第123話 突然の吉事に大混乱
翌日からヴィズィオネアへ行く準備を再開し、必要な物を荷馬車に積んで先に運んでもらうことになっている。
屋敷内は必要最低限のものだけになり、すっかり寂しくなってしまった。
(…一ヶ月は帰れないかな)
ここには思い出が詰まっているから、ヴィズィオネアの皇宮で過ごすことになっても、家はこの屋敷だけだ。
ルーペアトの実家は住む人が居なくなって長年放置されていたため、老朽化など安全ではないと判断し、建て直す計画をしている。
ずっと残しておくより、未来のために土地を活かした方が国と国民のためになるから。
準備は一段落ついたが、ルーペアトにはまだやることがある。
実はデート前日、皇宮から手紙が届いていたのだ。送り主はティハルトではなくイルゼだった。
その日ルーペアトは花を調べるのに夢中で手紙を読んでおらず、翌日帰ってから読んだ時は焦ってすぐ手紙を送ることに。
ルーペアトがデートに行った日が、イルゼがヴィズィオネアに帰る日だったのだ。
帰る前に話したいことがあったとのこと。もう帰ってしまったのかと思ったが、返信がなかったのとティハルトが使者を送ってルーペアトが不在だと知り、滞在期間を延ばしたそうだ。
(イルゼには悪いことしちゃったなぁ…)
まだ手紙を読んだり送る癖がついていないから、今後は気をつけていきたい。
そんなことがあって、今日イルゼが屋敷に来ることになった。手紙に書いてあった時間に外へ出ると、少ししてからイルゼの乗った馬車が門の前で止まる。
「ごきげんよう。外で待たなくてもよろしかったのに」
「待たせないようにと思って…。手紙読んでなくてごめんなさい」
「良いわよ、むしろ読んでなくて良かったわ。デートは楽しめましたの?」
「うん、凄く楽しかったよ」
手紙を読んでいたらデートは止めて屋敷で過ごしていただろう。だからイルゼは二人の時間を邪魔することにならなかったことに、却って安心したらしい。
「そう、また聞かせてね」
「もちろん。屋敷で話す時間はないの?延ばさせてしまったから、すぐ帰らないといけなくなっちゃった…?」
「準備が大変でしょうから、あまり時間を取らせたくないの。私はただ一つ直接話したいことがあったから来ただけよ。用がなければ来ませんでしたわ。また数日後には頻繁に顔を合わせるんだもの」
「それはそうだね…」
こちらの都合ばかり気にしてもらって申し訳ない。イルゼだってシュルツ公爵令嬢として準備があるだろうし、両親だって心配しているはずだ。
長話をして引き止めるのは駄目から、イルゼの話が終わり次第すぐにお別れをしなければ。
「そんなことより、私の話だけど。私…、ティハルト陛下と婚約することになりましたの」
「…え!婚約!?ど、どういうこと?」
「どうしてそんなに驚いてるのよ…。あなたはこうなることを望んでたじゃない」
「そうだけど…」
話が予想外過ぎて思考がまとまらない。確かにティハルトとイルゼはお似合いだし、くっつけば良いのにと思っていたが、まさかこんなに早くなるとは思いもしなかった。
「お、おめでとう。…何があったの?」
「あの翌日の朝に色々ね。詳しいことは四人揃った時にしましょう」
「色々…、凄く気になるけど、そうだね。ゆっくり話せる時にお互い話そう。それに、ウィノラも聞きたいだろうし」
「そうね」
これでウィノラだけ相手が居ない事態になってしまった。ノーヴァは好機を窺っているのかもしれないが、なるべく早い方が良いと思う。
本当、どうしてすぐにプロポーズしないのか。
「ではまた皇宮で会いましょう」
「うん、またね」
イルゼは馬車に乗って颯爽と帰って行った。
「・・・リヴェスに知らせなきゃ…!」
まだ頭が混乱している状態だが、とにかくリヴェスに話さなければという一心で執務室に向かう。
その道中で少しずつ落ち着きを取り戻してきたが、改めてとんでもないことになったと実感する。
友人が義兄の嫁になるのだから。
執務室に着き、扉を開け入って来たルーペアトを見たリヴェスは驚いて目を見開く。
「何かあったのか?」
誰が見ても急いで来たことがわかる見た目で、事件でも起きたのかと心配になり、席を立ってルーペアトに近寄る。
「ーイルゼが…、イルゼがお義兄さんと…婚約するんだって…!」
「ああ、喜ばしいな」
「え」
「ん?」
リヴェスがあまりにも落ち着いているから、ルーペアトは再び混乱する。
兄が婚約すると聞いたら、普通もっと驚いたりするものではないだろうか。
(まさか…)
「…知ってたんですか?」
「そう、だな。ハルトから手紙がきていた」
「いつ?」
「一昨日だ」
(イルゼの手紙が来た日と同じだ…)
同じ時に手紙を書いて、一緒に送ってきていたというわけだ。
ルーペアトは意気消沈してガクリと膝をつく。
「そうだったんだ…」
「シュルツ公爵令嬢が直接ルーに話したいと、それまでは秘密にしておくようハルトに言われてだな…。知らせに来てくれたのにすまない…」
「リヴェスは悪くないよ、私が早とちりだった。よくよく考えれば、お義兄さんがリヴェスに伝えないはずがないもんね…」
差し出してくれたリヴェスの手を取って立ち上がる。
色々驚きはしたけど、嬉しいという気持ちが一番だ。二人にも末永く幸せになってもらいたい。
「今度お祝いしないとだね」
「そうしよう」
その後、二人で準備を進めていき、ようやく屋敷を発つ準備が整った。
ヴィズィオネアに行ってからもやることは山積みだが、エデルも居るし捗りそうだ。
パーティーが終わってからまだそれほど日が経っていないからか、街はまだまだ賑わっている。
そんな大通りから外れた道の行く先にある建物。電気も付けず真っ暗な部屋の中で、新聞を見る男がいた。
新聞には『リヴェス・ロダリオは皇弟だった!』と、大きく書かれている。同じ新聞がいくつも部屋に散らばっていた。
「やっぱりリヴェスはこうじゃないとね。即位も終われば、完全に"あいつら"を見返せられる」
男はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
読んで頂きありがとうございました!
不吉な予感……?
次回は9日、日曜7時となります。




