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インテリマフィアのオルゾさんと無貌の天使  作者: ただのぎょー


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29/43

インテリマフィアなオルゾさん、真相を知る。

 オルゾたちはロッセリーニ夫妻が立ち上がるまで待ち、挨拶を交わす。

 夫妻にとっては娘との数日ぶりの再会だ。邪魔をする気はない旨を伝えた。


「オルゾ君と言ったか。感謝する。表立って君たちの組織を援助することはできないが、何かあった時は頼ってくれて構わない」


 ブルーノ・ロッセリーニ氏がオルゾの手を握る。

 オルゾにとって、ナポリの財界の顔ともいえ、さらには古い貴族社会に属する人物との間にパイプができた。

 これには金では買えないほどの価値があるとオルゾは考える。


「感謝します。もちろん恩に着せるようなことはいたしませんし、法に抵触するようなお願いはいたしませんとも。ナポリで何かありましたら連絡を入れさせていただきます」


 ロッセリーニ夫人にはステラマリナが同様に挨拶をした。そしてオルゾは最後にラファエラに声をかける。


「それじゃあ達者でな」


「あなたたちもね。……助けてくれてありがとう」


 そして四人は劇場を後にして再びリムジンに乗った。

 帰りの車中で、オルゾは電話にて副首領アンダーボスらに今回の顛末の報告をするが、それ以外は誰もが言葉少なであった。


「とりあえずこれでカタがついたんだろう?」


 アキッレーオが尋ね、オルゾは頷く。


「そうだな」


「じゃあよ、祝おうぜ! ちょうどここに……」


 と言ってリムジンの酒を漁りだす。


「さっきいいのを見つけたんだ」


 そう言って取り出したのは美しいマホガニー色をした酒である。


「マッカランか」


 スコットランド、スペイ川流域サイドにある蒸留所の名である。スコッチ・ウィスキーの最高峰とも言える酒だ。


「それも30年ものだぜ」


 アキッレーオの言葉にエキーノがおお、と感心とも溜息ともつかぬ声を上げた。

 マッカランの30年といえば定価でも1000ユーロはするが、そもそもプレミアがついて手には入らないものであり、オークションで10倍の値段はする。特に今年は蒸溜所の創業200周年で、さらに高騰が予見されていた。

 オルゾは笑う。まあ、車中に置いておくような酒ではない。明らかに首領からの贈り物であろう。


「もうすぐに家に着く。酒のツマミくらいは用意するし、ありがたくいただくとしようか」


 そういうことになった。

 リムジンは何事もなく四人をオルゾとステラマリナの住む新居へと送り届ける。

 ステラマリナがちょっと着替えてくるわと言って自室に引っ込んだ。男たちはジャケットを脱いで、タイを外したり緩めたりするだけだ。ドライナッツや生ハム(プロシュート)が皿に盛り付けられてダイニングに運ばれる。

 先に席についていたアキッレーオが言う。


「ま、ともあれ無事、暗殺者を送り込めたって訳か」


「……は?」


 オルゾが珍しく間の抜けた声を返した。


「誰を、どこに送り込んだって?」


「暗殺者をロッセリーニ家に、だろ?」


「誰が暗殺者だと?」


「ラファエラちゃん」


「うぇっ?」


 エキーノが驚きに声を上げ、オルゾは右手を頭に当てた。そしてゆっくりとした低い声で尋ねる。


「……なぜ、そう思った?」


「うーん、全体の雰囲気がそうなんだけど、主にあの子の歩き方と足音の静かさ、安定した重心の位置かな。あ、そうそう。それと俺とエキーノが戦っている時、あの子は俺の動きを目で追えていた」


「なぜ、それを俺たちに言わなかった?」


「……ひょっとして知らなかったの?」


 アキッレーオは驚きの表情を浮かべた。


「クソが!」


 オルゾは手にしていたマッカランの瓶をアキッレーオに向けて投げつけた。

 アキッレーオは飛翔するそれを危なげなく掴むと優しく卓上に置く。

 オルゾは大きな舌打ちをした。

 初めから分かっていることだ。この兄貴が社会不適合者であることも、常人にはあり得ないレベルの知覚能力を有していることも。

 何か気づいてないか聞かなかったのは自分の落ち度だ。


「……ロッセリーニ夫妻がラファエラではないと気づかなかったのはなぜだ?」


「顔は変えられるだろ。変装、いや化粧ではないし整形か。おそらく体格と声が似たのを探してきて顔と目の色を合わせたんじゃないかな」


「……目の色」


「カラコンか、目の色を変える手術か」


「そいつは非合法だ」


 アキッレーオは肩を竦めた。金を積めば非合法な手術を請け負う医者などいくらでもいるだろうという意味だ。


「……あいつマカロンをアマレッティと言いやがった」


「色覚異常かもね。一時的かずっとかはわからないけど」


「クソっ、何年がかりの仕込みだ」


 オルゾは銀の髪がくしゃくしゃになるほどに掴みながら考える。性格の違いなどという多少の不自然さは拐われた恐怖でと言えば誤魔化せるだろう。それも長期間じゃない、殺すまでの短期間なら。


「なるほど、確かにローマの休日ではなくシンデレラなんだろうよ」


 オルゾは呟いた。


「ふん?」


「別れ際のあいつの言葉だ。金持ちの娘に戻るんじゃない、金持ちの娘に変身したんだ」


 オルゾは手近な椅子を蹴り飛ばした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 無貌の天使ってそういう!? どうなる、続きが気になりすぎる
[良い点] 来た! 物語の大転換! そう来るのですね♪ ここで大団円は不自然ですものね~♪ 続きをお待ちします。
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