第115話 皇弟リヴェス
ティハルトが一歩前へ出て、集まった者達に聞こえるよう声を張り上げる。
「皆、集まってくれてありがとう。今日は大事な話があるんだ」
会場は驚きと困惑の声でざわつき始めた。
大事な話とは何だろうと疑問に思う人もいれば、何故ティハルトの後ろにロダリオ夫妻と見知らぬ令嬢が居るのかと、様々な声が聞こえてくる。
それでもティハルトが話し始めようとすれば、皆が静かに口を閉じた。
「今回パーティーを主催したのは、僕の弟であるリヴェスのため。今まで事情があって伏せていたけれど、間違いなく血の繋がった兄弟だ」
先程よりも更に会場は騒がしくなり、驚くどころか悲鳴を上げる者までいる。
隠されていた皇弟の登場に驚くのは当たり前のことだが、それよりもリヴェスがティハルトと全く見た目が似ていないのが問題なのだろう。
本当は居ないのではないかと疑われても無理はない。
「静粛に。見た目だけで判断しないこと。僕は間違いなく血の繋がった兄弟だと言ったし、リヴェスは結婚するまで生まれた時から皇宮で暮らしていたからね」
両親亡き後、使用人達を何人か解雇し入れ替えた。解雇された者も、後に皇宮で働き始めた者も、リヴェスが皇宮で暮らしていたことを知っている。
ティハルトの言葉に納得したのか、リヴェスが弟ではないと疑う声は聞こえなくなった。
「打ち明けたのはリヴェスが隣国ヴィズィオネアの皇帝になるからだよ。そしてリヴェスの妻はヴィズィオネアの皇族。二人の新たな門出を祝ってほしい」
会場は盛大な声援と拍手に包まれる。
不満を持っている者もいるだろえが、この状況で意見を申す者はいない。
ティハルトが合図を出し、リヴェスとルーペアトも前へ出る。
「俺は今まで身分を隠し、ハルトを陰から支えることに専念していたが、これからは愛する妻と一緒にハルトや国民達と、両国を良い国にできるよう努めていく」
「これからの私達もよろしくお願いします」
更に声援が上がり、ルーペアトは笑みがこぼれる程嬉しくなる。
リヴェスと初めて会った時は令嬢や貴族に、忌み嫌われ敬遠されていた。
それが今、温かい言葉と声援で応援してくれている。
(本当は優しい人だから、皆の気持ちが変わると良いな)
リヴェスの話が終わり会場が落ち着いてくると、皆の視線はイルゼの方へと向いていた。
それに気づいたティハルトが手でイルゼを指す。
「紹介するよ。彼女はヴィズィオネアのイルゼ・シュルツ公爵令嬢で、リヴェスが即位するにあたって支援してくれていたんだ。彼女はリヴェスの妻と友人関係で仲が良いんだよ」
イルゼが淑女らしく綺麗なお辞儀をする。
会場をよく見ると、頬を赤く染めてイルゼに見惚れている男が何人もいた。
(これはお義兄さん内心もやもやしてるだろうな…)
笑顔のまま落ち着いた様子をみせているが、心の中でイルゼに見惚れている者にヤキモチを妬いているかもしれない。
逆に令嬢からは嫉妬の目で見られているのだが。
隣国の令嬢なんかに皇帝という最高の嫁ぎ先を取られてたまるかという、令嬢達の強い意志を感じる。
しかし、そんな令嬢達をティハルトが選ぶことはほぼないだろう。
「話を聞いてくれてありがとう。この後もパーティーを楽しんでね」
短いようで長く感じた紹介も終わり、四人は部屋へと戻る。
椅子に座って緊張が一気に解けると、まだ始まったはかりなのに疲れが押し寄せてきた。
「問題なく終わったね。もっと反発されるかと思ってたよ」
「そこはハルトが積み上げてきた信頼のおかげだろう」
「そうなのかな」
謙遜しているが、ティハルトのおかげなのは間違いない。
皇帝として皆の前に立っている姿はとてもかっこよかった。
「お辞儀をしただけなのに心臓が落ち着きませんわ…」
「紅茶を飲んで一休みしようか。用意してもらうよ」
「ありがとうございます」
ティハルトは立ち上がり、使用人に紅茶を頼むために部屋を出て行った。
「本当に無事終わって良かったですね」
「そうだな。だが、パーティーで直接何を言ってくるかわからないから、何かあったらすぐ呼んでくれ」
「努力します」
「フッ…そうか」
リヴェスと笑い合っていれば、イルゼから視線を感じ目を向ける。
「会場で今のように話せば、見せつけになって良さそうね」
「そう、だね」
またいつものようにイチャイチャしないでだとか、二人の時にしなさいと言っていたがイルゼが、そんなことを言うなんて。
驚いて変な相槌になってしまった。
そこでティハルトが紅茶を持って戻って来くると、不思議そうに口を開く。
「何かあったの?」
「二人がイチャイチャしていただけですわ」
「えっ…!」
「そっか、なら良かった」
いつも通りのイルゼに戻ってしまったが、実は心境の変化があったりして。
なんて思いながら紅茶を口にした。
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次回は日曜7時となります。




