第122話 私達らしいデート
何も決まらないまま街に到着し、馬車から降りた二人。
「…どうする?」
「とりあえず花屋を目指しながら歩くか」
「そうだね」
横に並んで歩き始めたところで、ルーペアトは一つ気づいたことがある。
パーティーなどの時はパートナーとして、腕を組んで歩いたり手を取って歩いていたこと。普通デート中なら恋人もパーティーと同じように歩くのではないだろうか。
実際、すれ違う人達の中に腕を組むか、手を繋いで歩いている人がいる。
(私もそうした方が良い…?!)
容姿や服装のおかげで令嬢と従者に見えることはないと思うが、リヴェスの身分を明かしていなければそう見えたに違いない。
しかし、このままでは街の人達にロダリオ夫妻は不仲だと、誤解をさせてしまう可能性だってある。
ルーペアトは勇気を出して口を開いた。
「リヴェス、手を…繋ぎませんか…?」
緊張してしまったせいで敬語になってしまった。
今は正面を向いていてリヴェスの顔は見えていないが、きっとリヴェスは言葉に驚いてルーペアトを見て、赤面していることに気づいただろう。
「…そうしよう」
リヴェスがルーペアトの手をそっと優しく手を取り握ってくれた。
お互いの体温が伝わって一気に鼓動が速くなる。恥ずかしさで目も合わせられない。
手を繋いだだけでこんなんじゃ、この先どうなってしまうのだろう。
いつか手どころか、身体同士触れ合う時がー
(私ったら何考えてるの…!)
想像してしまって更に顔が熱くなる。
手汗だったり、色んなことを気にして話せないでいると、通りかかった装飾品店に目を奪われた。
首飾りに付いた赤い宝石に惹かれたのだ。
「あの宝石、リヴェスの瞳みたいで綺麗だね」
「そう言ってもらえて嬉しい。買うか?」
「…欲しいです」
一瞬値段を気にして買うか迷ったが、ドレスや宝飾品に興味がなかったルーペアトが珍しく惹かれたものだ。
買っておいた方が良いような気がする。それに、これなら剣と違ってずっと身に着けておけるから。
お店に入ると、店員は驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔を見せ明るく迎えてくれる。
「いらっしゃいませ!ヴィズィオネアの次期両陛下にご来店頂けて、誠に光栄です」
「あそこに飾ってある、赤い宝石の付いた首飾りを買いたい」
「ありがとうございます!さすがお目が高いですね、こちらの宝石は一級品のパイロープガーネットなんですよ」
「パイロープガーネット?」
ルーペアトは初めて聞く名前に首を傾げる。お目が高いと言われたが、ルーペアトは宝石に全く詳しくない。ただ、リヴェスの瞳の様だったから選んだだけなのに。
「はい!パイロープガーネットは最高峰の赤色を持つ石なんです。情熱を取り戻して能力を発揮するなど、力を沸き立たせてくれたり、不安を取り除いてくれるだけでなく、悲しみや不安を消して愛を回復させてくれる、当に愛と力を象徴する宝石でございます!」
店員の宝石に対する熱には驚いたが、とにかくとても良い宝石だと言うことは伝わった。
(石にも花のように意味があるんだ)
それに、赤い宝石をこんなに褒めてくれるのはルーペアトとしても嬉しい。
ルーペアトにとって愛と力をくれるのはリヴェスだから、この首飾りを身に着けているといつでもリヴェスが側にいると感じられるだろう。
店員から首飾りを受け取ったリヴェスは、それをルーペアトの首に着け微笑んだ。
「よく似合っているな」
「ええ、とってもお似合いです!」
「ありがとう…」
ただ首飾りを着けただけなのに、そう言われると照れてしまう。
鏡の前に行き自分の姿を見て、何だか嬉しくなった。
(本当にリヴェスの瞳みたいだなぁ)
「リヴェス、ありがとう」
振り返ってリヴェスにお礼を言った時、リヴェスの首元に何もないことに気がついた。
首飾りが着けた自分の首元と、リヴェスの首元を交互に見てから小さく呟く。
「…リヴェスも青色の首飾りとか…どうかな?その…私は剣もあるけど、リヴェスは何も持ってないでしょ?」
「そうだな、俺も着けたい。ルーが着けている首飾りと同じ作りで水色の宝石が付いたものはあるか?」
