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第10話 黒幕を暴く時が来た

 その後ルーペアトが捜査に加わりつつも、黒幕が暴かれることがないまま日が進んで行った。


 暫くして、夜会が開かれることになり、リヴェスの妻であるため勿論出席しなければならない。リヴェスがまた何か起きるかもしれないと心配していたが、ルーペアトはこの夜会を好機だと思っている。

 夜会の出席者リストやミアからの話で夫人が来ることを知った。

 ここでもまた絶対に何かしようと企んでいるはずだ。そして必ず証拠を掴んで悪事を暴いてみせる。


「楽しそうだな」

「はい。新しいものをたくさん知れるので楽しいです」

「そうか」


 リヴェスは明らかにこのような場が苦手そうだ。一見、噂や陰口を気にしていないように見えるけれど、やっぱり言われているのは嫌だし気分が悪いのだろう。

 リヴェスにも楽しんでほしいと思いつつも、ルーペアトは夜会に詳しくないし何を言ってあげれば良いのかわからない。


 その後、場の流れで踊ることになったのだが、デヴィン伯爵家でまだ教師が就いていた時に教えてもらったのもあって、何とかリヴェスに恥をかかせずに済んだ。

 他の貴族達はルーペアトが平民の出であることは知らないだろうけど、それでも卑しいように見られたらリヴェスの名まで傷つけてしまう。


(本当に良かった…)


 ルーペアトがここまで自分の運動神経に感謝したのは初めてだ。


 それからは暫くリヴェスと共に会場の隅で話をしていた。しかし数分後にリヴェスに話し掛けて来る貴族が多く押し寄せて来たのだ。 

 やはりロダリオ公爵は皆が悪く言っていても大きな家門ということだろう。皆して仮面を被って媚びを売りに来ている。


(私は邪魔だね)


 低い出のルーペアトには興味がないと言うように、目は合わせないしルーペアトの話題だって出て来ない。結婚した祝いの言葉一つくらい言ってのいいだろうに。

 リヴェスが話してるところ少し遠くから見つめていれば、ルーペアトがやっと一人になったからか、ついに夫人が声を掛けて来た。


「久しぶりね。最近どうかしら?」

「そうですね。リヴェスにはとても良くして頂いています」

「…そう」


 傍から見れば普通の親子の会話に見えるかもしれないが、実際はお互いに腹の内を隠して微笑んでいるだけだ。

 わざわざ夫人本人が話し掛けて来たということは、とうとう大きく動くつもりなのだろう。


「積もる話もあるし、どこかで話さない?」

「いいですよ」


 何も疑っていないように振舞って了承し、別室に行く前にリヴェスに伝えておく。

 貴族とまだ話しているリヴェスの裾を軽く引っ張り、耳を傾けたリヴェスに小さな声で伝える。


「少し夫人と話をして来ます」

「大丈夫か?」

「はい。良い考えがあるので」


 にこりと微笑んでリヴェスの元を離れ、夫人とミアも一緒に別室へ向かう。ルーペアトは会場のことをよく理解はしていない。

 それでも夫人が連れて来た部屋は窓が大きくて、会場の裏側に位置する場所で何とも警備が手薄そうだ。


「ミア、私が呼ぶまで入って来たら駄目だからね」

「はい!親子水入らず楽しんで下さい!」


(楽しめるわけないでしょ)


 ミアの嘘みたいな発言に呆れ、つい鼻で笑ってしまいそうだった。

 促されるがまま向かい合って座り、早速夫人が話し始める。


「結婚生活を満喫しているみたいだけど、最近襲われたと聞いたわ。大丈夫だった?」

「全く問題なかったです」


 夫人が心配そうな素振りしている中で、ルーペアトは夫人が暗殺者を依頼したと確信した。

 その後はひたすらに義妹の話や、いつものお説教の様な話だ。


「あなたは絶対に失敗してはいけないわ。ロダリオ公爵家と私の家門にも傷がつくもの。はぁ…何で公爵様はこんな子と結婚なんてしたのかしら。私の娘の方が何倍も良いじゃない…」


 こうなることはわかっていたが、さすがにルーペアトはうんざりしていた。

 いつまでこんな話を聞き続ければいいのか。言質は取れたからもうすぐにリヴェスのところに行って良かったのだが。

 せっかく最後まで聞いたのだからついでに他にも証拠が出てくれると良いのだけど。

 そう呆然と夫人の話を聞いていれば突然部屋の窓が割れ、また暗殺者の様な人たちが数人入って来た。今回は前の半分くらいの人数だが、それは部屋が狭いからなのか、それとも強者だけを集めたのか。

 どちらにしても、とりあえず気絶させておけばいい。


「きゃあぁぁっ!!」


(自分で呼んでおいて叫んでるし…)


 ルーペアトは溜息をつきながらも、服の中に隠していた剣を取り出した。会場に向かう前、こんなこともあろうかとミアが見ていない隙に剣を隠していたのだ。


(今回も弱いな…。狭いから味方に気をつかって全然大きく動けてない)


