第124話 これから過ごす皇宮へ
必要な物は全て運び終わり、いよいよ屋敷を出発する時がやってきた。
「暫くさよならだね…」
「そうだな…」
準備をしている間も寂しかったけど、いざ離れる時が一番切なくて胸が苦しい。
庭の花たちは庭師に任せることになったが、自分でお世話出来ないのも、様子を頻繁に見に来られないのも、リヴェスと共にヴィズィオネアを治めると決めた時から、わかってはいたけれど辛いところだ。
「いつまでも寂しがってはいられないね」
「ここが俺達にとって第一の家で大切なことに変わりない。それでも皇宮が第二の家として、ここの様に大切な場所になると良いな」
「うん、だね!」
二人は馬車に乗り込み、小さくなっていく屋敷をただただ静かに見つめていた。
(行ってきます)
騎士や使用人達を含めて大移動をしているため、ゆっくり森の中を進んで行く。
この人数では宿に泊まることも、野宿することも難しいことから、交代で馬車を走らせたり食事の用意をすることになっている。
勿論、ルーペアトも料理を手伝ったり、剣を携えて見回りをしたりしていた。
何か起こることもなく、自然を感じられる平和な時間に、心が安らいでいく。
(空気が澄んでる…)
深呼吸をして綺麗な空気をたくさん吸いながら歩いていると、少し離れたところに居たリヴェスが近づいてきた。
「ルー、馬に乗らないか?」
「馬ですか…」
「俺の馬だからノーヴァと乗るより、乗り心地が良い。それに、何があっても絶対離さないから」
初めて馬に乗った時がノーヴァとだったため、ハンナと乗った時も急いでいたのもあり、馬は少し苦手意識を持っていたが、リヴェスとなら大丈夫という安心感がある。
「そうだね、ありがとう。リヴェスの馬は黒馬だったよね?」
「ああ」
リヴェスの馬が居るところまで案内してもらう。
以前ハンナと一緒にリヴェスを追いかけた時、商会でリヴェスの馬を見たことがあった。
「ハーディだ」
「良い名前ですね。それに毛並みも綺麗」
辺りは暗く光は月明かりだけだが、毛並みがちゃんと整えられているのがわかる。
リヴェスのことだから愛情を持ってお世話をしているのだろう。
撫でると喜んでいるのか、気持ち良さそうに鳴いた。
(触っても気持ちいい…)
撫でるのに満足した後、リヴェスは馬に跨りルーペアトに手を差し出す。
もう三度目だし、リヴェスが手を引いてくれているのもあって、簡単に馬に乗ることが出来た。
「凄く安定してる…!」
「そうだろう?」
走り始めたばかりでも、乗り心地が良いのがわかる。乗馬とは本当はこういうものだったのかと感動してしまうほどだ。
「少し速くなっても大丈夫か?」
「うん、ハーディなら大丈夫」
「なら良かった」
速くなっても身体が大きく揺れることもなく、リヴェスがしっかり腰を支えてくれているから安定している。
今までは手綱をしっかり握っていないと、落ちてしまいそうで強く握り締めていたが、軽く握っているだけでも問題ない。
「風が気持ち良いね。乗馬が癖になりそう」
「いつでも言ってくれたら良い、ハーディも喜ぶ」
「ありがとう」
「本当はルーの初めては俺が良かったんだがな…」
仕方がないがノーヴァに先を起こされ、二度目もハンナに取られてしまったのだから。
まだリヴェスはノーヴァに一番を取られたことを根に持っているようだ。
「リヴェスと乗っている時が一番良いよ。ノーヴァとはもう二度と乗りたくない」
「ハハハ、そうだな。ノーヴァには今後、リオポルダ男爵令嬢以外乗せないように行っておく」
「うん、そうしておこう」
多分ノーヴァも乗馬が下手なのではなく、ウィノラじゃないから少し荒かったんだと思いたい。
朝になりようやく門が見えて来た。
既に話が通っているため、前回のように招待状などを見せるまでもなく通過していく。
街並みはそれほど変わっていないため、改めて住みやすい街に改善していくところから、始めていかなければと強く思う。
税や給金も見直さなければいけないし、当分はリヴェスの貯金を切り崩すことになるはずだ。
リヴェスもルーペアトも、お金はほとんど使わない性格だったことで、お金はかなり貯まっている。
有効活用が出来てむしろ良かった。
「もうすぐ皇宮だな」
「うん。皆どうしてるかな?」
皇宮付近の整備されている街中を通り越し、皇宮の敷地まで入って来た。
玄関の前でエデルが大きく手を降って迎えてくれる。
馬車が止まり、降りた二人はすぐにエデルに駆け寄った。
「姉さん、リヴェス義兄さん、おかえり!」
「ただいま、エデル」
「特に問題はなかったか?」
「大丈夫だよ!ねえ、お腹も空いてるよね?朝食も準備しておいたから一緒に食べよう」
「ありがとう、楽しみ」
エデルは二人の手を引いて皇宮の中へと入って行った。
移動後で疲れているから、今日は皇宮でゆっくり過ごすことにする。
疲労や体力を回復させるのに良い料理がたくさん並べられており、三人はお互いの話をしながら楽しく食事をして朝を過ごした。
読んで頂きありがとうございました!
次回は13日木曜7時となります。




