第116話 パーティーの始まり
休憩を終え、今からパーティー会場に向かうわけだが、ルーペアトとイルゼは別行動になる。
会場内の階段を登った先にある大きな扉から、主役であるリヴェスとルーペアトが登場するからだ。
いつもならティハルトが出て来るところのため、一緒に登場するのかと思いきや、ティハルトは会場でリヴェス達が出て来る前の声掛けをするらしい。
「この扉を開けたら、さっきよりもたくさん人が居るんだよね…」
「緊張してきたな…」
二人は口から心臓が出てしまうのではないか、というほど鼓動が強く速く脈打っている。
その時が来るまで、二人は励まし合いながら呼吸を整えていた。
会場ではティハルトとイルゼが入場したところで、貴族達はざわめき始める。
先ほどはイルゼを紹介しただけで、今回パートナーを務めることを伝えていなかったため、令嬢はイルゼを睨みながら扇で口元を隠し、こそこそと何か話しているようだ。
「大丈夫かい?」
ティハルトは令嬢達の様子を見て、イルゼが緊張したり不安に思っていないか心配になり声を掛けた。
「このくらい問題ありませんわ。あの男の婚約者候補だったのですから」
ミランの婚約者候補だった時は、玉の輿を狙う令嬢から敵対視されていただけで、公爵令嬢であるイルゼに直接物を言う者は居なかった。
イルゼが公爵令嬢であることを知らせていても、ここはハインツ。例え公爵位でも隣国の令嬢となれば、ほとんどの令嬢はイルゼを妬み敵視するだろう。
「そっか。でも僕からは離れないようにね」
「ええ」
ティハルトはイルゼが令嬢達から悪く言われるのではないかと、心配はもちろんしているが、離れないように言ったのは主に別の理由だ。
バルコニーでイルゼを紹介した時から、ティハルトはイルゼに対する男達の視線を気にしていた。
ティハルトは無意識に男達を牽制しているし、イルゼもティハルトの気持ちに気づくはずもなく。
二人はパートナーらしく腕を組みながら、階段の元へと向かった。
「そろそろ準備出来たかな?」
「今頃緊張しているでしょうね」
「そうだね。でもそろそろ登場してもらわないと」
ちょうどルーペアトとリヴェスが準備出来た頃、ティハルトが登場の声掛けを始める。
「皆、今から我が弟リヴェスとその妻ルーペアトが登場する。盛大な拍手で迎えてもらえるかな」
ティハルトの合図で扉が開かれ、リヴェスとルーペアトが登場し、会場は大きな拍手の音に包まれる。
緊張で階段を必要以上にゆっくり降りて、ティハルトの元に合流した。
「大きな拍手を頂き感謝する。皆各々ティハルトの準備したパーティーを楽しんでくれ」
リヴェスの言葉を言い終え、更に大きな拍手が起こった後、音楽が流れ始め貴族達は食事を楽しみだした。
「階段を降りるだけなのに、凄く緊張した…」
「緊張しているの丸分かりでしたよ」
やっぱりこういった場に慣れているイルゼを見ていると、ルーペアトは改めてイルゼは凄いなと尊敬の気持ちが強くなった。
イルゼと話していたところで、ウィノラが四人の元へと近づいて来る。
「ルー!イルゼー!リヴェス様と陛下もお久しぶりです!」
「久しぶり。ノーヴァはどうしたんだい?」
「皆の所へ行くと言ったらどこかに行ってしまったんです」
「そっか」
(この様子だとノーヴァはまだ気持ちを伝えてないでしょうね…)
本当にいつ気持ちを伝えるのやら。
まあ、二人のことだから口を出すつもりはないが、早く伝えた方が良いとは思う。
「じゃあ俺とハルトは挨拶回りして来る。ルー、二人のことよろしくな」
「うん、任せて。いってらしゃい」
信用して頼ってもらえるのは嬉しい。
三人で楽しく話していれば、話し掛けてくる者はあまり居ないと思うが、用心するに越したことはないだろう。
「イルゼと会うの久しぶりだ〜。私もヴィズィオネアに行きたかったなぁ」
「いつでも来てくれて良いわよ。教えてくれたら迎えも出しますわ」
「良いの?やったー!」
元々ノーヴァと二人で残るはずが、一人ハインツに残されたのだからよほど寂しかったはずだ。
いくら心配だからとはいえ、ウィノラを連れて来ても良かっただろうに。
なんせ、ミランはウィノラに全く興味がないだろうから。
「今度は三人で街を見て周りたいね」
「それ良いね!計画はイルゼに任せて良い?」
「まあ、ヴィズィオネアに詳しいのは私しかいませんからね。それくらいお安い御用ですわ」
「決定だね!楽しみだなぁ〜」
周りからの視線なんて気にならない程、三人は楽しく会話をしていた。
今回のパーティーは緊張はしたが、楽しく最後まで過ごせそうだ。
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次回は木曜7時となります。




