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インテリマフィアのオルゾさん少女を連れ帰る1

 ラファエラと名乗った少女をオルゾは頭上から爪先まで観察する。

 彼女は身を守るように自らの身体を抱いて言った。


「な、何よ!?」


「着替えろ。汚ねえし、追われているんだろ? 服くらい替えるべきだ」


 逃亡者であるなら少しでも外見の印象を変えたほうが良いだろう。そうオルゾが言えばパン屋の女将も頷く。


「そうねそうね、テオドーロお爺さんのところでお湯を借りたらどうかしら? その間に娘の服で良ければ持ってくるわ」


 テオドーロとは先ほど銃を撃ち、オルゾたちを助けた老爺のことだ。


「頼みます」


 オルゾはそう言うと、女将は自宅の方へと戻った。オルゾはテオドーロの家へと向かう。


「爺さん」


「おう、聞いていた。汚ねえ家で良けりゃあ勝手に使え」


 飴色に色づいた年代物の海泡石メシャムパイプを咥えて、老爺はコリエーレ(・デラ・セラ)から顔を上げることもなくそう言った。

 オルゾは突っ立ったままのラファエラに顎で老爺の家を示す。


「ほら、とっとと入ってこい」


「ちょっと、勝手に決めないでよ!」


 彼女は憤慨し、オルゾは口元を歪めた。


「ほう? 今時の小娘は臭いままが好みか?」


「そ、そうじゃないけど! ほら、追われてるし逃げないと……」


「小娘一人で逃げるよりは俺たちの手助けを借りた方がマシだろうよ。それともアテがあるのか?」


 ラファエラはがくりと肩を落とした。


「ないわ……。お爺さん、シャワー借ります」


 ラファエラは家の中へと消えていった。オルゾはテオドーロの向かいの椅子を引き、勝手に座る。

 そして周囲を一瞥してから居住まいを正した。


「助かりました」


 オルゾは頭を下げる。

 ラファエラや住人たちの目の前で見せていた態度とは違う振る舞いであった。

 老爺は初めてオルゾに視線を向ける。灰色の視線が碧の視線と交わった。


「なに、ちょいとお節介だったかの」


「いえ、感謝します。顧問コンシリエーレ、何があったか、奴らが誰かわかりますか?」


 テオドーロはオロトゥーリアファミリーの顧問の一人である。

 オルゾが組に入った時にはすでに隠居同然の身であったが、首領ボスと共にオロトゥーリア組の立ち上げの頃にずいぶんと暴れたという噂は聞いている。

 古参の幹部であるグラーノなんかは随分と世話になり、頭が上がらないという人物だ。

 彼がそうであることは住民の大半は知らないし、知る必要のないことである。オルゾも人目のないところでのみ、彼に敬意を示しているのだ。


「さあのう。ウチの奴らじゃあないのは間違いないが、どこの誰かは知らんな」


 顧問である彼が、それもこの地をオルゾが生まれるより前から見ている彼が知らないというのであれば、この町や近隣の組織の者である可能性はかなり低いように思えた。例えば先日、オルゾが壊滅的な打撃を与えたポルポ組などの残党が攻撃を仕掛けているという可能性は低いと考えて良さそうだ。

 オルゾはそう判断する。懐から電話を取り出した。


「失礼、少々連絡などうるさくします」


「構わんよ」


 テオドーロは再び新聞に灰色の視線を落とした。


「おう、エキーノ。渋滞はどうだ。裏通りに入れそうか? 今はテオドーロ爺さんのところにいるんだが……」


 などとエキーノに連絡をしたり、本来今日商談をする予定だった企業に断りの連絡などをする。そして端末で情報を収集し始めた。調べるべきは多々あるが、まずはラファエラという少女からである。

 どことなく見覚えがあるんだよな……、とオルゾは思った。

 驚異的な記憶力を誇るオルゾにとって、その程度の印象しかないということは、直接会った人物ではないのは間違いない。自分の仕事ビジネスに関係ないが、どこかの資料などで一瞥したことがあるということだ。オルゾはそのあたりに目星をつけて探しはじめた。

 その間に女将が服を手に戻ってきたので家の中に届けて貰い、しばらくしてラファエラが戻ってくる。


「戻ったわ。お爺さん、お湯をありがとうございます」


 老爺は軽く視線を上げて頷いた。

 熱い湯を浴びたからか、追われていた緊張状態が一度リセットされたからか、頬や唇が瑞々しく赤み帯びて活力を取り戻しているようである。

 先ほどまでのどうみても安物であるという服ではなく、一応はしっかりとした服である。ただ特徴的な長い黒髪や顔を隠す意図であろうが、パーカーを被っているのが幼さを感じさせた。

 彼女はオルゾの前に立つと挑戦的な表情で彼を見上げた。


「マシになったみてえだな」


「……本音は?」


「ダセえ」


 オルゾは一言で切って捨てた。

 ラファエラが思ったより鋭く拳を突き出すが、オルゾはなんなくそれを受け止める。


「大人しくしていろ、ラファエラ・ロッシリーニ」


 びくり、と彼女の身体が揺れるが、オルゾは彼女の拳を掴んだまま離さない。


「とりあえずテメエを一旦保護しよう。悪いようにはしない」


 彼女は小さく、掻き消えるような声で呟く。


「悪人ほど悪いようにはしないなんていうものだわ」


 オルゾは口元を歪ませる。


「その通りだ。警戒していろ、小娘」


「小娘じゃないわ、ラファエラよ。オジサン」


 ちっ、と舌打ちが一つ。


「オジサンじゃねえ、オルゾだ」

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[一言] 清掃員のオッサンが社長のパターンのやつ!ww
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