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インテリマフィアのオルゾさん少女を連れ帰る4

 オルゾは紅茶を口にしながら、目の前でマカロンをはぐはぐと食べて目を輝かせている少女を観察する。

 実際、ダロワイヨのマカロンは美味い。もちろんオルゾ自身も好きではあるから常備しているのだ。

 だが、彼女の様子はそれとは違う。

 こんな美味しいもの初めて! とでもいう様子だ。


「腹が減っているのか?」


 彼女の口の動きが止まる。


「別に責めてる訳じゃない。誘拐されていて飯が食えていなかったなら、ちゃんとした食事を用意した方が良いか」


 誘拐されていて、満足に食事が与えられなかったか、あるいは彼女が警戒して食事を摂取しようとしなかった場合もあり得るとオルゾは考え、そう問うた。


「……ううん、大丈夫」


「そうか。まあ食ってろ」


 オルゾはソファーから立ち上がると、冷蔵庫から追加として緑色のマカロンを彼女の皿の上に置く。彼の好まないピスタチオ味(ピスターシュ)である。

 そしてデスクからスマイソンの革表紙のノートブックと、愛用のデュポンのライター(シュート・ザ・ムーン)とセットの万年筆を手に戻ってきた。

 オルゾはソファーに座って長い脚を組むと、ノートを開きながら尋ねる。


「話を聞いていいか? 食べながらでいい」


 ラファエラの表情に緊張が走る。だが彼女は肯定した。


「ええ」


 彼女は訥々と話し始める。

 自分がロッセリーニ家の娘であるラファエラ・ロッセリーニであること。歳は15歳で学校の帰りに自分一人が誘拐されたこと。身代金がどうのという話をされていたこと。


「ふむ、ロッセリーニ家はナポリだったか?」


「ええ」


「随分離れたところに連れてこられたな」


 オロトゥーリア組の縄張り(シマ)であるこの港町はナポリからはだいぶ北西であり、むしろローマに近い。高速道路沿いでもない道を150km程度は走ってきたことになる。


「あの、ここがどこか分からないの。外が見えないように移動させられていたから……」


 彼女は不安げにそう呟いた。

 失言であったか、とオルゾは思う。携帯のアプリで地図を起動し、イタリアの地図を示した。


「ここがナポリで、ここがローマ。ラティナは分かるか? 俺たちが今いるのがここで……」


 彼女は熱心に地図を覗き込む。長い黒髪が流れてオルゾの手を擽った。

 まあ、ロッセリーニ家は元々は有力な貴族の家系でもあるイタリア財界の大物だ。ナポリは特に彼の家の本拠地である。防犯カメラの多い主要道から外れながら、影響力の及ばぬ範囲に逃げてきたとなればここを通ることもあるのかもしれない。


「で、どうしてここで逃げ出したんだ?」


「理由なんてなくて、たまたま犯人たちがここで休憩をとったから」


「彼らはお前に何か言っていたか? 誘拐の目的とか……」


「身代金という言葉は聞いたわ。でも彼らや組織の名前とかは分からないの。ごめんなさい」


「いや、それは謝るようなことじゃない。それに、さっき捕まえた三下どもに尋問すれ(きけ)ば済むことだ」


 オルゾの長い指がノートの上で万年筆の尻を神経質そうに叩いた。

 さて、どう考えても厄ネタである。それも特大の。

 警察やロッセリーニ家は間違いなく彼女を追っているだろう。どこの組織バカか知らないが、彼女を拐った奴らも取り返そうとするだろう。

 ここでラファエラを隣町あたりの警察の前にでも放り出せば少なくとも厄介ごとの半分以上は無くなりはする。

 だが警察はなあ、とオルゾは思う。後者の組織には恨みを買うだろうし、警察に丸投げするのはマフィアとしての面子メンツに関わる。


「ふぅ……」


 オルゾの口から溜め息が漏れた。

 マフィアの構成員となる時に誓う沈黙の掟(オメルタ)にも警察と交友関係を結んではならないとあるが、オルゾはより厳格に警察と関わることを自ら禁じていた。最悪そうするが、可能な限り避けたいことである。

 オルゾが黙考している少しの間、ラファエラは不安げな瞳を彼に向けていた。


「一番手っ取り早いのはお前を警察に預けることだが……」


 ラファエラの顔から血の気が引いていく。オルゾはそれに気づき尋ねた。


「警察は嫌なのか」


「い、嫌じゃないけど……?」


 声が震えている。どう見ても嘘であった。

 オルゾはラファエラという娘の人生を知るわけではない。本来なら良家のお嬢様であるはずだが、なにか警察沙汰を以前起こしたり警察官に何らかの心的外傷トラウマがあるのかもしれない。だが、少なくともそれはオルゾにとって好都合である。よって彼はそれについては追求せずに続けた。


「まあ、警察が嫌なら、ナポリのお前の家まで連れていかなきゃならねえが、その前にお前を拐った奴らについて調べたり対処しないとならん」


 ラファエラは頷く。


「それだと、多少の時間はかかるが構わないか?」


 ぱっと彼女の表情が明るくなった。


「うん!」


 話していると、外から事務所のガレージが開く音がする。オルゾは立ち上がり、窓際に立ってブラインド越しに外を覗いた。

 エキーノがこちらを見上げていて、視線が合ったことに気づいて頭を下げた。彼の横ではパン屋のバンがガレージの中に進んでいく。

 捕えたチンピラ二人を送って貰う途中で、エキーノと合流したのだろう。

 背後から声が掛けられる。


「……どうしてそう良くしてくれるの?」


 オルゾは振り返り、冷めた目で告げた。


「馬鹿言うな。慈善事業チャリティーワークなんざしてやる気はねえぞ。お前の親にはかかった手間とかけた時間以上には金を請求するからな」

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― 新着の感想 ―
[一言] 裏がありそうですねえ( ˘ω˘ )
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