 夫人は大金を使わずともルーペアトを殺すことが出来るとでも思っていたのだろう。

 しかし、ヴィズィオネアの戦争で生き残った兵士だ、簡単に殺せるわけないのに。

 前と同様、あっという間に全員気絶させたルーペアトは何ひとつ表情を変えないまま、夫人を見ればルーペアトに対して驚きと恐怖の目をしていた。


「なんてこと…」

「残念でしたね」


 そこでようやく夫人に笑顔を見せれば、夫人の表情はより一層恐怖の顔へと変わった。


「来ないで!!」


 ルーペアトが少し動いただけで、夫人は拒絶した。

 その叫びと共に部屋の扉が開かれ、ミアとジェイ、そしてリヴェスの姿が見える。


「はぁ…呼ぶまで入って来ないように言ったのに」


 ルーペアトは溜息混じりに小さく呟いた。

 今扉が開かれたことによって、リヴェスに剣を持っている姿を見られてしまったのだ。もう言い訳だって出来ないし、あの日もルーペアトがやったのだとリヴェスは悟っただろう。


「この人殺し!拾ってあげたのに私を殺すというの!?」


 その言葉を聞いて、それが狙いだったのかと気づいた。ルーペアトが夫人を殺そうとしているところをリヴェスに目撃させたかったのだろう。

 元から殺す気なんてなかったし、そもそもリヴェスは夫人の肩を持ったりもしないと思うが。


「あなたを殺すつもりもないし、今回は殺してないですよ。この人達だってあなたが依頼してますよね」

「何を言っているの…?私がそんなことをするわけ…」


 白を切ろうとする夫人の話を遮り、ルーペアトは更に話を続ける。


「まず初めに私が襲われた時、誰かが助けてくれた人がいることを屋敷の人にしか伝えていません」

「親族だから知っていて当然じゃない」

「では、リヴェスは夫人に伝えましたか?」

「いいや、屋敷の人間以外には話さないように言ってある」

「では、知っているのはおかしいですね」


 夫人がルーペアトが襲われたことについて話したのを聞いたのはルーペアトだけだ。

 これではまだ言い逃れが出来てしまう。だから他の証拠も突きつける。


「それから夜会は上位貴族が来るから警備も厳重なんです。暗殺者が入って来るのは難しい。それなのに入って来たということは、誰かが手引きしたということ。そしてここに連れて来たのはあなたですよ」


 この部屋に来るまでの様子は、廊下ですれ違った騎士や使用人達が見ている。

 偶然とは言わせない。


「…そもそもどうして私があなたを殺させる必要があるのよ!」

「どうしてって…、あなたは自分の娘をリヴェスの妻にしたがってましたよね。そのためには私が邪魔じゃないですか」


 夫人にルーペアトを殺す動機は十分ある。

 家のためならどんな手を使ってでも事を成し遂げようとするなんて、いつか気づかれるというのに。


「それだけで私を犯人扱いするつもり?」

「もう十分だと思いますけど、まだ話はありますよ」


 夫人が中々認めないから他にも話そうとしたところ、気絶させておいた内の一人が目を覚ましてしまった。


「痛ってぇ…、こうなったのは…お前のせいだ!」


 男はそう言いながら夫人に切りかかろうとした。

 その時、ルーペアトは動こうとしていた足を止め一瞬助けるのを戸惑ってしまう。ここで夫人が切られるのは暗殺者を依頼した夫人の自業自得だ。助けなくてもいいのではないか、そんな考えが頭を過る。

 しかし、それでも罪は償ってもらわないと。

 止めた足を動かし、再び男を気絶させた。


「…この男が証言してくれそうですね」


 殺されそうになって顔面蒼白になっていた夫人はもう認めるだろう。

 そして、次は―


「それと、ミアも証言してくれるでしょう?」


 ルーペアトはミアの方を向き、鋭い表情を向けた。


「お嬢様!?私は何も…」

「ミアは夫人が就けた侍女。次に夫人に私が助けてくれた人がいたことを伝えられるのもあなただけ。そして、私が呼ぶまで入って来ないように言ったのに入って来た、違う?」

「それは…」


 呼ぶまで入って来ないように言っていたことに関して、この部屋から会場までの距離を考えるとミアは言われてからすぐにリヴェスを呼びに行っていることがわかる。

 始めからルーペアトの言葉に従うつもりはなかったということだ。


 何も言えなくなっていたミアもよそに、ルーペアトはリヴェスに話に行く。


「証拠は言った通りです。後はお任せします」

「…ああ。ジェイ、二人とも連れて行け」

「はい」


 ジェイと他の騎士達は夫人とミアを拘束し連れて行く。

 夫人はもう黙ったままだったが、ミアは連れて行かれる最後までルーペアトに訴えかけていた。


「お嬢様!お許し下さい!逆らえなかったんです…お嬢様と過ごした時間は本当に楽しくて、その心に偽りはないんです!」

「私は初めからあなたのことを信用してなかった」

「っ!お嬢様……」


 涙を浮かべて叫んでいたが、夫人の態度が一変してから誰も信用出来なくなっていたルーペアトには、その涙も楽しかったという言葉も全て演技にしか見えなかった。

 例え本当だったとしても、嬉しくもなんともない。


「…良かったのか?」


 それはあんなに訴えかけてくる侍女をバッサリと切り捨てたことに関しての言葉だろう。

 対してルーペアトは勿論、「はい」と真っ直ぐ答えた。

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。

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