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第110話 ティハルトから大事な話

 数日間、ヴィズィオネアへ移住する前にやらなければならない仕事を進め、持っていきたいものを整理する日々を過ごした。


 落ち着いてきた頃、ティハルトから皇宮へ来るように言われ、今向かっているところだ。

 ヴィズィオネアで本格的に過ごすようになる前に、ティハルトから話があると思っていた。


 ただ、それならハインツを離れる時でも良いのではと思うのだが、皇宮で話さなければならないほど大事な話なのだろうか。


 皇宮へ着き中へ入ると、使用人たちが何やら忙しそうにしている。

 やはり数日も皇帝が国を空けていたことで一気に仕事が増え、毎日追われて大変のようだ。


「こんな時に来て大丈夫なのかな」


 その様子を見たルーペアトは心配になり、リヴェスに問い掛ける。

 皇宮のことはリヴェスも詳しいから、納得のいく答えを出してくれるはずだ。


「ハルトは仕事を差し置いてまで人を呼ぶことはほとんどしない。大事な話か急ぎの話のどちらかだろう」


 ティハルトの居る執務室へ向かいながら、リヴェスはルーペアトの質問に淡々と答える。


「あと、使用人たちがここまで忙しくしているということは、何か催しでもするのかもしれないな」

「なるほど、催し…。皇室主催の夜会を開くんですかね?」

「そうじゃないかと予想してるんだが、ハルトが主催するのは建国祭のような、大事な時だけなんだよな…」


 確かに建国祭はティハルトやリヴェスが主軸となって準備をしていたし、使用人たちも今のように忙しそうにしていた。

 建国祭は数ヶ月前に開いているし、祝い事なんてヴィズィオネアに関することしかない。

 それをハインツで行うのはおかしいだろう。


「…考えるほど予想が間違っている気がしてしまうな」


 リヴェスが出した予想に自信をなくし始めていたところで、ルーペアトはあることを思い出す。

 ハインツに戻る前、この予想を確定させる手がかりがあったことを。


「リヴェスの予想は当たっていると思います。イルゼが『またすぐ会うことになる』と言っていたのは、そういうことなのでは?」

「彼女を呼んでいるのか…!だとしたら…、何を祝うんだ?」

「そ、そうですね…、婚約…とか?」


 ティハルトがハインツに帰る前にイルゼと会っていたようだし、その時に婚約の話や催しについて話していてもおかしくない。


「でもさすがに急過ぎますよね…」

「そうだな…。もしそうだったら、開いた口が塞がらなくなりそうだ」


 二人は催しの内容に想像を膨らませながら廊下を進んで行き、執務室へと到着する。

 扉を軽く叩き中へ入ると、ティハルトの机の上にはたくさんの書類が積まれていた。


「おかえり!」

「ただいまです」

「…忙しそうだな」

「え?!いや、これは終わってる仕事だから!」

「そうか」


 仕事を差し置いてまで人を呼ばないとルーペアトに言ったのに、机に書類が積まれているのを見て、リヴェスは踵を返し帰ろうとした。

 慌ててティハルトが否定し、リヴェスは足を止める。


「二人を呼んでるから、書類を取りに来るのは後で良いと言ったんだよ。もう急ぎの仕事は終わってるし、問題ないからね」


 その言葉にリヴェスは心底安堵する。

 何故なら、ティハルトについて自信を持って話したのに、間違っていたら穴に入りたくなるほど恥ずかしいからだ。


「ほら、座りなよ。今日はとても大事な話だから」

「はい」


 大事な話という割に、ティハルトはとても気分が良さそうだ。

 やはり大事とは言っても良い話なのだろう。


(まさか本当に婚約…?)

 

 ルーペアトとリヴェスは息を呑み、ティハルトの言葉を待った。


「数日後にパーティーを開くんだ」


((やっぱりパーティーだった…!))


 二人は心の中でそう叫んだ。

 より一層パーティーの内容が気になり、脈が速くなっていく。


「…主役はハルトなのか?」


 リヴェスは本当に婚約なのかと恐る恐る問い掛ける。

 しかし、返ってきた言葉は意外なものだった。


「え?リヴェスだけど?」

「は、俺…?」


 よく理解が出来ず、数秒間の沈黙が流れる。

 やっとのことで出た言葉は「なぜ」の二文字だけだった。


「なぜって…、弟がヴィズィオネアの皇帝に即位するお祝いに決まってるよ」

「俺はもう書類上ティハルトとは兄弟じゃないだろ?」


 リヴェスは皇族の身分を捨て公爵位を得ている。

 だから血は繋がっていても、書類では皇族と貴族なのだ。

 そもそもリヴェスが皇族だったことすら知らない者が多いのに。


「実はね、リヴェスの身分は皇族のままにしてあるんだよ。いつか皇族という身分が必要になる時が来ると思ってね」

「受理してなかったのか…!?」


 ティハルトは椅子から立ち上がり、自身の机から一枚の書類を取り出すと、それを二人に見えるように机に置く。

 その書類は間違いなく、リヴェスが皇族の身分を放棄するという誓いが書いてある。

 しかし、この書類はあるものが一つ足りていない。


「僕はサインしないでずっと仕舞っていたよ」

「そんなことが…」


 リヴェスが自分で考えるべきこと以外、何でも話してくれるティハルトがこんなに大きな隠し事をしているなど、全く思いもしなかった。


 この話にはルーペアトも驚いて何も言えなくなっていたが、イルゼとの婚約じゃなかったことは少し残念でもある。


「そんな大事なこと隠してたんだな」

「まあ、一人知ってる人物がいるけど…」

「ノーヴァか?」


 ティハルトは静かに頷いた。


 ノーヴァはリヴェスを皇帝にさせようとしていたから話したのだろうと、リヴェスは納得する。


「皇族同士の結婚だったとなれば、誰も二人に悪いことは言えなくなるね。リヴェスの悪い噂も消すことが出来る証人も呼んでるし、心配することは何もないよ」

「証人って…イルゼですよね?」

「そうだよ」


 何だかルーペアトはそんな気がしていた。

 ヴィズィオネアでのリヴェスの働きを、実際に見ていたイルゼに頼んだのだろう。

 エデル以外に頼める者はイルゼしかいないから。


「彼女ハインツにまた行きたいと言っていたし、ルーペアトと友人だからね。パーティーなら他の友人とも会えるだろう?」


 他の友人とはウィノラのことを指しているのだろう。

 ティハルトはイルゼをかなり気遣っているように感じ取れる。

 こうなると余計に二人の間に何があったのか気になるのだが、このパーティーで暴くとしよう。

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。


いつも読んで下さりありがとうございます。

年末年始は仕事の繁忙期により、1月中旬頃まで週に1回の投稿となってしまいます、申し訳ありません(´;ω;`)

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