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人の噂も七十五日㉔ ~エリカの緊急招集~

 二郎達にとって濃密な週末が過ぎた9月8日、第2週目の月曜の朝が訪れた。


 いつもと変わらぬ2年5組の朝の登校時間。まだ登校のラッシュアワーには少し早い時間にいつものように一番目に教室に入ってきた生徒は学級委員長のエリカだった。


 エリカは先週に巻き起こった2年5組の友人達の噂話の早期収束を目指して美術部敦子や当人の三佳や忍から話を聞き、彼氏である拓実との相談などを行い祭り当日に起きた実際の出来事の調査や噂話を流した人間の捜索に当たっていた。しかし、現状で分かっていることは、今流れている噂がおおよそ真実であり、また流した犯人はおそらく3組の人間なのでは無いかというモノだった。とは言え、ハッキリした証拠が不十分であったため、思い切って当日に祭りに参加したメンバーを集めて改めて話を整理するのが一番だという結論に至り、覚悟を決めて教室の席に座りながら、その対象であるすみれ、忍、三佳、一、二郎の登校を待っていた。


 そんな中まず姿を現したのは一だった。エリカにとって一から話を聞くことが最も重要だと考えていた。それは他の誰も持っていない重要な情報を一が知っていると考えていたからだ。


「一君、おはよう」


「エリー、おはよう。今日も早いね。今週も良い一週間にしよう」

 

 エリカの挨拶に爽やかに答えた一にまだ二人しかいない教室の状況を見てエリカは単刀直入に言った。


「一君、朝から申し訳ないけど、今日放課後に少し時間をくれないかな。今学校で広まっている噂話の真相を突き止めるために一君の知っている話を教えて欲しいの。他の祭りに参加したメンバーにも声を掛ける予定だから少しで良いからお願い」


 エリカの真剣な言葉に一は一考の後にゆっくりと答えた。


「エリー、俺も協力したいけど今日の放課後は生徒会に行かなきゃいけないからお昼の時間はどうかな。教室で集まって話をするのは目立つだろうから場所を変えてどこかで少し話そうか」


「そっか、出来れば皆が集まった状態が一番良いと思ったけど、生徒会をすっぽかすわけにはいかないよね。分かったわ。他の皆はどうか分からないけど、一君はお昼に話を聞かせてくれる予定で良いかな」


「もちろん大丈夫だよ。お昼になったら声かけてね」


「うん、ありがとう」


 二人が約束を交わした直後他の生徒もポツポツと登校し始めていた。一人また一人と教室へ入ってくる生徒の中にはすみれや忍の姿があった。すみれが元気よく皆に挨拶する一方で、何やら落ち込んでいる様子の忍に一が声を掛けた。


「忍、おはよう。もう体調の方は大丈夫なのか」


「うん。・・・ゴメンね、迷惑掛けちゃって・・・私はもう大丈夫だから」


「いや、迷惑なんて全然気にしなくてイイだぞ。それよりまだ調子悪いなら無理せず言ってくてよ」


 二人の会話を聞いていたすみれが声を掛けた。


「おはよう、忍。元気無いけど何かあったの」


「別に、何も無いから心配しないで大丈夫だよ」


「そ、そう、なの。・・・・・一君、何かあったの、忍」


 忍の明らかに様子のおかしい返答に、すみれは小声で一に問いかけた。


「実は昨日・・・・」


 一は昨日体調不良で部活を休んだこととお見舞いに二郎が忍の家に行ったことを伝えるとすみれが何かを察したように言った。


「何でそんな日に家に押しかけるようなことしたのよ。あたしなら絶対に嫌だよ。忍だってそれで機嫌が悪いんじゃ無いの。男子は皆バカなの」


 小声でデリカシーのない二郎や一に批判の目を向けたすみれに一が言い訳をするように言った。


「いや、二郎は悪くないんだよ。女バスの神部っているだろ。アイツがどうしても昨日忍の家にお見舞いに行けって強引に言うモノだから二郎も渋々行ったんだよ。結果的に見ればやっぱり家に行ったのは間違いだったみたいだな」


「ふーん。神部さんがごり押しね。何か理由があったのかしらね」


 一の説明にどこか腑に落ちないすみれが頭を傾げながらつぶやいた。


 そんな二人の会話など一切耳にも入ってこない状態の忍は昨日の醜態を二郎に見られたことを思い出して心臓をバクバクさせながら、どうにかそれを表情に出さないように我慢し顔引き締めようとしたため、眉間にしわが寄って今にも怒りが爆発しそうな鬼の形相のような顔とあふれ出す黒いオーラがモヤモヤと周囲を漂うような近づきがたい状態となっていた。それを見た周りの生徒達は触らぬ神にたたり無しとむやみに近づかずそっとしておこうと周囲の皆が顔を合わせている時に、脳天気な声が教室に響き渡った。


「おっはよー。今日はちゃんと遅刻しないで来たよ!」


「おはよう、三佳。約束通りちゃんと来たわね」


「エリカ、もっと褒めてよ。お、忍もおはよう!何か元気無いね。ちゃんと朝ご飯食べた」


 全く状況を知らない三佳はいつも通り元気な挨拶をクラスメイトにしていると、チャイムギリギリの時間に二郎があくびをしながら教室へ入ってきた。


「ふー、あぶね、あぶね」


「おぉ二郎、おはようさん。お前ちょっと来てくれ」


そう言って二郎を教室の中まで引っ張った一が忍を見ながら聞いた。


「お前、昨日忍の家にちゃんとお見舞いに行ったんだよな。一体そこで何があったんだ。忍にドン引きでもされたか。それとも喧嘩にでもなったか」


「いや、ドン引きでも喧嘩でもないんだが、ちょっとあってな。すまんがこれは忍の名誉に関わることだから一にも言えないわ。どうか察してくれ」


 一は二郎のガチの懇願にいよいよ何かとんでもない事が忍との間に起きたのでは無いかと頭によぎり、今この状況では時間が無いと悟り後ほど改めて時間を作って話そうと決めてそれ以上の追求を諦めて言った。


「そうか、わかった。とりあえず昨日はお疲れさん」


「あぁマジで疲れたわ」


 二郎は一の察しの良さに感謝しつつも、昨日起きた面倒事を思いだし元気無く返事をした。


 そうこうしているうちに担任の“なべちゃん”こと渡辺先生が教室に来て朝のHRが始まり、噂話の騒動に決着をつける一週間が始めるのであった。

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