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第109話 育てていた花がついに開く

 ようやくロダリオ家に帰ってきて、ルーペアトは安心感を抱く。


(久しぶりだけど何も変わってなくて安心する…)


 エデルの屋敷では、自分の家のように過ごして良いと言われても、人の家だし気遣いで色々準備してくれていたのが逆に落ち着かなかった。


 皇宮だって本来居るはずだった家とはいえ、住んでいた人間の人格も相まって居た堪れない。

 だからいずれ皇宮は改装するつもりだ。あんな皇宮に慣れる気もなければ、住む気もないから。

 不要な建物も解体して、もっと役に立つものを建てた方が良いだろう。


 数日後にはそんな皇宮に帰らなければならず、思い出の詰まったここを離れることになるのは寂しいが仕方ない。

 滞在する内は屋敷を満喫しようと思う。


「今日はもう休むか?」

「庭を見に行ってから休みます。温室も完成してますよね」

「ああ、そうだな。それなら俺も行く」


 長時間の馬車で身体が少し悲鳴をあげているが、どうしても花の様子は見ておきたかった。

 そろそろ開花している花もあるはずだ。


 リヴェスと共に庭に向かうと予想通り、大きな建物が姿を現す。

 想像していたものより大きいが、そもそもルーペアトは温室を見るのが初めてである。だからもしかするとこれが普通なのかもしれない。


「凄いですね。これなら色んな花を育てられそうです…!」


 中に入ると暖かいし、すでに花を育てられる環境が整えてあった。

 これなら今すぐ種を植えることも出来る。

 イルゼに種を貰ったが、場所は考えた方が良いと言われたし、温室には特別な花を植えたい。

 しかし一つ気になることがある。


「でも…せっかく建ててもらったのに、今までのように花を育てることが出来なくなるなぁ…」


 ロダリオ家はもはや、ハインツでの家になり別荘のような場所になるだろう。

 もうロダリオの名を使うことはないのだから。


「…滞在している間に種だけ植えて、不在の間は庭師に育ててもらうのはどうだ?これまでのようにここで過ごせなくとも、ここが俺達の家であることに変わりはないからな」


 リヴェスの言う通りだ。

 皇宮に住むことになっても、ここが我が家であって大切な場所。

 それは何があっても変わらないのだから、寂しく思う必要はなかったかもしれない。


「そうですね。時間がある時に二人で種を買いに行きませんか?」

「デートか、良いな」

「デっ…!?」

「ん?そのつもりで言ったんじゃないのか?」


 植えるならリヴェスと一緒に考えたいと思って言ったことだったのだが、そう捉えられると思わなかった。

 でも確かにルーペアトの言い方はデートの誘いだと思われてもおかしくないし、デートであることに間違いない。


 しかし、今まで二人で出掛けたことは何度もあるのに、リヴェスはデートだなんて言ったことなかったし、ルーペアトも考えたことなかった。

 いざ言葉にされると恥ずかしくなってしまう。


「…違うけど…違わないというか…」

「ふっ、悪い。ルーにその気がなかったのはわかってる」

「からかったんですか…!?」

「そうじゃない。言わないとこの先二人で出掛けても、デートだと思ってくれなさそうだからな」

「うっ…」


 図星で何も言い返せない。

 今まで契約結婚だったし、リヴェスは気持ちを隠していたからデートなんて言葉を使わなかったのだろう。

 気持ちを伝え合ったことで隠す必要がなくなり、リヴェスも容赦なくいくつもりのようだ。


「デート楽しみにしてる」

「もう…!植えてた花を見に行きますよ」


 頬が赤くなったのは温室が暖かいからだと自分に言い聞かせ、照れているのを隠すために温室から先に出る。

 全てリヴェスはお見通しのため、そんなルーペアトの背中を見ながら微笑んでいた。


 花を植えていた場所に着くと、太陽がよく当たるところは花が咲いており、ルーペアトは嬉しさに声を上げる。


「リヴェス!咲いてますよ!」


 念願だったブルースターの開花に喜びを抑えきれない。

 後ろを歩いていたリヴェスを呼び寄せ、花に指をさす。


「どれも綺麗に咲いているな」

「はい。咲いてくれて良かった…」


 後から植えた白ダリアもいくつか開花していて、これならヴィズィオネアに帰る時にいくつか持って帰ることが出来る。


「あ!リヴェスが植えてほしいと言ってたエンゼルランプ?も、咲いてますよ」

「…守りたかったものを守れたから、花も応えてくれたのかもな」

「どういうことですか?」


 リヴェスの言葉の意味がわからなかった。

 エンゼルランプを植えた時、ヴィズィオネアに行く前で忙しくて花言葉を調べていなかったのだが、それが関係しているのだろうか。


「エンゼルランプの花言葉は『あなたを守りたい』。この花を植えたいと言った時、ルーが皇族であることを隠した上で、俺がヴィズィオネアの皇帝になるのを決心した時だ。何があってもルーを守りたいと思ったから、植えたいと言った」


 話を聞いて、ルーペアトはリヴェスが植えたいと言った時のことを思い返す。

 確かにその日は皇宮から帰ってきた後だった。


 深く考えずに種を植えて育てていたが、まさかそんなにもリヴェスの想いがこもっていたなんて。


「そうだったんですね…。ありがとう」

「ルーのおかげで俺も花が好きになった、ありがとな」

「ふふ、好きになってくれて嬉しいです。リヴェスと種を買いに行くデート、私も楽しみになってきました」


 きっとお互いを想いながら花を選ぶことになるだろう。

 二人の想いが詰まった花達で庭も温室もこの先埋まると、この場所がもっと大切で特別な場所になる。

 想像するだけで笑みが溢れ、幸福で胸がいっぱいだ。


「早くやること済ませないとな。でも今日は休むように」

「そう言いながらリヴェスは仕事をするんでしょ?リヴェスが休まないと私も休みません」

「…俺もちゃんと休む」

「絶対ですよ?明日ジェイに確認しますから」

「ああ、約束する」


 ルーペアトに言われなければ、リヴェスは仕事をするつもりだったが、今回ばかりはしないと決める。


 そして今日はこの後も二人でゆっくりと、久しぶりの我が家を満喫したのであった。

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。

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