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第11話 平穏が訪れる

 無事に事件は解決し、ロダリオ公爵夫人の殺害を目論んだ夫人は投獄されることになった。牢の中で「どうして私がこんな目にあわなければいけないのか」や「まだ幼い娘が可哀想だ」と主張し、毎日牢屋には怒号が響いているらしい。

 全ては夫人が企んで実行していたことで、デヴィン伯爵は何も知らず無罪も認められ、今は娘と二人で慎ましく暮らしているそうだ。

 ほとんど顔を見たことはないが、義妹には幸せでいて欲しいとルーペアトは思う。

 ルーペアトが命を狙われることもなくなったし、義妹も歳の離れた男性と結婚しなくて済んだのだからお互いに万々歳だろう。


(これで暫くは安心して暮らせる)


 そして侍女だったミアは遠くの修道院に行くことが決まり、命が尽きるまでそこで働くことになった。そのため、ルーペアトの専属侍女が居なくなってしまい、リヴェスが新しい侍女を就けてくれた。

 名はハンナで、髪は黒く顎までしかない短髪の髪型は女性の中では珍しい。女性は髪が長い方が良いとされ、令嬢も侍女も皆髪を切らずに伸ばしている。


 元々ハンナはリヴェスの部下で、屋敷に潜入したりする諜報員の仕事をしていて、その時に髪が長いと邪魔だから短くしているのだそうだ。

 だから初めてハンナと会話を交わした時には、護身術として武術を習得しているため、もしも何かあったとしても守って頂く必要はない、と言われた。

 つまり、ハンナにもルーペアトが剣を扱えることを知っているし、これからは堂々と侍女の前で剣を懐に隠せるということだ。


(それが良いのか悪いのか…)


 すぐに侍女は就けてくれたが、あの一件以降まだリヴェスとはちゃんと話せていない。これからのためにも話さなければいけないことはたくさんあるだろう。


「リヴェスはどれくらいに帰って来る?」

「本日は夕方頃には帰れると聞いています」

「そう、わかった」


 ハンナはこれまで諜報員をしていたからか、とても落ち着いた様子だし、ルーペアトが自分で出来ることはさせてくれるため生活が前よりかなり良くなった。

 リヴェスの部下だったから信用も出来るし、薄情だと思われるかもしれないがやはりミアも遠ざけて良かったと思う。夫人が居なくなったからとルーペアトに忠実になるともわからないから。


 そうしてリヴェスが帰って来るのを待っている間、ルーペアトは庭に出て散歩をしていた。ここの庭は庭師によって手入れがされているが、何かを育てているわけではないようだ。

 好きにしていいと言われているし、花を植えるのもいいかもしれない。


(お母さんはブルースターが好きだったよね…)


 花が大好きだった母は家の庭でたくさんの花を育てていた。一緒に花の世話をしていたルーペアトはその時のことをよく覚えている。

 数ある花の中で一番好きだと話していたのはブルースターで、好きな理由はルーペアトの瞳に似た水色だからと言っていた。花言葉は「幸福な愛」と「信じあう心」、それも相まって好きなのだそう。

 だから植えるならブルースターを植えたい。


(この街にも売ってるかな…?)


 リヴェスが帰って来たら聞いてみることにしよう。

 この辺りの街がどんな場所なのか知らないし、まだロダリオ家に滞在するから色々知っておきたい。

 やっと街にも安心して出られることだし、これからたくさん通えるだろう。


 充実したお昼を過ごした後、リヴェスが帰って来たと教えてもらい、執務室の方へと向かった。

 いつもリヴェスが仕事をしている執務室に入るのは初めてで少し緊張する。


「失礼します、おかえりなさい」

「ああ、ただいま」


 扉を開けば着替え終わったばかりのリヴェスが隣の寝室から出て来たところだった。

 入ってすぐに「そこに座るといい」と促され静かに着席し、向かいにリヴェスも座り早速話に入る。


「新しい侍女はどうだ?」

「私の生活に合った侍女でとても助かっています。リヴェスの部下というのもあって安心できますし、ありがとうございます」

「それなら良かった」


 リヴェスはルーペアトの侍女をよく気にしていた。ロダリオ公爵家に訪れる前、ミアを同行させてもいいか聞いた時に了承したことが気にかかっているのかもしれない。

 ルーペアトの言葉の意図としては、リヴェスが連れて行けないと言ったら連れて行かなくて済むと思って訪ねていた。ルーペアトの事情をまだ知らなかったリヴェスはその意図に気づけるわけがないし、仕方のないことだからどうか気に負わないでほしい。


