インテリマフィアのオルゾさん、ナポリに向かう:3
ξ˚⊿˚)ξ新年一発目の更新です。今年もよろしくお願いします!!
リムジンは高速道路に入る。
「高速一号に入ったか」
かつてミラノからローマに至る高速道路がイタリアの高速1号であり、ローマからナポリが高速2号であった。
現在ではそれらは接続され、ミラノからナポリまでを繋ぐ道路が高速1号と呼ばれている。
「太陽の高速道路って言いなさいよ。情緒がないわ。……それにしても良い天気ね」
ステラマリナが高速1号の別名を口にした。なるほど、その名に相応しく、窓の外には気の抜けるような青空が広がっていた。
「まあ天気は良いに越したことはない」
「護衛がしやすいとか情緒のないことを考えている顔だわ」
オルゾは頷く。手元のシャンパンを飲み干して置いた。
「ヴィテッロ組の者と会うのはカゼルタの町だ」
護衛の話が出たので丁度良いと話し始めた。
カゼルダはナポリの北30kmほどに位置する人口10万弱の都市である。
「観光地だな。この五人で観光ってならいいんだが」
アキッレーオが言う。
イタリアは全土が観光地であるようなものだが、そこは大きな町ではないにも関わらずカゼルタ宮殿などがユネスコの世界遺産に認定されてい観光地であるといえる。
オルゾは言う。
「残念ながら仕事だし、すぐにナポリだから滞在する時間もない。向こうの男と会うのはカゼルダ宮殿の前だそうだから、写真の1枚くらいは撮れるだろうが」
オルゾは時間がないの意味でそう言ったが、それに食いついたのはラファエラであった。
「写真撮ろうよ!」
「マフィアどもと写真撮ってどうすんだよ……」
ラファエラが俯きそうになり、オルゾは続ける。
「撮ったとして、絶対それ見られないようにしろよ」
「うん!」
などと話しながら一時間くらいまっすぐな高速を走ればそこはもうカゼルタである。ラファエラの口数が少なくなっているの誰もが気づいていたが、車内はステラマリナらが明るい雰囲気を保っていた。
車は高速を降りて市中へ。そして宮殿の前に止まった。
遠目には巨大な長方形の箱にも見えるカゼルタ宮殿。その前には中庭が広がり、その正面には宮殿へと至る道が真っ直ぐに伸びている。
「どこにいるんですか?」
エキーノが尋ねる。
「この道の上で目立つ姿をしていると言っていたが、ああ、あいつか」
足元にトランクケースを置いた白いスーツ姿の青年が道の途中に立っていた。サングラスをかけて目元が分からないようにしていても不機嫌さの伝わる表情で、街路灯に寄りかかるようにしている。
すこし離れた位置には彼の部下であろう護衛が立っているのも確認できる。
「確かに目立つがやりすぎだろう。もう秋だというのに」
観光客が遠巻きにこっそりとスマートフォンで写真など撮っていた。
オルゾたちは彼に近づいていく。
向こうもこちらに気づいたようで、軽く手を挙げるが、途中でその動きが止まった。顔に怒りの表情を浮かべて近づいてきたため、エキーノとアキッレーオが他三人の前に立ち塞がるように立つ。
だが、男の怒りが向いていたのはそのアキッレーオであるようだった。
「てめえ、アキッレーオ。良く俺の前に顔を出せたもんだな、ええ?」
男は凄む。一方のアキッレーオはきょとんとした表情を浮かべたが、その顔が笑みに変わる。
「ああ、その声。あんたがポモドーロか。ごめんね」
この男がアキッレーオにラファエラを連れてくるよう依頼したようだ。
アキッレーオは口では謝ってはいるが、反省している様子は全く見えない。
「ごめんじゃねえんだよ!」
「しょうがないじゃーん、保護していたのが弟だったんだからさ」
オルゾはすっと一歩前に出る。
「オロトゥーリア組のオルゾだ。なりゆきでラファエラ嬢を保護することになった者であり、そこにいるアキッレーオの弟でもある。兄が迷惑をかけたようだな?」
ポモドーロも本来の交渉相手が出てきたことにはっと襟を正し、オルゾに向き直り、白い帽子を取った。
「……お、おう。あんたがオルゾか。あー、あんたらの町で騒ぎを起こしたことを謝罪する」
「謝罪を受け入れよう」
二人は右手を差し出し握手をした。敵意はないと示すためである。
横でアキッレーオがエキーノに声をかけている。
「なあ、あのスーツ、ポモドーロ食べたらソース跳ねちゃいそうじゃない?」
エキーノは思わず吹き出し、ポモドーロは再び怒りを露わにした。
「何の話をしてんだてめえ!」
「まあ、あれは飛び抜けて腕がたつが、それなのにフリーランスであるというのを考えて依頼すべきだったな」
「……忠告、ありがたく受け取るとしよう」
さて、とポモドーロは足元のトランクに視線を向けた。
「ここにラファエラの私物を詰めてある」
「ああ」
ポモドーロは一歩横へ。ステラマリナの隣に立つラファエラを見た。
「……ラファエラ、分かってるな?」
ポモドーロは少女に向けて凄んだ声を放った。
「ええ」
「おい、ポモドーロ」
ラファエラは頷き、オルゾはその行為に苦情を言わんとする。
だがポモドーロはこう返した。
「こっちの立場になりゃ分かるだろうよ」
まあその通りではある。
拐っていた時のことを話すななどと脅しておかねばならぬというのは分からないではない。
「じゃあな、兄弟」
オルゾが何か言う前にポモドーロは踵を返した。
「あ、ポモドーロさぁ」
だがそこにアキッレーオの呑気な声がかかる。
「ちょっと一枚記念写真撮っていってよ!」
アキッレーオの手には写真モードで起動しているスマートフォン。
「……すげえなお前」
いっそポモドーロは毒気を抜かれたかのようにそう返した。




