第133話 ノーヴァの正体
もう即位式の前日、晴れた気持ちで行うことは出来ないが、ノーヴァのことを考えると即位式を優先した方が良いだろう。
ノーヴァの一番の目的はリヴェスを皇帝にすることだから。
とりあえず今は深く聞かないようにしているが、一つだけノーヴァの口から聞いておきたいことがある。
「ノーヴァ、この質問にだけは答えてくれ」
「何です?」
「俺の両親をかなり憎んでいたとミランから聞いた。お前は直接関係があったわけではなないのに、何故なんだ?」
理由だけでも聞ければ、ノーヴァが悩んでいることに気がつけるような気がして。
「…それは、僕を不幸にした張本人だからですよ。僕だけじゃなく、リヴェスもそうだと思いますけど」
「わかった。答えてくれてありがとな」
「じゃあ僕は仕事に戻るよ」
「ああ、よろしく」
ノーヴァは執務室を出て行った。もしかしたらリヴェスが一人で考えられるように、配慮してくれたのかもしれない。
(不幸にした、か…)
リヴェスとノーヴァが疎遠になった元凶は両親だ。
良い親だったならリヴェスが手に掛けることもなかったし、身分を捨てることもなかった。
でも、ノーヴァが不幸になった理由にこのことは含まれているかもしれないが、別の理由があるだろう。
ウィノラとの結婚を阻む理由が。
わかったことをまとめると、まずノーヴァの身分に問題がありそうなこと。そのせいでウィノラが悪く言われてしまう可能性がある。
次にノーヴァの計画にウィノラを巻き込みたくないということ。計画といえばリヴェスを皇帝にすることらしいが、根本的な計画理由がよくわかっていない。
最後にリヴェスの両親を恨んでいること。なのにノーヴァ自身の両親については何も語らない。亡くなっているとはいえ、何も話さないことに違和感を感じる。
まるでリヴェスの両親がノーヴァの両親のような―
「…っ!まさか…!そういう…ことなのか?」
ノーヴァがリヴェスと同じく皇弟なら、身分に悩むのも理解できる。成り上がった平民と皇弟なら身分差がありすぎるからだ。
計画についてはどう関係があるのかわからないが、両親を恨んでいるなら復讐を考えていてもおかしくない。既にこの世を去っているため、復讐は出来なさそうではあるが。
両親が同じだとすれば亡くなっていることと、不幸になったのはリヴェスも同じだと思う、と言ったことに納得がいく。
そのことにティハルトも気づいていたのだろう。
同じと仮定した時、何故ノーヴァは皇宮で暮らせなかったのか。リヴェスのように忌み嫌われるような色を持っていないのに。
母親はそれでも父親にそっくりなティハルトだけを気に掛けていたのか。
(もしかして、母親が違うのか?)
そもそもリヴェスとノーヴァの血が繋がっているなら、母親が同じではおかしい。じゃないと双子ということになってしまう。
父親が不倫をして生まれた子供がノーヴァなのではないだろうか。
だから名簿が破られていたのかもしれない。父親が母親に見られないように破いたか、後にノーヴァが身分を隠すために破いたか。
ノーヴァの母親が無理矢理に犯された、なんてことだったなら母親の精神が正常とは思えないし、父親のせいで不幸になったことに更に説得力が増す。
今思えば、ノーヴァの瞳は琥珀色だ。ティハルトの橙色の瞳に近い色。
でもルーペアトとエデルはほとんど同じ色なのだ。ノーヴァの母親が琥珀色の瞳だった可能性がある。
(瞳について調べてみるか)
そう思いついたところで、執務室にエデルが入って来た。
エデルに聞いてみるのも良さそうだ。
「リヴェス義兄さん、こっちの準備は終わったよ」
「ああ、ありがとう。一つ聞いても良いか?即位式とは何の関係もないんだが」
「全然良いよ。何でも聞いて」
「ルーとエデルの瞳はほとんど同じ色だが、例えばその水色の瞳がルーより明るかったり、または暗い色で生まれることはあると思うか?」
「う~ん、そうだね…」
かなり難しい質問をしていることはわかっている。これは皇族に関する話ではなく、単に遺伝に関する話だから。
博識なエデルなら何か知っているのではないかと。
「正直に言って、瞳の色は遺伝で基本的に変わることはないかな。目の病気なら色は変わることもあるし、歳を重ねるに連れて色が薄くなったりするよ。後、瞳孔の大きさによって色の見え方が少し変わるから、場所によっては同じ色に見えるかもしれないね」
エデルはわかりやすいように説明してくれた。本当に何でも知っている。たくさん本を読んだりして勉強したのだろう。
「こんな質問に答えてくれてありがとう」
「どういたしまして。あの人に関する話でしょ?姉さんも頭を悩ませてるし、早く解決できると良いね。僕はこういうことでしか助けになれないから」
「エデルには仕事の面でも十分助かってる」
「そう言ってもらえて嬉しいな」
リヴェスとノーヴァの父親が同じことはほぼ確定だろうから、このことをルーペアトとウィノラに伝える必要がある。
「俺はルーの所に行くが、エデルも来るか?」
「僕は明日に備えて休もうかなぁ」
「そうか、ゆっくり休んでくれ」
エデルとは執務室の前で別れ、リヴェスはルーペアトの部屋に向かう。
部屋に入るとちょうどウィノラも居て、呼ぶ手間が省けた。
「どうしたの?」
「ノーヴァについてわかったことがあるから話に来た」
「そうなんだ」
「確実とはまだ言えないが俺とハルト、そしてノーヴァは血が繋がっていると思われる」
「「えぇ!?」」
ルーペアトとウィノラは目を大きく見開きながら驚愕する。
それもそうだろう。衝撃的な話な上、そう思い至った経緯も話していないのだから。
「ノーヴァも皇弟ってこと?」
「だ、だから私と結婚も難しいの?」
「今はそうだな。昔なら俺が第二皇子でノーヴァが第三皇子になる」
歳は同じでも生まれたのはリヴェスの方が先だからだ。母親が違うとなると、また複雑になる部分ではあるが。
それからリヴェスはその考えに至った経緯を二人に話した。
「なるほど、衝撃過ぎて言葉が全然出てこない…」
「うん…、ノーヴァはずっと一人でそのことに悩んでたんだね…」
「ノーヴァに話をするのは即位式が終わってからにしよう。それがノーヴァの望みだから」
「わかった。今日と明日は即位式に集中して、考えないようにするよ」
「私も、それまでにノーヴァに伝えたいこと整理しておく…!」
数々の疑問がなくなったから、頭はすっきりしている。晴れた気持ちとは言えなくても、それに近い気持ちで即位式を行えそうだ。
読んで頂きありがとうございました!
投稿が遅くなってしまい本当に申し訳ありませんでした。
執筆中に寝落ちした上に、下書きも消えてました( ;´꒳`;)
GWが終わるまでは仕事の繁忙期が続くため、それまでは"隔週日曜の連載"にしようと思います。
1週間の間が空くので、そのどこかでまとまった時間がとれるだろうという考えです。
なので、次回の投稿は27日7時になります。




