第129話 やっと気づいた気持ち
ハインツに居たウィノラはルーペアトからの手紙を受け取り、自室に籠もって早速封を切る。
もしもノーヴァについて悪い話だったらどうしようと、不安な気持ちもありながら手紙を開く。
ノーヴァはリヴェスに話せない程の大きな悩みを抱えている、そしてウィノラのことを嫌いになったわけではないと綴らていた。
商会に近づかないように言ったのは危険だからだったと。
(良かった……)
そのことに心底安堵する。昔からずっと一緒に過ごしていたのに、急に突き放されては誰しも不安になるだろう。
ノーヴァに突き放されて、ほぼ毎日顔を合わせていたのに、それも今はない。
即位式が終わるまでは会えないし、会いに戻って来てくれるのだろうか。
色んな考えが過って寂しさが一気に込み上げてくる。
(私…ずっとノーヴァに甘えてばっかりだった…)
頼めば何でもしてくれたし、頼んでなくてもあれこれしてくれていたから、それが当たり前になってしまったのだ。
ノーヴァと離れて初めて気づいた。ノーヴァが自分にとって、とても大切な人だったことを。
何でもしてくれるからじゃない、友人としてずっと側で支え続けてくれて、あんなにも自分のことを想ってくれていたのに。
(こんなに長く一緒に居たのに、私は気づいてなかった……)
ノーヴァが抱えていた恋心も、悩みも、何一つ。
呆れて離れられてしまってもおかしくない。もう恋心だって残っていない可能性だってある。
それでもここで待っているだけじゃ何も変わらない。何かをしてあげることも、本心だって聞くことができない。
ウィノラは勢いよく立ち上がり、急いで両親の元へ向かう。
扉を開け、ウィノラは大きな声で宣言した。
「私、ヴィズィオネアに行きます!!」
「え?!なっ…ちょっと待つんだ。あいつに何か言われたのか?」
「違うよ。私が行きたいの、行かなきゃ駄目なの」
「だがな…」
「後悔したくないの。お願いします」
両親が心配しているのはわかってる。今はノーヴァも居ないし、仲良くなった衛兵しか居ないから危ないこと。
一人で行くのは怖いし不安だけど、ノーヴァが居ない未来の方が怖い。
だからウィノラは両親に深々と頭を下げてお願いした。
「ねえあなた…、ウィノラがここまで言うのは滅多にないし、行かせてあげたら?」
「う~ん……」
リオポルダ男爵家は成り上がり貴族だから使用人も少ないし、腕の良い騎士を雇えるほどの財力がなかった。
それをわかっていたノーヴァがいつも、商会の腕が立つ衛兵をつけてくれていたのだが。
「じゃあ信頼できる人が護衛についていたら良い?」
「そうだな…だけどそんな人は…」
「私が頼みに行ってくる」
「ウィノラ?!」
部屋を出て真っ先に向かった先は外だ。そのまま馬車に乗り込みウィノラは皇宮へ向かった。
本来こんなことを頼んではいけないけれど、ルーペアトは即位式の準備で忙しいだろうから頼り過ぎるのは良くない。
きっとノーヴァが残してくれた衛兵だけだと父は納得してくれないだろう。行き先がヴィズィオネアだから。
数十分と馬車に揺られ、皇宮へ到着した。
馬車から降りて門番に声を掛ける。
「ウィノラ・リオポルダです。突然の訪問ですが、陛下にお会いすることはできますか?」
「確認してきます」
一人の門番が皇宮の中へと入って行き、少しして戻って来る。
「許可が下りましたので、どうぞお通り下さい」
「ありがとうございます…!」
ウィノラは門番にお礼をして皇宮内へ入って行く。一人で皇宮に来たのは二度目だが、今日は前より緊張していない。
今なら何だって出来る気がするほど意欲が湧いている。
執務室の扉を軽く叩き、「どうぞ」と聞こえたところで扉を開ける。
「パーティー以来だね、元気にしていたかな?」
「はい、身体はとても元気です。今日は突然の訪問に関わらず、通して頂きありがとうございます」
「僕は君が来ると思っていたよ。リヴェスから話を聞いていたんだ」
「そうなんですね…」
ノーヴァのことはリヴェスがティハルトに伝えていた。この二人の連絡は早馬で送り合っているため、届くのが早いのだ。
「ノーヴァの話だよね?」
「はい。本当に不躾なお願いで申し訳ないのですが、ヴィズィオネアに行くための護衛を貸して頂けませんでしょうか…?」
「うん、良いよ」
「難しいですよね…―えぇっ!?」
まさかの二つ返事で了承されるとは思わず、大きな声を上げてしまった。
「本当に良いんですか…?代わりにな、何をお望みでしょうか…?」
「そんなに不安そうにしないで。君はルーとイルゼの大切な友人だからね」
「でもそれだけでは釣り合わない気がします…」
ルーペアトとイルゼの友人だからという理由だけで手助けするにしては、ティハルトに掛かる負担が大きすぎる。
「君に一つお願いはあるよ」
「は、はい!何でもお聞きします…!」
「彼と仲直りして、悩みを解決すること」
「それだけ…ですか?」
「うん。僕は彼の素性が知りたいからね。要するに彼のことを調べてほしいんだ」
「なるほど…?わかりました。本当にありがとうございます!」
こんなお願いを聞いてくれるなんて、本当に良い人だと感動した。ハインツで生まれて良かったと、今までで一番強く思う。
ルーペアトやこれまでの出会いに感謝しなければ。
「最後に聞いておきたいんだけど、ノーヴァの両親について何か知ってることはあるかな?何でも良いんだけど」
そういえばルーペアトからの手紙にも、同じことが書いてあったような気がする。
ノーヴァの悩みに関係しているのだろうか。
「実は私も知らなくて…力になれずごめんなさい」
「そっか、何かわかったら向こうでリヴェスに知らせてくれるかな?そうすると僕の方にも連絡が来るから」
「わかりました!」
「じゃあ彼のことよろしくね。護衛も向かわせておくよ」
「はい!ありがとうございました、失礼します」
ウィノラは何度も深々とお辞儀をして執務室を出て行った。
それからティハルトは廊下に出て近くに居た騎士に声を掛け、騎士を数人ウィノラの護衛に当たらせるよう指示を出す。
執務室に戻ったティハルトは一つの本を手に取る。
ノーヴァが生まれた年の国民の名が載った名簿だ。
この名簿にノーヴァの名前はない。
そして一枚破られた跡がある―
「これを破ったのは彼なのか、別の者なのか。僕の予想が正しければ、とんでもないことになるね…」
リヴェスがこの衝撃な事実を受け止められるのか少し心配だが、ルーペアトが側に居る今のリヴェスなら大丈夫だと信じて。
ティハルトはハインツから見守ることにする。
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次回は30日、日曜7時となります。




