第107話 準備も終わりが近く
両親との話が終わったと、リヴェスが呼びに来たためルーペアトは再び部屋へと入る。
リヴェスの表情や両親の様子を見るに、特に問題もなく受け入れてもらえ、心配していたことは大丈夫だったのだろう。
「今日はたくさん話が聞けて嬉しかったわ、ありがとう。また落ち着いたら会いに来てくれるかしら?」
「落ち着くのはまだまだ先になりそうだから、時間があったら会いに来ます」
「次会える時までには元気になっておくわね。ね、あなた」
「ああ。早く良くなるように努力する」
「無理はしないでくださいね。それじゃあ、また」
別れの挨拶を終え、リヴェスとルーペアトは部屋を出て馬車へと向かう。
「両親と話してみてどうでした?」
部屋から離れてきたところでルーペアトは気になっていたことを問い掛ける。
大丈夫だったとわかっていても、やっぱり聞いておきたい。
「俺の過ちを話した時、責めることもしないし深く聞いてくることもなかった」
「そうなんだ、てっきり全部話したのかと…」
「受け入れてもらえたのはルーのおかげだ」
「え?私の?」
特に何も心当たりはないのだが。
娘の夫だからって何でも信用はしないだろうと、ルーペアトは首を傾げて考えていた。
「ルーが育ての親を失って、心に深く傷を負ったことを両親は知っているんだろう?そんなルーが俺の両親について知った上で、俺と一緒に居ることが信用に値したんだ」
「そっか…そうだよね…」
リヴェスが両親に冷遇され、酷い扱いをされていたことを知らなかったら、当時のルーペアトは両親を手に掛けた行為を許せなかっただろう。
でもルーペアトはリヴェスが両親を手に掛けたことに、怒りを抱いたことは一度もない。
そのことを両親はなんとなく察した可能性が高い。
だが受け入れてくれたのはルーペアトのおかげだけじゃないはず。
リヴェスの話を聞いた時、両親は真っ先にミランを思い浮かべたのではないだろうか。
ミランが両親に良くされていないことは確実に知っている。そしてミランの母の妹なのだから皇后の性格もよく理解しているだろう。
自分の子供を生かすために預けるくらいだから。
「両親の話を聞いていて、慰められたような気分だった。普通、親とはこういうものなのかとな…」
ルーペアトは言葉を詰まらせる。
(そうだ…リヴェスは親の愛情を知らないから…)
本来親が子に向ける愛情を受けたこともなければ、見たこともないリヴェスにはまだわからないと思うが、ルーペアトの両親はリヴェスに我が子のように愛情を向けていると思う。
ルーペアトは両親と話していて、義両親が手紙に書いていた両親はルーペアトのことを愛しているという言葉に、最初は疑いはあったものの間違いではなかったのだと感じていた。
だから両親はリヴェスのことも愛してくれる。
「…私もまだ両親とぎこちないですし、一緒に仲良くなっていこう」
「そうだな、ありがとう」
どちらも両親と会って間もない、始まりの位置は同じだから一緒に歩み寄って行けば良いんだ。
二人なら何も心配しなくたって上手くやっていける。
(ルーの育ての両親はどんな人だったんだろうな…)
たくさんの愛情をルーペアトに注いでいたことは知っているし、幸せな家庭を築いていたのはルーペアトの話を聞いていてわかる。
でも、そんな育ての両親に会ってみたかったと思ってしまった。
ルーペアトが一番会いたいだろうから、決して口には出さない。
(…そういえば、育ての両親の墓はどこにあるんだ?)
ルーペアトの故郷へ行った時、墓地などのそれらしきものは一つもなかった。
戦争時に殺されて亡くなっているのだから、その時の死者と共に眠っているのか。
ミランがどこかにやってしまった可能性もある。
(エデルなら知っているかもしれないな…。今度聞いてみるか)
ルーペアトの育ての両親が亡くなっていることも知っているし、住んでいた場所の掃除までしている。
エデルが何か知っているということは間違いないだろう。
落ち着いた後で墓参りに行けたら良いなと思いながら、向かうべき場所へ足を進めていった。
それから数日の間、準備を追われる日々を送り、ある程度終えたところで我が家に一度戻る。
「不在の間、国のことは頼む」
「僕に任せておいて!……寂しいけど」
「出来るだけ早く戻って来るから待っててね」
「うん…、気をつけてね。美味しいもの用意して待ってるから」
「ありがとう、いってきます」
二人が帰って来るまで公務はエデルやシュルツ公爵を筆頭に、ルーペアトの父親も離宮で書類仕事をしてくれるようだ。
彼らなら安心して任せることができる。
(あれから花とかどうなってるかな…。温室も出来てるよね?楽しみだなぁ)
エデルと離れることはルーペアトも勿論寂しいが、 数週間ぶりに家に帰れることが楽しみで仕方がなかった。
読んで頂きありがとうございました!
次回は日曜7時となります。