「勿論ございますので、すぐにお持ち致します!」
店員は走るように店の裏へと消えて行った。
よくよく考えると、ルーペアトは赤と黒の装いをしたり、リヴェスが剣に石を付けたりしていたが、自分は日常的に水色を纏うことがなかった。
それは二人が契約結婚で、ヴィズィオネアの件までは離婚する予定だったからだ。
この先離婚は絶対にしないし、一生を共に過ごすのだから、もう身に纏っても良いだろう。
「本当はずっと欲しいと思ってた。離婚した後にこっそり買うつもりではいたが…」
「そうだったんだ。こっそりじゃなくても良いのに」
談笑していれば、店員が戻って来て再び説明を始める。
「奥様の瞳はアクアマリンの、海を連想させる透き通った水色がぴったりだと思います!アクアマリンは幸せな結婚の象徴とも言われ、海の女神様から贈り物として富や幸福など、明るい石言葉があります」
「幸せな結婚の象徴…!」
ルーペアトは感動して思わず拍手する。この店員はお客に最適な石を選んでくれるし、石についてもかなり詳しい。
これはお店も繁盛していそうだ。
「更にですね、心身を暗い気から解放し浄化してくれる作用があると言われていたり、洞察力や未来を見通す能力が与えてくれるとも言われております。人間関係や恋愛にも良い影響をもたらしてくれますよ!」
正しくルーペアトやリヴェスが欲しいものだ。どちらの宝石も二人の力になってくれるに違いない。
「ではそれを買うとしよう」
「お買い上げありがとうございます!」
「じゃあ今度は私が着けるね」
ルーペアトは腕を伸ばし着けようとするが、かなり難しい。それに、お互い正面を向いているから必然と距離が近くなり、余計に緊張して手が震えてしまう。
「あれ…?上手くいかない…」
葛藤しているとリヴェスが首に手を伸ばし、ルーペアトの手を握って留め具をはめた。
(器用過ぎる…)
「どうだ?似合ってるか…?」
「似合わないわけないですよ。…どの宝石よりも一番似合ってます」
「なら良かった」
リヴェスはとても満足そうに笑みを浮かべた。
その様子にルーペアトも嬉しくなる。
「またのご来店お待ちしております!」
会計を済ませた二人は店を出て、再び街を歩き出す。
首飾りを買って、一つ思い出したことがある。
「そういえば私達って結婚指輪着けてないですよね」
「ああ、ルーと結婚式をしたかったから、その前に買おうと思っていたんだ」
「なるほど、そういう考えだったんだ。確かにその時の方が良いね」
一応結婚しているのに、指輪もなければ結婚式もしていないのだから。
仕方ないことではあるけれども。
「さっきのお店で買うのも良さそうだよね」
「自分達でデザインを考えて作ってもらうという手もあるぞ」
「そういうことも出来るんですか?!」
自分以外の人の目にもつくものだし、結婚指輪だからこだわって作りたい。
「作ってくれるお店を探さないとですね」
「良い人物が居るから大丈夫だ」
「じゃあ後は考えるだけかぁ」
どんな指輪にするかはまた今度考えることにしよう。
リヴェスの返答から察するに、最初からそのつもりで既に色々手配していそうだ。デザインが決まればすぐに完成品が届く気がする。
ちなみに良い人物とはノーヴァのことだが、デート中に他の男の名前は出したくないからと、リヴェスはあえて名前を口に出さなかった。
それからいつもの花屋に行って種を買ったり、街をゆっくり散策していれば、あっという間に日が暮れてくる時間に。
一瞬で時が過ぎてしまったけど、本当に楽しい一日だった。
「そろそろ俺達の家に帰ろうか」
「うん。お腹も空いたし、皆も帰りを待ってるよね」
「何をしてきたのか聞かれそうだな…」
「ふふっ、そうだね」
デートの仕方に正しいなんてないし、二人らしいデートになったと思う。
ハインツで一番の思い出になったが、これから先一番が更新され続けていくだろう。
今よりもっと親密になれたらより楽しくなるし、我が子と一緒に来るのも良い。
そんな未来にするために頑張っていかなければ。
読んで頂きありがとうございました!
次回は6日木曜7時となります。




