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インテリマフィアのオルゾさんと無貌の天使  作者: ただのぎょー


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30/43

インテリマフィアなオルゾさん、思索する。

「何、どうしたの!」


 ステラマリナが慌てて部屋からダイニングにやってくる。オルゾはそれに反応する余裕がない。エキーノが彼女に話を伝えた。

 オルゾは蹴り倒した椅子を立て、そこに座ると机に左の肘をついた。右手は銀の髪をかきむしっている。


「オルゾ、そうじゃないだろう」


 アキッレーオがオルゾに声をかける。


「お前の考える姿勢はそうじゃない」


 オルゾは胸を張って背もたれに背を預け、片手を肘置きに、片手を眼鏡に翳した。

 オルゾにとっての一種の思考のルーチンでもある。それに俯いていれば呼吸が浅くなり、脳にいく酸素が減る。この姿勢はそれを避けるためでもあるのだ。


「感謝する、兄貴」


 そう言ってオルゾは思考に沈んだ。

 確かにラファエラ、実はラファエラではなかった彼女に不自然な点は多かった。彼女が殺し屋としての訓練を受けていたというなら説明はつく。

 例えば出会ったとき、屋根の上を走っていたこともそう。

 警察を嫌がったのもそう。

 運び屋が彼女をローマからナポリに運んでいたというのもそうだ。本物はナポリからローマに運ばれていて、代わりにヴィテッロ組にいた暗殺者をナポリに運んでいたと考えれば当然のことだ。

 なぜ彼女が逃げようとしたのかは知らないが、組にいては警戒が厳しかったのを輸送中に警戒が緩んだ隙に逃げ出した。辻褄は合う。


「ラファエラ……とは呼べないのか。あの女、偽ラファエラもついてないな」


「ふむ?」


 アキッレーオが続きを促す。


「マフィアから逃げ出して別のマフィアに捕まったってことだ」


 逃げてどこへ行くつもりだったのか。当てはおそらくなかったのだろう。だが、結局は別のマフィアに捕まって観念した、あるいは絶望したのではないだろうか。


「ステラマリナ」


「なにかしら」


 彼女の声にも棘がある。その棘は彼女の悩みを気づけなかった自分へ向けられているのかもしれないが。


「お前から見て、あの女が金持ちの令嬢であるとした場合、不自然な点はあったか?」


「大した額でもないのに買い物に遠慮している風ではあったわ。確認はできてないけどブランドも詳しくなさそうだった気がする。自分のファッションが確立されてないっていうか……」


「すいません、俺が余計なことを」


 エキーノが口を挟む。


「まだ学生だから、そこまで大量に買ったりはしないんじゃないかなどと言ってしまった気がします」


 ステラマリナは首を横に振る。


「実際、若い子だし他に興味あることも多いもの。私もそう思ったわ」


 例えば部活、あるいは絵画や音楽に傾倒してファッションに興味ないという子などいくらでもいるということだ。

 オルゾは舌打ちを一つ。


「マカロンをよ、妙に美味そうに食ってたんだよなぁ……」


 溜息が揃った。

 当たり前だがあの歳である。彼女がアキッレーオのように殺し屋として金を稼いでいたということはあり得ない。

 ヴィテッロ組に殺し屋として育てられていたということだ。

 エキーノが問う。


「急がなきゃまずいんじゃないですか? ラファエラが、いや彼女の偽物がもう仕事をしちまうかも」


「……アキッレーオ」


 しかしオルゾは動かず、兄の名を呼んだ。


「なんだいオルゾ」


「ロッセリーニ夫妻を殺せるか?」


 エキーノとステラマリナはぎょっとした表情を見せた。しかしアキッレーオはこともなげに言う。


「殺すだけなら簡単に。ただ、その後で逃げ切るのはキツいかもね」


「分かった」


「殺すのかい?」


「いや、偽ラファエラ、あるいはヴィテッロ組の狙いが分かった。パウロ・ロッセリーニ、老ロッセリーニ侯だ」


「ああ、表に出てこない人間を殺すためか。確かにそれは俺でも無理だ」


 ロッセリーニ侯はもう公の場に姿を見せることなく、広い敷地に囲まれた自宅の城にて何年も静養している。

 それを殺すとなれば確かに尋常な手段では難しいだろう。


「だが、ヴィテッロ組がそこまでする理由がわからんが」


「殺しの依頼を受けたんじゃないの?」


 ステラマリナが問う。


「依頼するならナポリのカモッラにするだろ」


 イタリアの闇社会ミリューには多くの組織がある。シチリア生まれのマフィアが有名であるため、どれもマフィアと混同されがちであるが、例えばコルシカ島生まれの組織はユニオン・コルス、カラブリアであればンドランゲタ、マフィアの中でもアメリカに渡ったものはコーサ・ノストラなど。

 そしてナポリを中心にカンパニア州を根城にしている組織はカモッラと呼ばれる。

 オルゾは外部からの依頼ならカモッラを通すと言ったのだ。


「それにあの偽ラファエラを仕込むのにどれだけの時間がかかる? 大人じゃなくて成長する子供の顔に合わせるんだ。整形の手術だって一度や二度じゃ済まないし、それに殺しの技を仕込む必要もある。何年もかかるだろう。依頼でできることじゃねえよ。間違いなく怨恨だ」


「ねえ、オルゾ。それなら、彼女はまだ人を殺したことはないのかしら」


 ステラマリナが伏目がちに問う。それに対して正確な答えなどオルゾは有していない。例えば、訓練で人を殺したことならあるかもしれない。だが彼はこう答えた。


「ヴィテッロ組が作り上げた一発きりの、それもとびきり高価な銀の弾丸(シルバー・バレット)ってやつだ。他の殺しの仕事をさせたことは絶対にないな」


「……それだけは良かったわ」


 ステラマリナは言う。

 だが、とオルゾは思う。銀の弾丸とて弾丸である以上、使い捨て(イクスペンダブル)なのだと。

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[一言] HEEEEYYYY。あァァァんまりだァァアァ
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