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第14話 数々の疑問

 数日の間、庭の手入れに時間を費やし、ブルースターや他の花を植えるまで進み、一段落がついた。

 毎日花に水をあげながら、ルーペアトは以前昔の自分が『英雄』と呼ばれたことについて調べることにする。


(英雄か…)


 そんな風に呼ばれているなんて全く知らなかった。デヴィン伯爵家で暮らしながら料亭で働いていた時は、街でそういう話を聞かなかったというのに。

 やはりロダリオ公爵家が中央都付近に屋敷を構えているからなのだろうか。


「ハンナはヴィズィオネアの英雄について知ってる?」


 自室で過ごしていたルーペアトは、側に居たハンナに質問した。


「はい。とても有名な話ですよ」

「隣国の話がどうしてハインツに広まったの?」

「確か…長らく続いていた隣国の戦争が、英雄の手によってついに終戦した、と書かれた新聞が中央都で配られていたからだと思います」

「そうなんだ」


 新聞に取り上げられることは不思議ではない。隣国がずっと戦争が続いていれば、ハインツの人達もいつか影響を受けるのではないかと不安になっていたはずだ。

 だからこそ、新聞で終戦したと知らせれば、もう心配は要らないと周知することが出来る。


 気になるのは、英雄と書かれていたことだ。ハインツの人達がヴィズィオネアの話を聞いて英雄だと思い、そう書いたのか。

 それともヴィズィオネア側がハインツにそう教えたのかだ。それによって誰がルーペアトを英雄に仕立て上げたのか変わってくる。


 ハインツ側なら当時の状況を全く知らないし、そう書かれるのも仕方がない。

 しかしヴィズィオネア側なら、誰かが仕向けた可能性だってある。単純に見ていた人間がそう思ったかもしれないが、あんなに血に塗れた人を英雄だと普通は思わないだろう。

 むしろ化け物の様に見られる方が普通とも言える。


「じゃあハインツのほとんどの人が知ってるんだね」

「はい。リヴェス様もご存知だと思います」

「そうだよね…。私が前に住んでいたところには話が届かなかったから気になって」


 英雄について聞いたことを不審に思われないように、知らなかったから気になって聞いたように見せかけながら、ハンナに話を聞くことが出来た。

 リヴェスが知っているなら疑われているかもしれない。剣を扱う人だからこそ、赤髪というのが血だということに気づきやすいだろう。

 派手に動くと勘付かれる可能性が高くなる。気づかれないよう適当な理由をつけて街に出掛けられると良いが。


(庭の道具を買い足すとかなら行けるかな…)


 リヴェスと出掛けた時に行った花屋に道具が売っていたから、店の場所も覚えているしリヴェスもついて来ないはず。

 剣が扱えることも知られているし、護衛を数人連れて行くようにも言わないだろう。

 強いて言うならハンナは連れて行くように言われると思うが、そのくらいなら問題ない。


(うん、そうしよう)

 

 そう決めて、早速明日は街へ出掛けることにする。


 ルーペアトがそんなことを考えていた日の夜、ハンナはリヴェスの執務室を訪れていた。

 定期的な報告のためだ。


「ルーは最近どうだ?」

「庭の手入れを始めて、最初ここに来た時より少し明るくなられたと思います。食事を食べられる量も増え、健康面も問題ないかと」

「そうか」


 リヴェスはハンナにルーペアトの監視目的ではなく、元気に過ごせているかなど健康状態の報告をさせていた。

 これまでも婚約者に対しても同じように侍女に報告をさせていたが、ルーペアトにはその時以上気にかけている。それはやはり前の環境が良くなく、身体も他の令嬢よりも痩せているから、気にしてあげるべきだと思った。


(改善に向かっているなら良かった)


 契約している間は夫婦なのだし、十分贅沢してここを離れる時には万全な状態でいてほしいが、ルーペアトが贅沢をしないから困ったところでもある。

 出される食事は栄養を考えて作られているが、ルーペアトの好みがわからないからリヴェスと同じものが出されている。つまりリヴェスの好物なのだが、ルーペアトが好みを言ってくれればそれを出すのに、これを出して欲しいも何が好きかも言わない。


(食事に無頓着なのか…?)


 そう思ってしまうほどだった。

 ルーペアトは養子だし親が居ないから今までまともに食事をしていなかったりするのかなど、色々考えてみるが応えが浮かぶはずもなく。


(今度聞かないとな)


 リヴェスはまだ、ルーペアトの母が好きだった花しか知らないのだから。

 ルーペアトのことをもっと知る必要があるし、知りたい。


「そういえば、英雄について何か言ってなかったか?」


 ルーペアトが英雄と聞いた時の反応が気になっていたリヴェスは、そのことを思い出しハンナに聞いた。


「隣国の話がどうしてハインツに広まっているのか気になっている様子でした」

「それが何故なのかわかるか?」

「以前住んでいたところでは聞かなかったから気になったと」

「そうか…」


 以前住んでいたというのがデヴィン伯爵家だろうというのはわかった。

 しかしデヴィン伯爵家の養子になったのは三年前。


(その前はどこに住んでいたんだ?)


 幼い頃に両親を亡くした子供が養子なることが多い。不妊や後継ぎが欲しいなどの理由で貴族が引き取るからだ。

 でもルーペアトが養子になった歳は十五歳。デヴィン伯爵夫人は何故その歳のルーペアトを養子にしたのか。

 翌年にデヴィン伯爵夫人は子供を産んでいる。つまり不妊でもなかったわけだ。


(ルーペアトの両親はいつ亡くなった?そもそもハインツに住んでいたのか?)


 デヴィン伯爵家はヴィズィオネアに近い位置にある。英雄は兵を倒した後、姿を消したと言われているのが、実はハインツに行ってデヴィン伯爵家の養子になったからなのだろうか。


(だが歩いて数日掛かる…)


 ハインツに行って行く宛のなかったルーペアトに出会ったのがデヴィン伯爵夫人で、仮住まいとして招き入れたとして、今後を考え養子なったとか。


(…さすがにそんな都合良くないか)


 ルーペアトの出自を調べることは可能だ。そうすればわかることだがそれは絶対にしたくない。

 言いたくないから黙っているだろうに、その気持ちを無視して勝手に調べるような真似をしたくない上に、調べるには『使えても使いたくない権限』を使うことになる。


 リヴェスは日を追うごとにルーペアトのことが気になっていた。

 いつか離れる関係であると同時に…


(過去を言えない俺が、ルーの過去を知る権利はないのにな…)


 ルーペアトの全てに見て見ぬふりをして、ルーペアトがここを離れる準備が出来たらすぐに手放す。

 本来ならそうすべきだったはずだ。しかしそれでは駄目だという気持ちが、リヴェスの胸に強く残っていた。

読んで頂きありがとうございました!


次回は火曜7時となります。

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