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インテリマフィアのオルゾさんと無貌の天使  作者: ただのぎょー


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オルゾさんの鞄持ちのエキーノ、襲撃を受ける1

 ステラマリナのFIAT500の赤い車体の背後から現れたのは金髪に淡い碧の瞳の男だった。


「オっ……」


 ステラマリナはなぜかオルゾと言い掛けて止まった。違う、全く似てはいない。そもそも髪の色も違うし、オルゾはあんなに軽薄な笑みを浮かべない。

 だがどことなく似た雰囲気を感じさせるのだった。

 今、エキーノは何と呼んだか。


「アキッレーオさん、あんたがなんで……」


 そう、アキッレーオ。ステラマリナは面識がないが、オルゾの兄の名ではなかったか。

 自分たちの新居に結婚祝いとして巨大なペンギンのぬいぐるみ(アーサーちゃん)を贈ってくれた人ではなかったか。

 だが彼の右手にはイタリアンスティレット、つまり飛び出しナイフ(スイッチブレイド)が日没間際の陽光を反射してか、エキーノの血の色か、赤く鈍く輝いている。

 刹那、アキッレーオの姿が消えた。少なくともステラマリナにはそう見えた。

 だがエキーノにはそうではないようだ。

 風を切るように刃の銀が煌めいたがエキーノは上体を反ら(スウェーバック)し、それを回避してみせた。


「へえ」


 アキッレーオが感嘆の声を漏らす。彼の動きはつかみどころのない風のように素早く、そして稲妻のように激しい。

 動いた方向と別の方向に加速することで視線を切るのだ。右にいくと思ったら左、左に目を移した時には下。そして手にした刃や蹴りが飛ぶ。

 一方のエキーノは先ほどステラマリナらを抱えた時とは違い、その場から動かない構えだ。それは二人を護る、ここを通さないという覚悟である。

 しかし決して彼は鈍重に構えているわけではない。

 足はその場でステップを踏むようにし、頭や上体は小刻みに動かして的を絞らせないウィービングの技術。ボクシングの基本的なスタイルであった。

 前に屈ん(ダッキング)で迫り来るナイフに身を差し出すように紙一重で避け、そして相手の懐に潜り込むように前進。反撃の拳をアキッレーオの腹に撃ち込まんとするが、その時には彼は既に三歩の距離を後退。

 しかしそこで足がもつれるようにたたらを踏んだ。

 ステラマリナは追撃のチャンスに見えた。だがエキーノはそうせず、一歩下がって再び構えを元に戻した。


「やりづらいね」


 笑みを崩さずアキッレーオが呟く。


「護衛っすから」


 エキーノは拳で頬を擦りながら言う。躱しきれなかったナイフが頬に傷をつけていたようだ。

 体勢を崩したのはわざと、誘いであったようだ。エキーノに追撃させてそれをすり抜け、背後のステラマリナらのところに向かおうという意図だったのだと、今のやりとりでステラマリナも気付く。


「"殴られ屋"……」


 ステラマリナがエキーノのよく知られた二つ名を呟いた。

 それは彼がオルゾの鞄持ちとなるより前、彼の職業がそれであったことに由来する。

 殴られ屋とは金がなかったり引退した格闘家が路上に立ち、道ゆく人に殴られることを商売とするものである。

 数十秒の間、素人の拳を紙一重で避け続け、時には軽く当たってみせる。大道芸のようなものだ。

 オルゾの配下として彼の癇癪である蹴りを身体で受け止めているのも、彼の頑丈さもあるが、その技術あってこそのものである。


「ステラマ……っ!」


 エキーノが何かを伝えようとし、そしてアキッレーオが迫るのに中断させられた。

 突き出された右手に光る銀。エキーノはその手首を受け(パリィし)ようと左の拳を合わせようとする。

 そのアキッレーオの右手からイタリアンスティレットが消失した。

 右手のナイフを指の力だけで投げ、ボールをパスするように左手で受け止めたのだ。

 アキッレーオは身を翻し、左手で無防備なエキーノの身体に切りつける。

 二人の動きが止まった。ぽたぽたと血がアスファルトに垂れる。


「エキーノ!」


 そう叫びながらステラマリナはラファエラに抱き付き、目を覆わんとする。ラファエラは一言も叫ぶことなく、彼女の視線はじっと観察するかのように戦う二人を見つめていた。


「ステラマリナさん! オルゾさんに連絡を!」


 エキーノは叫んだ。さっき言おうとしていた言葉はそれであろう。

 でもエキーノが流血を……違う。そんなことを考えている場合ではない。とステラマリナは自らを叱咤した。マフィアの幹部の妻として毅然と動かねば。

 そう思いながらステラマリナは急ぎ鞄に手を入れ、スマートフォンを取り出そうとする、しかし思わず手が震え、それを取り落とした。


「あっ!」


 ステラマリナの悲鳴。

 しかしスマートフォンがアスファルトに叩きつけられることはなかった。まるで水鳥が魚を獲るかのごとき動きで、ラファエラの手がスマートフォンを拾ったのであった。


「ん、はい」


「あ。ありがとう」


「それより急いで」


 ステラマリナはまだ震える手でオルゾへの緊急連絡用の番号をコールする。

 これに連絡すればオルゾは何をしている最中であってもすぐに駆けつけてくれるはずだ。

 彼女の視線の前ではエキーノとアキッレーオが絡み合っている。エキーノの手がアキッレーオの腕を掴み、アキッレーオの手がエキーノの腕を掴んだ状態だ。

 ナイフはエキーノの腕に刺さっていた。だがさっき腕にジャケットを巻き付けていたところだ。斬られた時、そこで受けたのだろう。


「お前は俺を知っている」


 アキッレーオが呟いた。


「エキーノですよ! オルゾさんの部下の!」


 エキーノが叫ぶ。


「ああそうだ。そうだった。スーツをダメにするとオルゾが悲しむぜ?」


 アキッレーオはそう言いながら脚を跳ね上げた。

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