第125話 公務から準備まで大忙し
皇宮へ到着したその日はゆっくりと過ごして身体を休め、次の日から本格的に準備や仕事が始まった。
まだ即位していないが、公務はリヴェスとルーペアトが先導していかなければならない。
「なるべく早く即位式を開かなければ、次の皇帝と皇后が決まっていても、今の状況は国民も不安だろう。だが、環境や街を整備することをできるだけ優先したい」
「リヴェス義兄さんの意見には賛成だよ。でも皆今まで同じ造りの家ばかり作ってきているから、腕は良くても今より頑丈でしっかりした家を作るのは難しいね。職人達に教えるところから始めないといけない」
「そうか…悩ましいな」
ハインツから職人を連れてきて指導させることは可能だが、ハインツのやり方でヴィズィオネア染めたくはなくて、ヴィズィオネアらしさを残したい。
多く居る職人に建設方法を教えるのも、数々の家を修復するのも、資材を集めるにもかなり時間を有する。一ヶ月は掛かってしまうだろうか。
「先に即位式を済ませた方が良いな。同時進行で準備を進めていれば、即位式の準備が先に終わるだろう」
「その方針に決定だね。じゃあ僕は貴族達にこのことを伝えてくるよ」
「ああ、気をつけて」
「いってらしゃい」
本当にエデルは頼りになる。誰かさんは皇宮にも来ないし、連絡すらない。どこで何をしているのやら。
それぞれ役割を決めて準備を進めるが、ルーペアトには早々問題が起きた。
「即位式で着る衣装を作りましょう」
そうハンナに告げられルーペアトは動きが停止する。
(また衣装…)
ついこの間作ってもらったばかりなのに、また作らなければならないのかと。
服なんて数着あれば一年を過ごせるのに、イベント毎に衣装を新調するなんて勿体ないと感じてしまう。
「今回は皇后としての威厳を示すため、これまで以上に派手でなければなりません」
「えと…つまり、宝石もいっぱい付けて布もたくさん使うってこと…?」
「勿論です」
ルーペアトは意気消沈して肩を落とす。
貯金があるとはいえ、そのお金は国を良くするために使いたいのに、衣装にお金をかけなければいけないとは不本意だ。
仕方のないことのだが、やるせない。
「街でお金を使えば、それだけ国民が豊かになります。貴族がお金を使って経済を回していかなければならないのです」
「そっか…そうだね。商品が売れてお店が儲けていないと、お店を閉めないといけなくなって仕事も失っちゃうもんね」
「はい。ですから街でたくさんお金を使いましょう」
貴族、皇族として、有り余ってしまっているお金は気兼ねなく使っていこう。
自分のためではなく、国のために。
そう思うと俄然やる気が出てきて、衣装を考えるのが捗っていく。ハンナと一緒に考えれば、良いものが出来ること間違いなしだ。
数時間経っていることに気がつかないほど没頭して製作に励み、いつの間にか夕食の時間になっていた。
「もうこんな時間?!食堂に行かないと、二人共待ってるかも…!」
「いってらしゃいませ」
ルーペアトは急いで食堂に向かっていた途中で、リヴェスと出会う。
「もしかして呼びに来た…?」
「ああ。だが全然待っていないからそう急がなくても大丈夫」
リヴェスはルーペアトが待たせてしまったのではないかと、心配していた気持ちを察してフォローしてくれた。
それに、エデルも気を遣ってリヴェスに呼びに行くよう言ったのだろう。
「ありがとう。衣装に夢中になっちゃって」
「それは良いことだな。どんな衣装にする予定なんだ?」
「やっぱりヴィズィオネアは金色が皇族の証みたいだし、衣装や装飾品も金をたくさん使おうって話になったの。使い過ぎると派手だし眩しいから、調整が難しいところだけど頑張るよ」
「調子が良さそうで何よりだ。完成楽しみにしてる」
食堂に着くとやっぱりエデルは座って待っていた。
「待たせてごめんね」
「気にしないで!姉さんを待つのは好きだから」
「そう?ありがとう」
エデルは今までルーペアトに会えなかった分、待っていれば必ず来るという確信がある今は、その待っている時間も好きらしい。
二人も席に座り食事が始まったところで、リヴェスが話を切り出した。
「ノーヴァが二日後に皇宮へ来ると連絡があった」
「あの人やっと来るんだ」
「もっと早く連絡してくると思ってた。リヴェスの宰相になりたいとか言ってたのに」
「商会の後継者を探すのに手間取っていたのかもしれないな」
ハインツでは大きな商会だし、新聞も発行しているから、そんなすぐに辞めることが出来ないのだろう。
とにかく落ち着いたのならよかった。
「私の方も連絡は来てないし、ウィノラは一緒に来ないのかな…。ノーヴァが忙しかったなら、ウィノラとの関係も進展してなさそうだし」
「今回はノーヴァ一人だろうな。婚約や、彼女がこちらに来ることに関しては、恐らく両親の許可が出ないのだろう」
「そういえばウィノラの両親は過保護だって言ってたな」
早くウィノラに告白すれば良いのにと思っていたが、そういう事情があったのかと少し申し訳なく思う。
まあ、両親に許可されないノーヴァに問題がある可能性もあるが。
「あの人も大変なんだねー。僕は結婚なんてしないけど」
「しないの?」
「だって今こうして暮らすことが僕の幸せだし、姉さん達の子と継承権争いはしたくないでしょ?」
「う〜ん…、私はいつでもエデルの意思を尊重するよ。例え結婚して子供が生まれてもね」
どちらにも子供が生まれたら、貴族達がどちらかにつくことになって派閥争いが起こるけれど、そうなった時はどうにかすれば良い。
自分の子供が皇帝になりたくないと言うかもしれないし。平和に楽しく暮らせるのが一番だ。
読んで頂きありがとうございました!
次回は16日、日曜7時となります。




