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第137話 幸せになることが一番の復讐

 ー九年前


 ノーヴァが自分の父親が皇帝であることを知ったのは物心がつき始めた頃だった。

 母親がよく「皇帝のせいだ」と呟いていたから。


 ちゃんとした教育を受けられなかった分、昔は礼儀も貴族社会も、愛だって知らない純粋な子供で、そんなノーヴァが街で一人生き抜くのはとても難しい。

 だから落ちていたものを口にしたり、分け与えられたもので胃を満たす幼少期を過ごした。


 それからして偶然助けてくれた人が居たのだが、それが当時商会の会長だった男だ。

 何を見てなのかノーヴァに才能を感じたらしい。

 ようやく国のことを学ぶ機会を得て、お金を稼ぐ方法を知った。

 そのお金で爵位を買い、ノーヴァは貴族となる。

 しかし、この仕事が表立って言えない裏仕事だということに気づく。でももう後戻りは出来ない。


 そんな時だった、リヴェスと出会ったのは。


 身体に傷や痣があるのを見て、始めは自分と同じ境遇なのかと思ったが、身なりは以前の自分よりも綺麗で悲しくなった。

 お互い出生については語らず、リヴェスが皇族だと知ったのはもう少し後のこと。


 リヴェスは街に頻繁に訪れるようになり、ノーヴァは徐々に心を開いていく。

 そしていつの間にか大親友と言えるほど仲が深まってきた時、ノーヴァはいつかリヴェスと共に表で仕事がしたいと思った。


 それからリヴェスが皇族で、また父親が同じであることを知ってしまったノーヴァは、リヴェスと異母兄弟で血が繋がっていることを打ち明けないと決める。


 そうしてノーヴァの頭に復讐という言葉が浮かんだ。

 まず邪魔だったのはリヴェスの兄ティハルトと、父親である皇帝。

 消すための計画を考え始めた頃、リヴェスがティハルトと打ち解けたことを聞いた。

 結果、皇帝だけを消そうと思っていたのだが、自分が始末する前にリヴェスが手を下してしまったのだ。


 リヴェスから聞いた時、真っ先に湧いてきた感情は怒りだ。

 自分がやるはずだったからじゃない。ただ、リヴェスの手を汚したくなかったから。

 そう思っていたのに、結局リヴェスが皇位を捨てるとまで言い出し、ノーヴァの計画は完全に無に帰した。


 自分が何も出来なかった不甲斐なさに嫌気が差し、リヴェスに強く当たってしまい、それ以降疎遠に。

 せめてリヴェスの評判が悪くならないよう、ノーヴァは独断で皇族の死因を偽って新聞を書いたのだ。

 売る直前になってティハルトが商会を訪れたため、義兄との初対面になった。


 ティハルトの瞳は透き通った橙色で、自分の本心まで見透かされそうで嫌悪感を抱く。

 自分と似た瞳の色が兄弟であることを示しているようで辛かった。似るならリヴェスに似ていた方が、リヴェスにあんな思いをさせることはなかったはずなのに。


 リヴェスが両親と似ていないからと冷遇されていたのに、母親が違うにも関わらず父親に似てしまった自分が憎い―




「俺にとってもノーヴァは家族と言うより友人だ。それでも、兄弟であることをもっと早く知りたかった」

「今はそう思えたとしても、昔なら僕はリヴェスを更に傷つける存在になっていたよ」

「そんなことはない」


 リヴェスは父親に似ていたティハルトのことを羨ましく思っていた時もあった。

 ティハルトの話を聞いてからは似ていなくて良かったと思ったほど。だからノーヴァに対しても嫉妬心なんて抱かなかっただろう。


「似ているから何だ。ノーヴァは悪くない、全部両親が悪い。だが、両親をいくら憎んだってもうこの世に居ないんだ。過去なんて気にせず幸せな道を歩もう。それが一番の復讐だろう?」

「リヴェス…」


 復讐したって何にもならない、意味がないことはわかっていた。

 それでも怒りや憎しみが消えず、自分の行動が自身を蝕んでいたようだ。

 彼らが一生手に入れることができなかったであろう幸せ。だから自分が幸せになることがリヴェスの言うように、一番の復讐になるのかもしれない。


(…あんな奴のせいで自分を犠牲にするのは、もうごめんだ)


「リヴェスの言う通りにするよ。やっぱりリヴェスは最高の…っ!」


 そう言いながら崖を離れようとすれば足元の地面が崩れてしまい、ノーヴァの身体は穴の方へと傾いていく。

 リヴェスはノーヴァの腕を掴んだままだったため、同じく穴の方へと身体が傾くが、ノーヴァが咄嗟にリヴェスを遠ざけようと身体を強く突き放す。


「ノーヴァ!!」


 それでも必死にノーヴァの腕を掴み、何とか穴に落ちずに済んだ。

 しかしリヴェスが腕を離してしまえば、ぶら下がっている状態のノーヴァは穴に落ちてしまう。


「絶対に死なせはしない…!今引っ張ってやる」


 何とか引き上げようとするも、男一人を不安定な場所で引き上げるのは困難だった。


「ぐっ…、くそっ!」

「リヴェス…いいよ…」


 これは罰なのだろう。元々は死ぬつもりでここに来ていたんだ。

 生きて幸せになってやろうと思ったが、どうやらその資格はないらしい。


「俺は絶対諦めないから、お前も諦めるな!」

読んで頂きありがとうございました!


次回は22日7時となります。

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