第126話 ノーヴァの恋心はどこへ
ノーヴァが来る予定の前日、夜に皇宮へウィノラから手紙が届いた。
暫く会えないから寂しくなって手紙を送ってきてくれたのかと思いながら封を開けると、衝撃の内容が記されていてルーペアトは思わず声を出して驚く。
「えっ!何で?」
ウィノラはノーヴァと少し言い合いになったようだ。喧嘩かと思ったが、ノーヴァが一方的にウィノラを突き放したらしい。
最後まで読み進めて要約すると、ノーヴァが商会にほとんど関わらなくなるから、ウィノラは商会に今後一切来ないよう告げられ、そのままヴィズィオネアへ行ってしまったということだ。
手紙には泣いたのか涙の跡まであり、今すぐ会って抱き締めてあげたい。
(…ノーヴァが居ないから商会は危険ってこと?)
ウィノラを守るためにそういった行動を取ったのだろうか。しかし、これまでのことを思い返すと、ノーヴァは今までウィノラに説明していることが多かった気がする。
危ないとか、怪我をさせたくないとか、だから前回もノーヴァ一人でこちらに来ていたのに。
(ウィノラが好きで、想いも伝えるって言ってたのに…どうして…)
今すぐリヴェスにこのことを伝えたかったが、時間が遅いため明日の朝話すことを決め寝台で横になるも、疑問と心配の気持ちでいっぱいになりよく眠ることができなかった。
翌朝、見た目を整えてから急いでリヴェスの元に向かいウィノラのことを話す。
リヴェスはルーペアトが朝から慌てていたことに驚いていたが、最後まで静かに話を聞いてくれていた。
「―って書いてあって…」
「そうか…、ルーの考えている通り彼女を思って遠ざけたんだろう。ノーヴァも敵が多いからな、商会から居なくなって彼女が標的にされてもおかしくない」
「…そうだね」
「だが理由も話さず、彼女と距離を取ったことが気に掛かるな。こっちに来たら聞いてみよう」
「うん」
それから数時間、準備をしていたらジェイからノーヴァが到着したと知らされ、二人は玄関へと向かう。
ノーヴァはどんな顔をして皇宮に来るのか、緊張して待っていた。
「お出迎えですか、お久しぶりですね。元気でしたか」
「ああ、元気にやれてる。お前は…元気がなさそうだな」
「うん?そう見えます?普通ですよ」
ルーペアトは普段と変わっていない様に感じたが、リヴェスはそうではないようだ。
昔からの友人だからこそわかることがあるのだろう。本人は普通だと言っているが。
「ルーから聞いたが、彼女と色々あったんだろ?」
「あぁ〜、ウィノラが手紙を書いたんですね。色々あったなんて、ただ商会から遠ざけただけですよ」
「でもウィノラは突き放されたって言ってたけど?手紙には涙の跡もあったんだから」
涙と聞いてノーヴァは少し反応を見せた。ウィノラへの好意がなくなったわけではないのだと安堵した時、ノーヴァは衝撃の言葉を口にする。
「だから何です?」
「…は?だからってウィノラが泣いて―」
「僕はウィノラの恋人ではないので、泣いている時に抱き締めてあげられませんけど」
「それは…」
「こちらにも事情があるんですよ。二人は今自分のやるべきことに集中したらどうですか?」
そんな冷たい言い方をするなんて思わず、二人は言葉を失ってしまった。
事情があるのもわかってるし、即位式に集中しなければいけないのもわかってる。でも、大切な友人が悲しんでいるのに、見て見ぬふりをしてこのまま準備を進めるなんてできない。
「それでも友人が悲しんでいるんだから、力になりたいと思うのは当然でしょ…?!」
「じゃあ慰めてあげたら良いのではないですか?」
「言われなくてもそうするよ。けど、ノーヴァが悲しませてるんだから、何か言ってあげるべきでしょ!」
「…それができたらどれほど良かったでしょうね」
「え…」
ウィノラを悲しませたのはノーヴァなのに、どうしてノーヴァが辛そうな顔をするのか。
私達が想像していたよりも、複雑な事情なのかもしれない。力になりたいのに、これ以上踏み込むなとノーヴァがそう言っているような気がした。
「それより、早く準備始めますよ。リヴェスに頼まれてた職人も商会の伝手で連れて来ましたから」
「あ、ああ…助かる」
ノーヴァは先に一人で執務室の方へ歩き始めて行く。
残された二人はノーヴァのウィノラに対する変わりように、上手く言葉が出ずにいた。
「…大丈夫か?」
「うん…」
「また夜に話そう。仕事中に探りをいれてみる」
「ありがとう」
心配そうに見つめるリヴェスを見送り、ルーペアトは重い足取りで自室へと向かう。
(ミランの件が終わったら、ウィノラとノーヴァはすぐ結ばれると思ってたのに…)
まさかイルゼとティハルトが恋人になる方が早いと思わなかった。
ウィノラは自覚していないだけでノーヴァに好意を持っているだろうし、ノーヴァはウィノラをあれほど溺愛していたのだから。
絶対に壊れないと思っていた二人の関係にひびが入ってしまうなんて。
想いを伝えられない理由に両方の親が関わっているのだと考えている。
ウィノラの両親は過保護で、成り上がり貴族だからあれこれ言われてしまっていることも心配で仕方がないらしい。
婿選びも大変慎重なのだろうか。
(逆にノーヴァの両親はどう思っているんだろう?)
ノーヴァも貴族だろうし、平民出身の令嬢との結婚を認めてもらえない可能性がある。
もしかしたら、ウィノラの両親ではなく自分の両親が関わっているとか。
読んで頂きありがとうございました!
次回は20日木曜7時となります。