 ハンナの話が終わり、リヴェスが口を閉じ沈黙になったところで、ルーペアトは立ち上がる。リヴェスに言わなければいけないことがあるからだ。

 ルーペアトは頭を下げて口を開く。


「あの夜のことで嘘をついたこと、そして剣を扱えることを黙っていてごめんなさい」

「気にしなくていい。俺ももしかしたらそうなんじゃないかと思っていた」

「でも…そのせいで余計に捜査の仕事を増やしてしまいましたよね…?」

「良いんだ、どちらにしろ捜査は行われる」


 顔を上げたルーペアトはリヴェスの表情が柔らかいのを見て安心した。怒られるかもしれないと少し思っていたが、リヴェスはそんな人ではないみたいだ。

 今までもずっとルーペアトが何かしても優しく許してくれる。このままだと色々甘えてしまいそうだ。でもリヴェスとはいつか離婚する契約関係、甘えるなんてしてはいけない。


「そうだ、せっかくゆっくり話せるんだ、俺に聞きたいことはあるか?」


 リヴェスは本当に全く気にしていないと言うように話題を変えたため、ルーペアトは驚いたがその気づかいはありがたい。

 ルーペアトは再び椅子に座り、あのお茶会以降気になっていたことを聞く。


「そういえば、他の令嬢の皆さんがリヴェスを寡黙な人だと言っているのは何故ですか?」

「そうだな…話すことがなにもないからじゃないか?俺は元から必要なことは話すし、会話を避けたりはしない」

「なるほど、納得しました」


 つまり令嬢が言っていた部屋に来ないも、話すことがないから行かない。でも相手が話すことがあって話し掛けて来るなら応じる。

 散財しても何も言われなかったのは、そのくらい使われても全く問題がなくて構わないから止める必要もなかった、ということになる。


(やっぱり皆が勘違いしてるだけか)


 令嬢達はその対応が気に食わない様だが、ルーペアトはリヴェスの話には凄く納得出来る。ルーペアトも話すことがないと話し掛けには行かない方だから。


 どうして何度も破談になっているのかとか、聞きたいことはまだたくさんあるが、それは聞きづらいため昼間に聞こうと思っていたことを次は聞くことにした。


「後、庭に花を植えたくて、今度街に買いに行っても良いですか?」

「丁度良かった。ルーに街を案内しようと考えていたんだ」

「そうだったんですか、ありがとうございます」


 考えてくれていたことを知ってとても嬉しい気持ちになる。

 詳しいリヴェスが一緒に来てくれると助かるし、心強い。自分の身は守れるし、何かあっても対処出来るからそういった部分に関しては大丈夫なのだが、リヴェスが居るとどこか安心する。


「行きたい店が他にもあったら教えてくれ。事前に良い店を探しておく」

「わかりました」


 それなら効率的に見たい店に行けるし、時間を有意義に使えるから残った時間でその場で気になった他の店も行けそうだ。


 街へ行く詳しい日程も決めた後、リヴェスとの話も終わりルーペアトは自室に向かっていた。

 その時、ふと疑問が浮かぶ。

 今までリヴェスの婚約者だった令嬢達は、リヴェスが何もしてくれない様な感じのことを言っていたが、街を案内することを考えたり、事前に店を調べてくれたりと色々してくれている気がするのだ。


(他の子と違って私が遠くから来てるからかな…)


 ロダリオ公爵家はハインツの都心に近いが、デヴィン伯爵家はここからそれなりに遠かった。

 この辺りに住む令嬢達には街を案内する必要もないし。


(ジェイが前、私のことを気に入っているとか言ってたけど、やっぱりただ気をつかってくれてるだけだよね)


 ルーペアトだからではなく、遠くから来た令嬢ならリヴェスは同じ行動をしていたと思う。

 ジェイはルーペアトを応援してくれているみたいだが、当の本人はそんな気がないから申し訳ない。

 両親は愛し合っていて幸せそうだったが、ルーペアトは両親のような関係を誰かと築けると思えなかった。


(私は幸せになるべきではない…)


 今までたくさんの命を奪って来た。

 その事実は変わらない―

読んで頂きありがとうございました!


次回は火曜7時となります。

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