第134話 頂点となる日
ついに即位式当日。この日をもって二人はヴィズィオネアの頂点に立つ。
皇帝、皇后なることを望んでいたわけではないが、きっとこうなる運命だった。
「今までで一番緊張してるかも…」
「そうだな」
反対している物はあまり居ないとエデルから聞いている。しかし、これから信頼関係を築いていくためには最初が肝心であり、間違いを起こそうものなら信頼を失いかねない。
「大丈夫、俺達は今日まで念入りに準備してきた。それに心配そうな顔をしていたら、民を心配になってしまうだろう」
「…そうだね、堂々としてないとだよね」
威厳はないかもしれないが、自分達らしく前を向いていよう。
二人は皇宮から庭や街を見渡せるテラスへと移動する。テラスへ出る扉を開けば、下に民が見えるだろう。
(大丈夫…大丈夫…)
この国の人達が優しいことは知っている。ルーペアトも平民として暮らしていたから。
調査をしに来た時だって親切にしてもらえた、だから絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせ、ゆっくりと深い呼吸をする。
「…よし、行こう」
「ああ」
ルーペアトはリヴェスの手を取り前進する。
扉は開かれ、国民の前に初めて最高権力者として姿を現す。
テラスに出る瞬間、手に力が入ってしまったがすぐに脱力した。何故なら視界に入ってきた光景に驚いたから。
「わぁ…」
大勢の国民が皇宮に集まっており、遠くにも居ることが確認できる。
前々から名は公表していたものの、一目見たいと思ってここまで足を運んでくれたのだろう。
そのことがとても嬉しくて胸が温かくなる。
「…皆、この度は集まってくれたことに感謝する。新たにヴィズィオネアの皇帝となったリヴェス・ロダリオだ。知っての通り俺はハインツの人間だが、これからはこの国のため、力の限りを尽くすことをここに誓う」
リヴェスがそう宣言すると国民達は一気に盛り上がりを見せる。
この空気の中、口を開くのは緊張するが、リヴェスが大丈夫だと言うように手を強く握ってくれた。
「皇帝となった彼の妻、ルーペアト・ロダリオです。私はこの国で兵士として育ち、ハインツで彼と出会い、こうしてまたこの国のためになれることを嬉しく思います」
「これからは夫婦一丸となって、従者、騎士、国民と共にヴィズィオネアを繁栄させ、平和で安泰した国を築いていこう」
両陛下万歳と、民は大きな歓声を上げ祝福してくれる。
まだまだ前途多難だと思うが、受け入れてくれたことを嬉しく思う。
二人は微笑みを向け手を振り返した後、部屋へと戻る。今日は夜まで街は大盛り上がりなことだろう。
「はあ〜緊張した…」
「お疲れ様!姉さんも義兄さんも凄く良かったよ」
「そうかな?ありがとう」
エデルに褒められ少し恥ずかしくなる。間違えることもなかったし、好評なようで心から安堵した。
「ノーヴァ、これでお前の願いは叶ったか」
「うん、叶ったよ。リヴェスにはやっぱりこの道が似合いますね。影として生きるには勿体ない」
「そうか、なら良かった」
この時、もっとノーヴァに声を掛けるべきだったと、リヴェスは後で後悔することになる―
挨拶も終わり、これから街へ赴きもっと近くで国民と接しに行く。
より国民や貴族の心情を知ることと、街の状況を把握する視察も兼ねている。
エデルを含め三人で街へと向かった。
「少しずつ建て直しているとはいえ、まだまだ修繕する場所はいっぱいだね」
「ああ。資材も用意して職人を増やし、街を整備する。今一番やるべきことだな」
資材をできるだけ早く集めるには人手が必要だ。仕事に困っている者がその職に就けるよう、色んな場所に張り紙をするのも良いだろう。
「やっとこの国が安定しそうだよ。僕だけじゃ手一杯だったからさ」
街の整備をすることをエデルも考えなかったわけではない。しかし街や国民にお金を使う行為を堂々と行えなかった。
「お金はないし、目立つ行動も取れないし、不満しかなかったよ。本当に」
「それなのに私の故郷に通ってくれてたんだね、ありがとう」
「へへ、姉さんにとって大事な場所は僕にとっても大事だからさ」
三人で語り合いながら街を一通り見た後、皇宮へと帰宅した。
するとウィノラが大慌てで三人の元へやって来る。
「大変なの…!!」
「何があったの?」
「ノーヴァが居なくなったの!即位式が終わってノーヴァと話そうと思ったら、皇宮のどこを探しても姿が見えなくて……」
「そんな?!」
こうなることを予想できなかったわけじゃない。でも即位式が終わってすぐに姿を消すとは思わなかった。
「……俺のせいだ」
最後にノーヴァと会話をしたのはリヴェス。その時ノーヴァの考えていることに気づけなかった。
自分の失態に責任を感じ、リヴェスは探しに行こうとする。
「…行ってくる」
「待って義兄さん!」
しかしエデルがリヴェスを引き留めた。
「側近が一人居なくなったくらいで、即位式の日に皇帝が私情で単独捜査なんて信用に関わるよ。まずは落ち着いて警備部隊に任せよう」
後悔と自分に対する怒りで、強く握っていた拳の力を緩める。
「エデルの言う通りだ、すまない…」
「まだ国から出てないはず。探せば絶対見つかるよ」
ルーペアトはリヴェスに寄り添い励ましの言葉を掛ける。
今日だけはノーヴァの過去に言及せず、めでたく祝う気持ちでいようと思っていたのに。
これではお祝いどころじゃなくなってしまった。
(どうして…、お前は宰相になりたかったんだろう…?俺の側近になるって…)
今朝とは違い、皇宮は静けさに包まれていた。
読んで頂きありがとうございました!
ノーヴァはどこへ行ってしまったのか…
次回は11日7時となります。
先日職場がサイバー攻撃を受け、色々大変なことになりました。現在復旧しております。
うちの会社だけでなく、他の企業でも起きていることや、それにより研修を受けた会社もあると聞きました。
パソコンやスマホをよく使用する身として、気をつけなければいけないなと改めて思います。
皆様も一度端末がウイルスに感染していないか、確認することをお勧め致します。




