第120話 ハインツでやりたいこと
執務室でヴィズィオネアへ戻る準備をしていた中、リヴェスはルーペアトに問い掛ける。
「そうだ、戻る前にハインツでやりたいこととか、行きたい場所はないか?」
「うーん…何かあるかな…?」
せっかくハインツにいるのだから、何かしておきたいところだ。
ヴィズィオネアに行ってしまえば、即位の準備諸々で暫くハインツに行くことができなくなる。
「…あ!やりたいこと思いついた」
「何だ?」
「リヴェスとまた出かけたいです。ハインツでちゃんと出かけたのって、花の種を探しに行った日だけじゃないですか」
「確かにそうだな」
そもそもルーペアトが街を歩いた回数もそれほどない。
基本大通りしか行っていないし、後はノーヴァの商会に行くことしかなかったから。
「それに、帰って来て庭の花を見に行った時、また種を買いに行こうと約束したの、覚えてますか?」
「ああ、覚えてる。ルーがデートの誘いをしてくれたからな」
「そ、それなら良かったです…」
デートという言葉にルーペアトは顔を紅くしてしまった。
二人で過ごしたり、出かけることはあっても、デートをしている感覚がなかったため、言葉そのものにも慣れていない。
しかも、ちゃんと買い物を目的に二人で出かけた時だって、まだお互いに恋愛感情を全く抱いていない頃なのだ。
あれはデートと言えないだろう。
「二人きりで夫婦らしく出かけられるのは嬉しいな」
「私も同じ気持ちです。あの時は過去のこととか隠し事があった分、心に余裕もなかったですし。今回は本当の夫婦として楽しみたいね」
「そうだな。なら、明日街へ行こう」
「うん」
(今日の内にどの花の種を買うか決めておこうかな?)
そう思い立ち、ルーペアトは執務室から出た後、私室へ戻り花の本を読み始める。
見た目が気に入った花や、自分達に合った色の花を選んでも良いし、花言葉で決めるのも良いだろう。
(皇后になるわけだし、新たな道を歩んでいく私達にぴったりな花が良いかな?)
それで見た目がルーペアトかリヴェスに合うものがあれば更に良い。
本を読み進めて行く中で、目を引く花を見つける。
『ストレリチア』という、橙色の萼と青色の花弁からなる、まるで鳥のような美しい花だ。 花言葉は輝かしい未来であり、屋敷や皇宮に植えるのにも最適と言える。
花を見る度に花言葉を思い出して、花が背中を押してくれそうだ。
(ストレリチアの種は買うとして、後はリヴェスを連想できる赤色か黒色の花が良いな)
皇宮にもブルースターは植えたいし、このままでは庭が真っ青になってしまう。
それはそれで綺麗だと思うが、リヴェスの色も絶対に入れたい。
その後も読み進めていくが見つからず、最後の頁まできてしまった。
(どうしよう…良いのが見つからない…)
とりあえず他の本も読みながら頭を悩ませるルーペアトだったが、あることに気づく。
一つの花でも他の色が存在する花があることを。
先ほど読み終えてしまった本は、様々な花の種類が載っているだけで、他の花色は紹介されていない。
例えば、薔薇は赤色だけが載っている。薔薇を思い浮かべた時、多くの人は花弁が赤色をしているはずだ。
しかし薔薇は暖色系や白色も存在する。
なら他の花にも別の色があるはずだ。リヴェスが植えたいと言ったダリアにも、たくさんの花色があるから。
それを踏まえた上でもう一度読み終えた本を開き、花言葉で気になった花に別の色がないかを、他の本で調べることにした。
再び読み始めてから、すぐに気になる花を見つける。
『アイリス』それは強い希望や大きな志など、今の二人の心情を表したような花言葉だ。
本に載っているのは青紫色だが、他の色もあると信じて別の本を開くと、色が豊富であることがわかった。
どうやらアイリスはアヤメ科アヤメ属の総称らしく、色と言うより種類が多いようだ。
しかも、アイリスには赤色だけでなく、黒色に近い花まである。復讐の意味がある黄色のアイリス以外は、どれも前向きで主に希望を意味するため、皇宮に植えるのに相応しいのではないだろうか。
(凄く良い花だ…!リヴェスも喜んでくれるかな?)
ルーペアトは意気揚々と他にも花がないか調べ始めてしまった。
調べるのが楽しくなっていたら、すっかり時間が遅くなっていたことに気づく。デートは明日なのだから早く寝なければいけないというのに。
(明日たくさん歩いても大丈夫なようにたくさん寝ないと)
本を閉じて寝台に横になるも、楽しみな気持ちが眠気に勝ってしまい寝つけない。
こんなに調べたのに寝坊して行けないなんてことになったら大変だ。
(羊でも数える…?いや、何も考えないよう、寝ることだけに集中しよう)
眠りにつくまで時間は掛かったものの、何とか日付が変わる前に眠ることができた。
読んで頂きありがとうございました!
次回は27日木曜7時となります。
元々花言葉には興味があって知識はありましたが、今話を執筆するにあたって花言葉をたくさん調べました( ´∀`)
花を育てることがルーペアトの趣味なわけですが、好きなことに没頭できることは素晴らしいことですよね。
皆様は時間を忘れるほど没頭してしまうものはありますか?
私は多趣味なので、一つのことに没頭することはあまりないかもしれません^^;
ですが、かれこれ投稿を始めて約3年。自分でもびっくりしています。
いつも読んで下さってる皆様のおかげです、ありがとうございます(*^^*)




