第138話 仲間であり家族
自身と同じくらいの体格を持つノーヴァを引き上げるのは難しいと、他に良い方法はないかと考えるも手を離すわけにいかない今、ただこの手を握り続けることしか出来ずにいた。
もうリヴェスも一緒に落ちてしまうのではないかという時、ルーペアトやティハルトのことを思い出し、最後の力を振り絞る。
その時、リヴェスの左右からニ本の腕が視界に入った。その腕は同じくノーヴァの腕を掴み、驚いたリヴェスが人物を確認するよりも早く、ノーヴァがその人物に気がつく。
「どうして…」
「仲間であり、家族だろう?」
そう言ったのはリヴェスの右に居たティハルトだ。ハインツに居るはずのティハルトが何故ここに居るのだろうか。
理由を考える間もなく、左に居た人物もノーヴァに声を掛けた。
「俺はただの道案内だ。…まあ、お前が死ぬのは別に望んでないしな」
更にリヴェスは驚くことになった。左に居たのはミランだったから。
今の言葉を聞いた限り、ティハルトがミランにここまで連れてきてもらったのだろう。
「二人共、せーので引っ張るよ。リヴェス、まだいける?」
もう腕は限界が近かったが、ティハルトの顔を見たら少し落ち着いた。
二人が居るならノーヴァを引っ張ることができる。
そう確信を持って、リヴェスは笑ってみせた。
「もちろんだ」
「じゃあいくよ、せーの…!」
三人で引き上げると、重かった身体が軽く感じる。地面も崩れることなくノーヴァを引き上げることに成功した。
「はぁ…はぁ…」
手を離すと一気に疲れが腕や身体にくる。剣を長時間振る何倍もキツイ。
「良かった…」
後々支障が出そうだか、そんなことよりとにかくノーヴァを助けることができて良かったと、心から安堵した。
「本当に…こんなとこで死のうとするなよ。面倒だろ」
「自分から穴に飛び込んだんじゃない。地面が崩れたんだ」
「死ぬつもりだったくせによく言うよ」
「君は人のこと言えないだろう?」
ミランがノーヴァに文句を言っている中、リヴェスはティハルトに質問を投げかける。
「ハルトはノーヴァのために来たのか?」
「嫌な予感はしていたけど、本当は即位のお祝いとイルゼの両親に挨拶へ行く用事もあったんだよね。着いてから色々と聞いて彼に頼んだというわけだ」
「そうだったのか」
「ノーヴァにも早めに会っておかないといけないとも、思っていたけどね」
そう言いながらティハルトは視線をノーヴァに向けると、それに気がついたノーヴァはミランと言い合うのを止め、こちらに近づいて来る。
「この度は手間を掛けて悪かったよ。死のうとしていたことも、両親について隠していたことも」
「無事で何よりだよ。それに、父親のことは僕も気づいてあげられなくてごめんね」
「あなたが謝ってどうするんですか」
「そう、だね。でも僕は二人の兄だから」
立ち上がったティハルトはリヴェスとノーヴァの頭に手を乗せ、ポンポンと軽く撫でるように叩いた。
その手は温かくて、とても安心する。
「…子供扱いしないで下さいよ」
何て言いながらもノーヴァは嬉しそうだ。
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次回は7月6日となります。




