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国の元最強女剣士は、隣国の契約夫に大切にされる  作者: 希空 蒼


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第121話 デートの始まりだけど?

 翌朝になり、ルーペアトはハンナに着替えを手伝ってもらっていたのだが、いつもより着飾られている気がする。

 街を歩くのにあまり派手な格好をしていたら、周りの人達に気づかれてしまうのではないだろうか。

 パーティーが終わったばかりで、二人は注目の的なわけだ。前まではルーペアトのことを知らない人が大勢いたが、もうすっかり有名人になってしまった。


「変装しなくて大丈夫なの?」

「はい。変装をしても気づかれますから」

「確かに…そうかも」


 金髪はハインツで珍しくないから溶け込めるかもしれないが、黒髪は珍しいからリヴェスだと気づかれてしまうのだろう。

 そしてその隣を歩いているのがルーペアトであることも気づかれるわけで。


 でも変装しないなら、周りの目を気にして歩く必要がないのだから、その方が楽かもしれない。

 注目はされてしまうだろうけど。


「準備が整いました」

「ありがとう」


 着替えが終わり、ルーペアトは二本の剣を手に取ると、ハンナが驚いた様子で止めに入る。


「持っていかれるんですか…?!」

「え?うん」


 どうしえそんなに驚いているのかわからないルーペアトは、当たり前だというように返答した。

 何か起きる可能性もある、持っているに越したことはない。


「今回は必要がないかと思います。リヴェス様と一緒ですし、せめて短剣にしましょう」

「ハンナがそう言うなら…」


 ルーペアトは剣を置き、短剣を服のポケットに忍び込ませた。

 剣を持ち歩くのが癖になっているが、いつか持ち歩かないことが普通になるようにしたい。それはすなわち、国が平和になったという証拠だから。


「じゃあ行ってきます」

「お気をつけていってらしゃいませ」


 部屋を出たルーペアトは軽い足取りで屋敷の外へと向かう。緊張や不安も何もない気持ちで出かけられるのは久しぶりだ。

 最近は準備で忙しいことが多かったから。


 玄関の扉を開け外へ出ると、すでにリヴェスが外で待っていた。

 いつも待たせてしまっている気がする。もっと早く起きて準備を始めた方が良かっただろうか。


「待たせてごめんなさい」

「謝ることはない。俺が待ち切れなくて早く出て来ただけだ」

「でもいつも先に来てるのに」

「…ルーを待つのは好きだから」

「ふふ、ありがとう」


 リヴェスは少し照れながらそう告げた。

 ルーペアトを待たせたくないし、待っている間に移動中何を話そうか考えるのが楽しいのだ。

 今日は特に楽しみで一時間も前から外に居たことは、ルーペアトには秘密にしておく。


「行こうか」

「うん」


 リヴェスの手を取り馬車へと乗り込む。

 腰を下ろした時、向かいに座ったリヴェスが剣を立て掛ける姿を見て、ハンナと話していたことを口にする。


「リヴェスはやっぱり剣を持ってきてたんだね。私はハンナに必要ないって言われたから、短剣だけ持ってきたんだけど」

「ルーも持っていこうとしてたのか?」

「うん、そうだよ…?」


 どうしてリヴェスまで驚いているのだろうか。

 パーティーの時だってドレスの中に剣を忍ばせていたし、リヴェスもハンナもルーペアトが剣を持ち歩く人だとわかっているのに。


「ルーらしいが、デートの時くらいは俺に任せてほしいな」


 そう言われてルーペアトは言葉を失った。

 せっかく着飾っているのに剣は似合わないし、デートで剣を持ち歩く令嬢なんていない。雰囲気を壊してしまうところだった。


 だからハンナが止めたのだと納得する。

 はっきり言ってくれて良かったのに、色々気遣ってくれたのだろう。

 使用人が主人に口を出し、意見するなんて本来はしてはいけないようだし。ルーペアトは気にしないし、もっと普通に言ってほしいと思っているが、簡単に変えられないものだろう。


「止められた理由がわかったよ…。じゃあ今日は大人しくリヴェスに任せる」

「ああ、何があっても指一本触れさせない」

「頼もしいね」


 そろそろ敬語を外して話すことにも慣れてきて、違和感も感じなくなった。

 よりリヴェスや屋敷の皆と近くなれた気がして嬉しい。


「そうだ、昨日何の花を買うか調べてて良い花見つけたんだ。ストレリチアとアイリスなんだけど知ってる?」

「アイリスなら知ってる、青い花だろう?」

「うん。でも青色の他にも色んな色があるんだよ。黄色や桃色に、赤と黒もあってね、リヴェスにぴったりだと思って」

「そんなにあるのか。良い花ってことは、黒でも意味は大丈夫ということだな」

「黒は悪い意味ばかりじゃなくて、良い花言葉を持つ花の方が多いよ」


 今まで髪と瞳の色で疎まれていたからか、リヴェスも黒は悪い意味が多いのではないかと心配になってしまうのだろう。

 珍しいし暗い色だからって疎み蔑む気持ちがわからない、黒色だって良い色なのに。


「正確に言うとジャーマンアイリスで、その中でビフォーザストームという品種が黒いんです。他にも品種はあるんだけどね。意味はアイリスと同じだったりするし、情熱とか…燃える思いとか…恋愛の意味もあったりする…」

「燃える思いか…、色だけじゃなく花言葉も俺にぴったりなんだな」


 そう言うと思っていたが、面と向かって言われると恥ずかしくなってしまう。

 それを隠すように、もう一つの花について話し始める。


「も、もう一つはね、橙色の萼と青い花弁が鳥の様に見える、綺麗な花なんだよ。花言葉は輝かしい未来で凄く良いよね?」

「そうなのか。どんな花かますます気になるな」

「育てるのが楽しみで仕方ないよ」

「ルーが楽しそうで俺も嬉しい」


 また恥ずかしくなるようなことを言うのだから。

 今はまだ初々しい反応をしてしまっているが、いつか慣れてしまう日がくるのだろうか。

 それはそれで寂しい気もする。勿論、いつまでも想い合っていくけれど。


「…それで、種を買った後はどうする?」

「考えはしたが、決めてはない。デートってどこに行けば良いのかわからなくてな」

「確かにデートってどこ行くの…?」

「「・・・」」


 花のことばかり考えて、他に行きたい場所なんて考えてなかった。

 このデートは以前約束した通り、種を買いに行くことを目的にしているとはいえ、せっかくの二人でゆったり過ごせる時間だ。種を買うだけで済ませるのは勿体ない。


「どうしよう…!?」


 お互い初恋のため恋愛経験がない二人。ほぼ無計画でデートなんて、恋愛初心者がするものじゃないだろう。


(この先心配過ぎる…!)

読んで頂きありがとうございました!


次回は3月2日、日曜7時となります。

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