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第13話 庭の手入れは大変です

『……ただの人殺しだよ―』


 そう確かに聞こえたのだ。

 リヴェスは屋敷に戻ってからも、その言葉の意味を考え続けていた。


(あれはどういう意味だ?)


 多くの兵を殺したから人殺しだと言っているのか、それとも別の意味があるのか。

 例えばその英雄を見たことがあるとか、又はルーペアトが英雄だからなのか、同じ思考が頭を回るも答えは浮かばない。


 リヴェスもヴィズィオネアの英雄の話はよく知っている。

 長らく戦争が続いていたにも関わらず、三年前に当然現れた英雄の手によって一瞬で終戦してしまったこと。

 太陽の光に照らされる英雄を見た者が、赤髪で水色の瞳だったと証言している。ただ、性別はわからないらしい。それでもヴィズィオネアでは基本的に男が兵士になって、女は兵士を支える役割だ。

 だから英雄は男なのではないかと予想されている。けれども、ヴィズィオネアに女剣士が居たという情報はあった。


(ルーが英雄ならハインツに住んでいるのはおかしいか…)


 しかし、英雄が生まれたのは三年前、ルーペアトがデヴィン伯爵家の養子になったのも三年前、これは果たして偶然なのだろうか。

 英雄はすぐに姿を消して終戦以降、姿を現していない。その理由が隣国のハインツで暮らしているからだとすれば、ルーペアトが英雄だという可能性が高くなる。


(赤髪に見えたのは血を被ったルーの金髪がそう見えたのか?)


 大勢居る兵士を殺したのだから全身に血を浴びているはずだ。加えて太陽の光も当たっていたなら金髪が赤髪に見えてもおかしくない。


 それに、少年が英雄の見た目について話していた時、ルーペアトは目を見開いて反応していた。

 英雄ではなかったとしても、英雄について知っていることは確かだ。


(…英雄に会えるなら、会ってみたいな)


 ヴィズィオネアの英雄は、リヴェスが尊敬している存在だった。国のために戦った英雄は誇り高き剣士で、国民からも支持されている。


(俺とは違う…)


 結局答えは出ず、ルーペアトが英雄なのか気になるがリヴェスは仕事に戻ることにした。





 翌朝から、早速ルーペアトはハンナと庭の手入れをし始める。土をいじったり、草を刈るのは懐かしくて楽しい。


「やはり鎌の扱いも上手ですね」

「そうかな。私は剣で切った方が早いと考えてしまうけど」

「お嬢様らしいです」


 一束ずつ刈るよりも、長い剣で何束かまとめて切ってしまった方が早い気がするのだ。しかし、好きにして良いと言われていてもリヴェスの土地だからそんな雑には出来ない。

 少しずつ時間を掛けて丁寧に庭を整えていく。


「…広いね」

「そうですね。終わりが一向に見えません」


 数時間草を刈り続けても庭の半分にも満たない。温室を作る予定地を除いても半分もいかないとは、本当に広すぎる。

 以前散歩をしていた時は気づかなかったが、今見てリヴェスがここに来てから日が浅いと言っていたのがよくわかった。

 これはリヴェスが来て以降、一度も庭の手入れをしていない。元からいくつか花が咲いていたから少しは手入れされていると思っていたのだが、違ったようだ。


「温室が出来たら庭師をもっと雇われると思います」

「そうだと良いね」


 その後も休憩を挟みながら草を刈ったり、土を解したりしてブルースターを植える準備をしていく。

 昼を過ぎたくらいで、休憩中なのかジェイが庭の様子を見に来た。


「調子はどうですか?」

「全然進みません…」

「結構広いですからね…。暇が出来たら今度リヴェスも連れて手伝いますよ」

「ありがとうございます」


 男手が増えてくれるのは嬉しい。仕事の合間にさせてしまうのは申し訳ない気がするが、リヴェスの土地だし本人にも手を加えてもらった方が良いこともあるだろう。


「そういえば、リヴェスはここの屋敷に来てからどのくらい何ですか?」

「二年前くらいですね」


(日が浅いで二年前…?)


 思ったより最近じゃないことに驚いて呆然としてしまった。確かに二年間放置していたら、庭の雑草もこれほど生えていてもおかしくないが。


「今はルーペアト様が居るから毎日帰っているだけで、始めの頃はあまり帰って来なかったんですよ。だから使用人も少なくて色々放置状態だったので…。ルーペアト様が来る前に片付けて、これです……」

「…なるほど」


 ルーペアトが口に出さなくても思っていたことがジェイに伝わっていたみたいで、こうなった理由を細かく説明してくれた。

 あまり帰って来なかったというのは、前の家に帰っていたからなのか、仕事で家に帰ることが少なかったのかどちらなのだろう。


「前はどこに住んでいたのですか?」

「あーそれは…、僕からはお伝え出来ず、申し訳ありません」

「謝る必要ないですよ!私が聞いたばかりに…」

「いえいえ。僕からは言えなくても、リヴェスに聞けば答えてくれると思います」

「わかりました」


 確かに側近であるジェイが、この屋敷移り住んで来た日は言えても、前住んでいた場所という情報は主人の身のためにも話すわけにはいかないだろう。

 ルーペアトがデヴィン伯爵家の養子になった日は言えても、その前はどうしていたのか答えられないのと同じだ。

 夫婦と言っても、言えない秘密はお互いにあるだろう。


「あ、そうだ!以前ルーペアト様の恩人を名乗る男が来た時、僕の剣の腕を見てルーペアト様はどのように感じましたか?」

「それを私に聞くんですか?」

「はい!是非聞かせて下さい」


 剣を扱えることを知られてからずっとこの調子だ。屋敷の人達が凄いだとか、見せて欲しいとか、色々聞かれた。

 令嬢が剣を振るうなんてと蔑まれるよりかは全然良いが、見せびらかす様なことはあまりしたくない。

 それでも今のジェイのように皆して子犬の様な目で見てくるから断りづらく、結局承諾してしまう。


「…やっぱり大国ハインツの騎士でリヴェスの側近ですから、とても剣筋が良かったです。身体もちゃんと鍛えられていて剣速もありますから、私は相手にしたくないですね。あの時は相手が自分より弱いとわかっていたからか、隙があったのでジェイが本気で戦っているところを見てみたいと思いました」


 思っていたことを全て口に出してしまった。ルーペアトよりもジェイの方が剣を扱っている時間が長いはずだ、下の人間がこんなにもわかったように言って大丈夫なのかと不安になる。


「細かくありがとうございます!リヴェスが許可してくれたら僕としてはお手合わせして欲しいくらい」

「さすがに私が負けますよ…」

「わかりませんよ?ルーペアト様は小柄ですから動きも早いでしょうし、それに反射神経や動体視力が僕の方が劣っている可能性もありますし」

「過大評価し過ぎでは…」


 不安に思っていたことは問題なかったが、ジェイはまだルーペアトが実際に剣を振っているところを見たことがないからか、かなりジェイの中でルーペアトは高く評価されてしまっている。

 今度は思っていたより弱かったとか、失望されないか不安になりそうだ。


「そろそろ仕事に戻りますね!ルーペアト様と手合わせ出来る日を心待ちにしてます」

「お仕事頑張って下さい」

「はい、では!」


 ジェイは手を振りながら屋敷の中へと戻って行った。

 話して休憩が出来たことだし、ルーペアトは庭の手入れを再開する。


(私も頑張らないと…!)

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。

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