第100話 事件は終わりを迎える
ミランの罰を決める裁判は明日行うことが決まり、それまでは牢屋ではなく普通の部屋で過ごしてもらう予定だ。
逃げることはしないだろうが、念の為に一日中見張りはつけておく。
その部屋に向かう途中でミランはリヴェスにある話をし始めた。
「お前ってルーペアトとは契約結婚なのに、ちゃんと想い合ってたんだな」
「ああ」
「契約結婚なら簡単に仲を引き裂けると思ってたが上手くいかないわけだ。もう契約は止めにしないのか?」
「お前がそれを言うのか」
誰のせいでその話が出来ないと思っているんだ。
ミランの一件がなければ、リヴェスはとっくに話しているというのに。
そう思う気持ちもあるが、ヴィズィオネアを立て直すことも、皇帝になることを決めたのはリヴェス自身だから、それらを口に出してまで責めたりはしない。
しかし何となくミランは察したようだ。
「あぁ…俺のせいで言えなかったというのもあるんだな。じゃあロダリオに良いことを教えてやるよ」
「本当に良いことなのか?」
ミランが何を言うのかと少し心配になったが、それは杞憂だった。
「ヴィズィオネアで景色が綺麗な場所があるんだよ。想いを伝えるのにぴったりじゃないか?一応皇太子だからな、国のことはわかってるんだよ」
ミランに教えてもらった場所で想いを伝えるなんて癪だが、ミランとしては気遣いでもあるというか、散々迷惑を起こしたことへの、ちょっとした償いのつもりなのかもしれない。
それならミランに教えてもらったというだけで聞き入れないのは違うだろう。
ミランのためにも自分のためにも、リヴェスは聞くことにした。
「ならそうさせてもらう」
こうしてミランに場所を教えてもらった後、部屋へと入れた。
もう直接話をすることは暫くないだろう。
そしてリヴェスは裁判に向け、シュルツ公爵など裁判に関わる貴族達と会い、話を進めていった。
話を終えて貴族達が帰った頃、外はすっかり日が落ちかけた晩方になっている。
そんな中、リヴェスはまだ一人部屋に籠もって仕事をしていた。
ミランや皇帝がするはずだった仕事は終えているものの、リヴェスは一番大事なことを考えている最中だ。
それはミランの処遇をどうするかということ。
ミランは謝罪をし反省しており、もう悪事を起こすことはしないだろう。
だからといって軽い処罰にするわけにはいかない。
かといって、重すぎる処罰にするのも違う気がして中々決めることが出来ずにいた。
しかも、ミランの両親の処罰はミランより重いものでなければならない。
罪を犯しただけでなく、ミランが事を犯す原因でもあるからだ。
(困ったな…)
今後、ヴィズィオネアで悪事を働いた者達の処罰は、ミランの処罰を指標に考えることとなる。
それもあってリヴェスは悩んでいた。
皇太子の身分を剥奪し生かしておくのは確定として、問題なのは一生牢屋で過ごさせるのか、労働させるのか、年数を決めその後釈放するのか、というところだ。
頭を抱えていれば、扉を軽く叩いた音が聞こえ扉の方に目を向ける。
「リヴェス、入って良いですか?」
「あ、ああ」
ジェイが仕事の話をしに来たのだと思っていれば、ルーペアトの声だったため少し驚いてしまった。
扉を開け部屋に入って来たルーペアトは心配そうな顔をしている。
「夕食の時間だから呼びに来たんだけど、やっぱり仕事が大変なの?ミランは仕事をちゃんとしてなかったわけだし…」
「必要な公務はもう終わってるんだ。ただミランの処遇を考えていただけでな」
「ミランの処遇…。それを一人で考えてたんですか?」
「…そう、だが。それがどうかしたか?」
「リヴェスは一人じゃないんですよ。これから先、一緒に国を守っていくんだから、一人で決められないなら私を頼ってほしい。それに、エデルもいるじゃないですか」
ルーペアトの言葉に気づかされる。
リヴェスは自分が次期皇帝だから、自分で判断して責任を取らなければならないと思っていた。
国を治めることを一人だけの力で行うことは不可能だ。だからティハルトにもリヴェスがついていて、たくさんの部下もいる。
それはリヴェスも同じだ。
手助けし支えてくれる人がたくさんいる。
すぐそばに皇帝の良き見本もいるのに、自分がなんとかしなければという一心で、大事なことを見失ってしまっていた。
「…そうだな。ルーペアトの言う通りだ、ありがとう」
ルーペアトと出会えて本当に良かったと、改めて想えた瞬間だった。
この先もルーペアトと一緒なら、どんな困難も乗り越えていけそうだ。
だから、ミランの処遇も良い答えが出せるだろう。
そうしてリヴェスはミランに対する処罰の程度など、細かく説明した。
「ミランの両親にはどんな処罰を下す予定なんですか?」
「死ぬまで牢屋で過ごさせるつもりだ。特に母親の方なんて反省どころか罪も認めてないからな」
「そうなんですね。ミランは両親よりは軽い処罰を下さないといけないけど、国民が納得のいく結果でなければいけない…」
リヴェスがあれだけ悩んでいただけある。
ルーペアトにとってもかなり難しい話で考え込んだ。
(一生牢屋で過ごすことより少しだけ軽くするとしたら…、それに少しだけ何かを加えたら良い感じになるかな?)
「こういうのはどうですか?一生牢屋で過ごさせるけど、場合によっては釈放するとか」
「それは良い考えだな」
この処罰なら国民にも納得してもらえるだろう。
「ルーが考えてくれた処罰の方針で話を進めよう。助かった、ありがとう」
「良かったです。じゃあ食事をしに行きましょ、リヴェスもお腹空いてますよね」
「ああ」
ルーペアトに手を引かれリヴェス達は食事をしに向かう。
その背中を見ていたリヴェスは途中で足を止め、ルーペアトが振り返るのを待ってから口を開いた。
「明日、裁判が終わった後ルーに話があるんだ。待っていてくれるか?」
「当たり前じゃないですか。いつまでも待ちますよ」
「必ず迎えに行く」
「はい」
ルーペアトと約束を交わし、再び足を進める。
その後はノーヴァを除いた昨日と同じ者達で楽しく食事をして過ごした。
翌日、裁判が行われミランは謝罪をした後、治安判事であるシュルツ公爵が処罰を伝える。
「これまで起こした悪事はとても容認出来るものではない、しかし両親からの冷遇など環境が悪かったことや、反省していることを考慮し、『無期懲役とするが、そなたが改心し、もう罪を犯すことはないと断定出来た場合は、次期皇帝となるリヴェス・ロダリオ公爵殿の監視下の元、釈放する』判決を下す」
ミランは想像していた処遇と違ったからか、リヴェスの方を驚いた様子で見ていたが、リヴェスはあえて目を合わせなかった。
その様子にミランはほんの少し微笑んだ後、前を向いて口を開く。
「次期皇帝の寛大な慈悲に感謝し、これからの態度でその意を示すことをこの場で約束する」
そう宣言したミランの様子を見てリヴェスは安心した。
ミランでもその約束を破ることはしないと思えたからだ。
数年は牢屋から出せないが、いつかミランは釈放される日が来るだろう。
こうして長かった事件はついに終わりを迎えた。
読んで頂きありがとうございました!
記念すべき第100話、長かった事件も幕を閉じ、物語は終盤に近づいていますが、これからも楽しんで頂けるよう執筆して参ります!
次は101話、邪魔するものも何もなくなったリヴェスは、ルーペアトにどんな話をするのか…!
そして101といえば…?
次回は日曜7時となります、お楽しみに^^




