SFC 新桃太郎伝説
SFCのマイナーRPGをやってみた感想文です。
このゲームを端的に言うと『長い』『話がキツい』、それと『FF6のプロトタイプ』。そんなゲームです。
カルラ(ラスボス)のキャラや言動がまるっきりケフカですし、後半の世界崩壊など、まんまFF6です。
ただ、こっちのほうが話が長い(面倒くさい)し、システム面でFF6より煮詰まっていないのと、こっちのほうが沢山の人(鬼)がシリアス(残酷)に殺されるシーンが多いため、配信など後々の期待に繋がっていかなかった作品のかと思えます。
途中の謎解きの難しさといい、シリアスに徹したストーリーといい、これは子供向けのゲームとは言い難い出来です。
大まかなストーリーは以下のようになります。
まず、このゲーム内の世界では『地球(世界)は月の民が作った物』という前提があります。太古の昔、月に住んでいた月の民(神々)は、近くにあった当時海しかなかった星(地球)を生き物に溢れる豊かな星にしようと大陸を作り、やがて人間となるような生物の元を地球に送り込みました。やがてそれらの生物の元は様々な進化を遂げ、人型の生物は人間だけでなく鬼や妖怪などにもなり、このゲームの今があるといった前提があっての話となります。
人間や他の動物達、さらに妖怪等は主に地上に住み、鬼だけは地下に潜って地獄という地下世界を作って、それぞれそこを生活の拠点としているという世界設定となります。
ストーリーでの前作 FC 桃太郎伝説 では、この地獄から閻魔率いる鬼たちが鬼ヶ島の抜け穴を通じて地上に出てきて地上を支配しようとしたのを桃太郎一行が撃退するというストーリーでした。この戦いで桃太郎は閻魔に勝利しましたが、桃太郎は地上から鬼族の一掃を目的とせず、地上で人間と鬼族とが分け隔てなく仲良く暮らせる世界になるよう人々に呼びかけ、それを実現させたため、閻魔も桃太郎の支持者となりました。
ここからが『新桃太郎伝説』の始まりです。
まず、閻魔の居なくなった地獄では、閻魔と旧知の戦友だった伐折羅という者が新たに大王の座に就いています。伐折羅は未だ保守的な考え方を持っており、地上に攻め入って人間たちを制圧すれば、地上を鬼族の理想郷に変えられると妄信しているため、桃太郎に力で負けた上に地上を鬼と人間が対等に共存する世界にしてしまった旧友閻魔の心中をどうしても理解出来ず、怒りさえ感じています。そこで伐折羅は閻魔を王の間に呼び出し、その真意を聞き出そうとする場面からゲームが始まります。
ここから既にラスボスのカルラが出てきます。
カルラは鳥とカッパを足して2で割ったような妖怪で、大して強くないです。ただ、伐折羅の小間使いのようなキャラで、口が達者なだけというスネ夫系のキャラ。強大な伐折羅の力を利用して、影の支配者になろうと目論んでいます。まんまFF6のケフカです。ただ、ケフカより冷酷でサイコパスに描かれています。
この時から伐折羅は旧友でもある閻魔の話をきちんと聞いて極力理解しようとする気持ちは持ち合わせているようなニュアンスで描かれているのですが、カルラが「けじめを付けなきゃ大王としての示しが付かない」などと言って、閻魔には極刑あるのみと呈します。
この時、伐折羅はカルラの言葉を妄信してしまいますが、「鬼と人間が平等に暮らせる世界を理想とすることが罪だと言うなら、俺は何も言い訳せずにその罰を受けよう」と言って自ら望んで地獄に落ちていった閻魔の言葉に周りに居た鬼達は心を動かされます。
伐折羅には2人の息子(ダイダ王子、アジャセ王子)と、1人の娘(夜叉姫)がいます。
そのうち、長男のダイダ王子は閻魔の言葉が少し引っ掛かってはいるものの、父伐折羅の意にほぼ忠実で、父同様カルラの言葉に躍らされてしまっています。
娘の夜叉姫は初めから父がカルラに躍らされていると気が付いており、父を助けるために桃太郎の仲間になります。
