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インテリマフィアのオルゾさんと無貌の天使  作者: ただのぎょー


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16/43

インテリマフィアのオルゾさん、兄貴を買収する3

 アキッレーオは床に転がり、椅子が倒れる。床が毛足の長い絨毯であるため、音は響くことはなかった。

 ただ壁際に控えていたウェイトレスが身を竦めて小さく悲鳴を上げた。


「痛いなあ」


 転がったままアキッレーオは特に痛がっている様子もなくそう言った。

 オルゾはフェラガモの革靴トルメッザで彼の肩を踏んで言う。


「痛いわけねえだろ。蹴られる方向に自分で跳んだ癖によ」


 オルゾは本気で蹴ってはいる。だが暴力沙汰に慣れているとはいえ、あくまでも常人の範疇である彼の暴力が一流の暗殺者や格闘家であるアキッレーオやエキーノには通用しないというのもまた事実であった。

 これはあくまでも部下を、エキーノを傷つけられた分のけじめなのである。

 それはアキッレーオも理解しており、彼の身体能力を考えればオルゾ程度の蹴りなど座っていても簡単に避けられる。彼が避けなかったということは、これでもアキッレーオはオルゾに反省しているという姿勢を示しているのだ。


「ちっ、まあいい」


 オルゾはコートを脱ぐ。腰の引けたウェイターがそれを受け取った。


「ああ、鞄は置いたままでいい」


 ウェイターが鞄もコート掛けの方に下げようとしたので、それは足下に残させてオルゾは椅子に座った。アキッレーオも自分の手で椅子を戻すと、肩についた足型を軽く払って椅子に戻る。

 オルゾはウェイターに視線を向ける。


「酒はいい、冷たい烏龍茶を。それを出したら呼ぶまで下がっていろ」


 相手が兄であるとはいえ、敵対の可能性のある商談である。ウェイターの持つ飲み物のメニューを断ってそう言った。


「おかたいねえ」


 アキッレーオはへらりと笑みを浮かべて言う。彼が手にしたグラスには白い泡を浮かべた黄金色のビール(モレッティ)


「乾杯するとしても和解の後だ」


「わかったよ」


 アキッレーオは肩を竦めた。


「ステラマリナ、ラファエラ。怪我はないな」


「ええ、さっき連絡した通りよ」


 ステラマリナは肯定し、ラファエラもこくりと頷いた。

 彼女の服装をオルゾは改めて眺める。ここは海際のさして大きくもない町だ。特別に高級なものが手に入るわけではない。

 それでもちゃんと清楚なお嬢様といった雰囲気にコーディネートしているのは、ステラマリナの腕によるものであろうか。


「ふん、見違えたな。美しき羽根が美しき鳥を作るというやつだ」


「どういう意味?」


 ラファエラが首を傾げ、オルゾはそれに答える。


「褒めてるのさ」


「褒めてないわよ」


 呆れたようにステラマリナは言った。


「服がかわいいからお前はかわいいなって言ってるんだから」


 言葉の意味としては馬子にも衣装と言っているのだ。だがオルゾは首を振る。


「結構なことじゃないか。服が男を作る。同じことだ」


「はいはい、着道楽らしい言葉だわ」


 ラファエラはオルゾとステラマリナが言葉を放つたび、きょろきょろとそちらを向いて首を振り、困惑している様子だ。

 だがその動きを止めてオルゾに頭を下げた。


「服を買ってくれてありがとう」


 ふん、とオルゾが鼻を鳴らし、笑い声が響いた。アキッレーオのものだ。


「こうして見ていると家族のようだな」


「やめろ、兄貴」


 オルゾは露骨に顔を顰めた。ステラマリナが笑う。


「ステラマリナさん、オルゾの雰囲気が柔らかくなったのはあなたのおかげかな?」


「やめろといったぞ、兄貴。それより話だ」


「はいはい」


 アキッレーオもまた笑みを浮かべたまま懐からスマートフォンを取り出す。そして電話をかけ始めた。

 スマートフォンを耳に当てたアキッレーオが妙に明るい声を出す。


「ああ、ポモドーロさんですか。アキッレーオです」


 ポモドーロ(トマト)とはふざけた名前だとオルゾは思う。フリーランスとの取引のための明らかな偽名であるのは明らかだった。

 一方でアキッレーオは実名のまま暗殺者をやっているのがどこか奇妙な笑いを覚えさせた。電話は続く。


「ええ、そうです。ラファエラ・ロッセリーニ嬢を誘拐するという依頼を受けた者です。ポモドーロさん、申し訳ないがその仕事はキャンセルってことにさせてください」


 アキッレーオはスマートフォンから耳を離した。電話口の向こうから、男の罵詈雑言が微かに聞こえる。

 それが収まった頃にアキッレーオは再びスマートフォンを耳に近づけて話し始めた。


「いやね、前にお伝えした通り、俺がオロトゥーリア組の関係者じゃねえってのは間違いないんすよ。実際、あそこの構成員とやり合ったこともありますし。ただね、あそこの幹部の一人、オルゾって男は俺の実の弟なんだ。あいつだけは裏切れねえ。あんたも名誉ある男ならわかるでしょ?」


 再びアキッレーオは少し耳を離すとまた罵詈雑言をやり過ごしてから言った。


「ええ、ラファエラ嬢が他の奴のとこにいるなら、俺も気にせず捕まえてくるんですがね。あいつが保護したってんでは話は別です。ええ、ポモドーロさん、ラファエラ嬢はオルゾのとこにいますよ。こいつは忠告ですが、交渉するなら組を通じてが良いと思いますね。俺もそれに関しては邪魔をしませんが、オルゾに手を出すなら俺も敵に回りますよ。じゃあそういうことで」


 と言って、一方的に通話を切った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本名で暗殺者やってるの、ゾルディック家みたいでカッコイイ( ˘ω˘ ) 余程腕に自信があるんでしょうね( ˘ω˘ )
[一言] (*´ー`*)トマト野郎、オルゾさん相手にどう出てくるのかなぁ。あんまりお利口さんじゃなさそう。
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