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インテリマフィアのオルゾさんと無貌の天使  作者: ただのぎょー


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32/43

閑話:ある少女。

「……ではラファエラさんはオルゾを名乗る男に保護されたということですが、特に何も要求されることなく、ご両親のもとまで連れてこられたということよろしいですね?」


 そうラファエラに問いかけるのは女性の警官である。ラファエラは肯定した。


「ええ、何も要求されていません。それどころか、保護された上に便宜をはかってくれました」


 ここはグランド・ホテル・ヴェスヴィオの一室。ロッセリーニ夫妻はサンタルチア地区にあり、サン・カルロ劇場からも近い五つ星ホテルをとって娘の解放を待っていたのだ。

 海に臨んだ(シーヴューの)卵城とナポリ湾が見える風光明媚な部屋である。秋の日没は早く、海はもう暗く染まってしまったが、卵城は鮮やかにライトアップされていた。


「なるほど、例えば?」


「着替えや食事、眠る場所の提供、ナポリまで連れてきてくれたことなどです」


 ヴィテッロ組の追っ手を撃退してくれたことは伝えなかった。運び屋の男たちを尋問したと言っていたし、そもそも追っ手のうちの一人はアキッレーオである。うかつなことを口にし、彼らにさらなる迷惑をかけるつもりはないのだ。


「彼らからなにも被害は受けていないと」


「ええ」


 警官としてはオルゾらにも何らかの危害を加えられたことにしたいのかもしれない。例えばオロトゥーリア組を調査する口実のために。あるいはこの女性警官か、壁際に立っている彼女の上官であろう警官にヴィテッロ組の息がかかっているのかもしれない。


「私が拐われたのはヴィテッロ組というマフィアなんでしょう? そいつらを捕まえてよ、早くね」


 ラファエラはそう言い放った。それは子供が大人に、それも警官に取るには不遜な態度である。だが、本物の(・・・)ラファエラはこういう少女だ。


「ええ、ヴィテッロ組という名はオルゾという男から聞きましたか?」


「そうよ」


「それはラファエラさんを騙すための言葉かもしれません」


 ふん、とラファエラは鼻で笑った。なるほど、ヴィテッロ組に買収された警官だ。

 背後から咳払いの音が一つ。


「娘も随分と疲れているようだ。調書を取るのも大切だが、明日以降にしてはくれないかな? 数日ぶりに帰ってきてくれたのだからね」


 ラファエラの父、ブルーノである。

 警官は頷いた。


「……そうですね。お手数をおかけしました。また後日お話を聞きに伺います」


「ええ、調査には協力するわ」


 警官たちはホテルを後にした。

 はあ、と溜息を一つ。


「ありがと、パパ」


「ああ。さあ、夕飯にでもしないか? ママも準備しているよ」


 そういってブルーノはラファエラの肩に手を置く。ラファエラはその手を取って言った。


「レストラン?」


「ああ」


 ブルーノはホテル内のレストラン、ヴェルディを予約してあった。ラファエラも好きな店である。


「レストランじゃなくてさ。部屋で三人で食べたいな。……だめ?」


「もちろん構わないとも」


 ブルーノは思う、拉致により数日別れたことにより、幼児返りとまでは言わないが少し甘えたになったと。

 むろん、これはラファエラになされた演技指導の一環である。どれだけ本人になりすましても、親の目はそうそう欺けない。

 それであれば、あえて不自然な点を作ることで、誘拐による恐怖で変わったのだと思わせるためである。

 ブルーノはフロントにレストランの食事を部屋に運ばせ、三人での食事を楽しんだ。

 そしてくつろぎ、ゆっくりとお風呂に入り、広い浴槽に身を預けたところであった。

 気の緩むはずの風呂の中でラファエラの顔が苦悶に歪む。


「うぅっ……」


 カゼルタからナポリへの車中でオルゾは言った。盗聴器など電子機器が仕込まれている可能性があるから持っていたものは捨てろと。

 彼の言葉に間違いはない。実際に戻ってすぐ服や鞄に盗聴器が仕込まれているのを確認したし、スマートフォンにも彼らの連絡先が入っている。

 だが、彼女自身に仕込まれているとまではオルゾも考えていなかったようだ。


「アンジー オマエヲ カンシ シテイルゾ」


 彼女の脳裏に響く無機質な声がある。

 ラファエラは顔を押さえた。


「ヴィテッロ カラハ ニゲラレナイ」


 響いているのは脳裏ではない。骨である。

 彼女自身知らなかったことだ。整形の際に超小型の骨伝導スピーカーが彼女の顔に埋め込まれていることなど。

 おそらくはポモドーロと呼ばれた男の声である。ただ、骨を伝わっているためかスピーカーが埋め込まれているためか、その声はひどく奇妙に歪んでいた。


「ヤラネバ アンジー オマエノ イタ シセツヲ ヤク」


「分かってる。必ず殺すから……!」


 少女は囁くようにそう答える。それが向こうに伝わっているのかどうかはわからない。だが、音はそれ以上続くことはなかった。

 彼女がオルゾに助けを求めなかった理由。それはもちろん会って間もないこともある。だがそれ以上に、この声が逃げ出してから何度も聞こえてくるためっであった。


「オルゾ……」


 祈るような呟きは水面に消えていった。

 孤児のアンジー、それが彼女の名である。

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