そして次男のアジャセ王子。アジャセ王子は仲間には加わらないものの、このストーリーのキーマンであり、最後まで裏の主役として活躍します。
この3人は父は皆伐折羅ですが、それぞれ母親は違い、ダイダ王子の母は鬼族、夜叉姫の母は人間、そしてアジャセ王子の母は月の民です。
そして、アジャセ王子の恋人は、かぐや姫。月の民です。
このゲームでは月の民というのがストーリーに深く絡んできて、終盤の流れは『月の民の生き血を飲むと永遠の命が得られると知ったカルラがかぐや姫を拉致。しかし、月の民の最後の末裔であるかぐや姫が死んでしまうと月の民の箱庭である地球(地上)は崩壊してしまうと知る。しかし、地上は崩壊しても地下(地獄)は残ると知ったカルラはアジャセ王子の目の前でかぐや姫を殺害し地上は崩壊。この世は地獄(地下にある鬼の世界)だけになる。さらに永遠の命も欲しがったカルラは月の民の血を引くアジャセ王子を襲って血の飲んでパワーアップ。最終決戦。』という流になります。
アジャセ王子は父伐折羅がカルラに操られていると初めから分かっていますが、息子(王子)という立場上、大っぴらにカルラを止める事が出来ないでいます。
カルラは後半まで、とにかく桃太郎の首をとって伐折羅からの信頼を得たいがためだけの目的で、地獄で名のある鬼達を次々に桃太郎の元に送り込み、それらの鬼が桃太郎に倒されて改心したところに現れては弱っている鬼にとどめを刺して殺害し、伐折羅には「桃太郎の奴がなんの情も無く○○鬼を殺しました」と報告して伐折羅の怒りを煽ります。アジャセ王子は鬼が殺される度にフッと現れて、仲間を弔う笛を吹いて消えていくという、敵か見方か分からないキャラで出続け、中盤になって月の神殿で用心棒のように居る事でやっと敵ではないと判明し、常連キャラとして出続けるようになります。
中盤以降のアジャセ王子の活躍は当に裏の主人公といった感じで、桃太郎よりよっぽど華がある。カルラに利用されるだけ利用された挙げ句、目の前で磔にされて火炙りにされる夜叉姫を助けられない桃太郎。その火を一瞬で消して妹夜叉姫を救出するアジャセ王子。血を吸われるだけのはずだったかぐや姫の秘密(死ぬと世界が崩壊する)をカルラかに脅されて喋ったことで、かぐや姫は崖から突き落とされて死んでしまう桃太郎。目の前で桃太郎が喋った事もかぐや姫が殺された事も堪えて、かぐや姫の亡骸を竹取り村に運ぶアジャセ王子。
桃太郎に敗れカルラにとどめを刺されそうになった伐折羅を庇って刺されるアジャセ王子。もう、こっちがヒーローでしょう。
結局、夜叉姫の火炙りも、かぐや姫殺害も、アジャセ王子死亡説も、カルラの嘘によって全て桃太郎がやった事になって伐折羅王が激怒して戦う事になるのですが、子ども向けのゲームでさ、ここまで敵が主人公達になぜ敵対心剥き出しで向かってくるかっていう心情経過の演出をしなくてもいいんじゃないかと思うのですが。鬼族の支配を目論む大魔王と平和な世界を実現しようとする桃太郎の『懲らしめた』でも充分だったんじゃないかと思います。話が重すぎます。
まあ、こんな複雑で長尺な話を仲間キャラが19人、NPCキャラが3人、主人公も含めてると総勢23人のキャラそれぞれにしっかりとした個性付けがしてあってサブストーリーや専用装備も用意されているとなれば、そりゃ普通に話を進めるだけでも長くなります。
最初から全員LV99、所持金無限、エンカウント無し、常に絶好調、と、チートをフル活用してもクリアまで21時間16分かかりました。
