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インテリマフィアのオルゾさん少女を連れ帰る2

 裏通り(バックストリート)には似合わない、独特なヘッドライトの目立つオープンカーがこちらに向かってくる。

 アルファロメオの4C Spiderである。それはぴたりとテオドーロの家の脇に停まった。

 オルゾの車を運転していたからか、どこか緊張した表情を安堵に変えたエキーノがオルゾたちの方を見上げた。

 その表情が驚きに染まる。エキーノは車のドアの上から身を乗り出して言った。


「オルゾさんが女の子と痴話喧嘩を……!」


「ブッ殺すぞ」


 オルゾはテオドーロに辞去を告げると、ラファエラの被るフードをぐいっと前に引っ張った。ラファエラは抗議の声を上げる。


「ちょっと、やめてよ!」


「髪をちゃんと隠しておけ、行くぞ」


 オルゾはそういうと車の方へと歩き出した。

 エキーノは車から降りてオルゾに頭を下げる。オルゾは彼の頭を軽く叩いた。


「痴話喧嘩じゃねーんだよ」


「すいません。オルゾさん、こちらの方は……」


「今回の渋滞の原因となっただろう小娘だ」


「ラファエラ!」


 彼女は不満げに声を上げる。漫才ダブルアクトのような息の合ったやりとりにエキーノは思わず吹き出す。


「何笑ってんだよ、まあいい。一旦、ウチの事務所へと連れていく」


「はい」


「道はどうだ」


「駅に向かう方は動いてないですが、事務所に戻る方なら大丈夫です」


 それを聞いて、オルゾは顎でラファエラに助手席に座るよう促し、彼は運転席に向かう。助手席でシートベルトを締めるラファエラはどこか落ち着かないようにも、僅かに浮かれているようにも見えた。

 オルゾは運転席につくとエキーノを見上げていう。


「悪いがまた走って戻ってきてくれ」


「ういっす」


 オルゾはエキーノに無情にもそう告げた。アルファロメオの4Cは二人乗りの自動車であった。

 甲高い排気音が裏通りに響く、頭を下げるエキーノを背後に置いて車は走り始めた。


 裏通りから中心街へ。そこから離れるようにティレニアの方に向かって。

 駅の方ではまだ煙など上がっていたし、何かを探すような素振りを見せる面識のないチンピラの姿がある。彼らは目立つオルゾの方に視線をやるが、隣の女が捜している者だと気づいた様子はない。

 彼らも焦っているのだ。彼らは追う者であり、追われる者でもあるのだから。

 そう判断できるのはオロトゥーリア組の構成員ソルジャーたちが彼らを追っているのもまた見えるためだ。武闘派の古参幹部であるグラーノの部下だろう。

 他組織の縄張り(シマ)で騒ぎを起こすとはそういうことであった。

 中心街から離れて、海が見えてきたあたりでオルゾは声をかける。


「おい、こ……ラファエラ」


「……何?」


 少女らしい可愛い声ではあるが声に険がある。今、景色を見つめる目は輝いて、口元は僅かに弧を描いていたというのに。ハリネズミが警戒してさっと棘を立てて丸くなったかのようだ。

 オルゾは少し考え、口を開く。


「オープンカーは初めてか」


 常に話の本題から入るオルゾにしては珍しく、別のところから話を切り出した。


「うん」


「気に入ったか」


 ラファエラはしばし口を噤んだ。車に乗っていれば沈黙も気にならない。オルゾは言葉を急かすこともなく、ゆったりとした動きでハンドルを回した。

 少し遠回りをする。オルゾの事務所は中心街から海へと下る道の途中にあるが、いちど港へと向かうルートをとった。


「……風が気持ち良いわ。ちょっとうるさいけど」


「そうだな」


 海沿いの道を走る。きらきらと陽光を受けて白く煌めく蒼の上を、漁船やヨットがゆっくりと線を曳きながら滑っていく。

 オルゾの視界には水色のフードを被った後頭部のみが映る。ラファエラの首は海に向かって固定されているからだ。


「海を見るのは初めてか?」


 声をかけられたのに驚いたのか、彼女の肩がびくりと揺れる。


「……そんなことはないわ。でも海は好きよ」


「お前が乗っていたリムジンから見る景色とは違うか? ラファエラ・ロッセリーニ」


 ラファエラが振り返る。オルゾの碧の視線と彼女の灰色がかった青い視線が絡んだ。ラファエラはしばらく黙っていたが、オルゾは運転のため正面を向いた時に口を開いた。


「なんでその名前を……?」


「調べれば簡単に分かることだ」


 オルゾはそう言うが、決して簡単に分かるようなものではない。それを知るラファエラは、「嘘……」と呟く。オルゾは正面を向いたまま語り出した。


「名門、ロッセリーニ家の娘が先日、誘拐されたという。名前はラファエラ。お前のことだな?」


 この情報はまだ報道には伏せられていて公開されていない。警察や裏社会に情報網が無ければ知り得ぬものであった。

 先ほど、テオドーロお爺さんの家で服を持ってきてくれたパン屋の女将から聞いている。オルゾという男はこの町を牛耳るオロトゥーリア組の顔役だと。ラファエラはそれを思い出し、観念したかのように肯定した。


「……そうよ」


「自力で逃げ出したのか」


「ええ」


 オルゾは正面を見て考え始めたようで会話が途切れる。4C Spiderの排気音のみが車中に響く音となった。車は海沿いから離れて緩い坂を登りだす。


「ちょっと、何か言ってよ」


 オルゾは車を停める。横の建物のガレージが自動的に開き始めた。どうやら目的地についたようだ。

 彼はラファエラの方に顔を向けると、薄い唇の端を歪めて言った。


「いや、お前、やるじゃないか」


 ラファエラは何故か頬の熱くなるのを感じ、ぷいと顔を背けた。

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