわかるけど…」
ノーヴァはウィノラの膝に頭を乗せ、自分の家かのようにくつろいでいた。
会話の内容は二人らしいというか、相変わらずというか。ノーヴァが好き勝手やっている。
「私達は何を見せられているのかしら」
「こちらに全く気づいてないみたいだね」
皆が呆れて何も言えないなか、リヴェスがノーヴァの元に近づいていく。
ルーペアトはリヴェスの横顔しか見えなかったが、眉をひそめていることだけはわかった。
「お前はハルトが来るという時に何をやってるんだ」
「あ、来たんですね。皆さんお久しぶりです」
「遅い」
「痛っ…!」
起き上がったノーヴァの頭にリヴェスは拳を落とした。
そんなノーヴァをよそに、ウィノラはイルゼに「久しぶり〜!」と笑顔で手を振りかざす。
「あまりにも遅いから待ちくたびれたんですよ」
「…まあ、待たせたのは悪かったな」
確かに待たせ過ぎてしまったかもしれない。ルーペアトは玄関で色々話してしまったし、リヴェスも仕事をしていたのと執務室から玄関まで遠いのもあって、ティハルト達が来てから数十分は経っていた。
けれど過ぎたことは気にしないでいよう。
「とりあえず皆揃ったことだし、お茶会開きますよ」
「そうだな」
ルーペアトの合図でようやく皆が席に着き、食事が運び込まれ久しぶりの団欒を楽しむのだった。
読んで頂きありがとうございました!
次話いよいよ本編最後です!
次回の投稿は18日木曜7時となります。
ちなみにルーペアトはエデルも誘いましたが、独り身だし友人同士で楽しんでほしいと断られました。