普通にやったら、このゲームはSFCRPGの中でトップクラスにエンカウント率が高いと言われていますのでこの3倍くらい時間がかかるでしょう。延々とこのゲームの世界観を楽しみたいと思う人には最良のゲームだと思います。最早、大河ドラマ。やり込もうと思ったら幾らでもやり込みの要素もあります。NPCキャラの(犬、猿、雉)のステータスは各専用の餌を買って食べさせると3つあるステータスのうちの一つがランダムに1上がるのですが、各ステータスのMAXは30、要は餌が90個で全ステータスMAX。一見簡単そうですが、アイテムは各キャラ8個までしか持てず、買うのも使うのもカーソル固定じゃないので、一回一回開いて選んで誰に使うか選択しなきゃならない。しかもこのゲーム、キーレスポンスが物っ凄く悪い。(しかも、NPCキャラは一回一回きびだんごをやらないと動かない) こんなの誰がコンプリート目指すの?って感じです。
仲間キャラのステータスも1粒で最大所持金の1/10くらいする『仙豆』を買えば1粒でどれか一つのステータスを1だけ上げる事は出来るのですが、これはチートで所持金無限にしておけば多少面倒でもやる価値はあるかもしれないと思って大人買いしてみたら、各豆20粒で売り切れ。例えば、えんま様ってLV99だと攻撃力って530くらいなんですが、浦島はLV99でも320くらいなんです。ただ、浦島は2回攻撃出来るので、これで攻撃力を999までブーストしたら最強だと思って無限の財力で戦いの仙豆を買いまくってみましたが、20粒で売り切れ。攻撃力が340になったところで、えんま様には遥かに及ばず雑魚のままなんです。その他にも寝太郎、ユキ、天邪鬼などLVを99まで上げても全くの害しか無いキャラなども多数含まれていて、まるでコンプリートの意義の無さを知らしめるためにわざとそうしたんじゃないかと思えるような仕様が数多く見られます。
その他にも、やり込み廃人の発生を抑えるような対策として顕著なのが、終盤で、かぐや姫が殺害されて世界が崩壊してしまうと、地上は竹取り村とそこの住人しか残らないという仕掛けがあります。地上が崩壊してしまうと、それまでに未回収の仲間もアイテムも全て世界ごと消失してしまうため、以後、絶対に全コンプリート不可能になります。これは完全に初見殺しで、『まずはストーリーを最後まで見て、やり込むんだったら2周目以降で』という製作側の強い意向を感じます。
あと、この世界崩壊のくだり、生々しいんですよね。これまでに助けたり助けられたり協力し合ってきた花咲か爺さんとか、きちんとキャラ付けがしてあって将来への希望とかを語っていた町民とかが、断末魔の叫びをあげて逃げ惑いながら崩壊する大地に押しつぶされ、終盤はそれら全ての生き物の血によって真っ赤に染まった海を鳳凰の背に乗って探索するとか、よくよく考えるとトラウマ級ですよ。怖いとかを超越した嫌な感じの何かによって胸が痛くなります。しかも、ネタバレですが最後までこれら死んでいった人々は蘇らず、桃太郎一行がアダムとイブみたな感じで最初の人類として新たな人類の歴史(伝説)を作っていくっていう終わり方なんですが、これはあまりにも重いテーマだと感じました。
最後にはかぐや姫をが復活して崩壊した大陸が再形成され、月の鈴というアイテムで血に染まった海と大地を浄化して、桃太郎一行が人類再生のために各地に散っていくという流になるので、結局は月の民と人類誕生という起点に戻るストーリーとなっています。
要は、人間や妖怪、鬼族が共存していた世界は過去に全て崩壊しリセットされ、今ある世界は創造主であるかぐや姫が作り、人類の起源は桃太郎一行。これはその経緯を書いた物語。よって、『君たちの祖先は、この主人公達なんだから、自信を持って生きていけ』みたいな、そんなメッセージに収束するんじゃないかと感じました。
神話や史実に依存しないオリジナルのストーリーとしては傑作級によく練られたストーリーだと思います。マイナーなゲームの中だけの話にしておくのは勿体ないくらい。これでシステム面でFFくらい快適だったら当に傑作RPGだったのにと惜しまれます。
内容の深い面白いゲームだと思いました。