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人の噂も七十五日⑱ ~不動のレギュラー女VS永久のベンチウォーマー男~

 次の日の日曜日、二郎は珍しくさぼらず休日に二日連続で部活に参加していた。と言うのも、昨日と同じく強引に一にたたき起こされた二郎はすっかり目が覚めてしまい渋々ながら午前の女バスの練習に参加することになったからだった。


「おはよう、二郎!10分遅刻だけど、まぁ来ただけ大進歩だな」


「バカ野郎!男バスは本来昼から部活のところを9時10分に来てんだから遅刻もクソもあるかってんだ」


「まぁまぁそんな怒るなって。早起きは三文の得って言うだろ。どうせ家にいたってろくな事しかしないないんだから、気持ち良く汗をかいた方が健康的で飯も美味いし良いことづくしだぞ」


「まったくおっさんみたいなこと言いやがって。俺の安眠を返しやがれ、くそ」


 日曜日というのに朝の6時30分前にたたき起こされ、この日もめざまし君の6時30分の時報を聞くハメになった二郎は無性にムカつく爽やか笑顔の一に眠そうにしながら恨み節を言うように言った。


 そんな話を二人がしていると、女子バスケ部の副部長である神部歩が声を掛けてきた。


「おはよう、一ノ瀬君!今日も朝からありがとうね。あれ、珍しい顔があるじゃない。どうしたのよ、山田。あんたがウチらの練習に顔出すなんて、なんか変なモノでも食べたの、それとも今日は大雨でも降るのかな。私今日は傘持ってきてないんだから、滅多なことはするもんじゃないわよ、あんた」


 生徒会で忙しくも真面目に部活に来る一には歓迎と感謝の笑顔で、普段から部活をさぼり遅刻を連発する二郎には皮肉を言うように挨拶をした歩に二郎が不機嫌な笑みをこぼしながら言い返した。


「おぉ誰かと思ったら神部だったのか。あんまり小さいからどっかの小学生が迷い込んだのかと思ったぞ。お前また小さくなったのか。まぁそんなことはどうでも良いか。忍はどこにいるんだ」


 歩の皮肉を倍返ししようとする二郎の手厳しい反撃に体をぷるぷる震わせながら歩が言い返した。


「山田!あんたね。人の顔見れば、小さい小さいばかり言って、これでも160センチあって全国の女子高生の平均よりかは少し高いんだからね。全然チビなんかじゃないんだから、この根暗男!バーカバーカ!」


 歩が興奮するように二郎に詰め寄る一方で、涼しい顔で二郎が言った。


「そんなこと言っても、周りの女バスの連中がほぼ160センチ後半だし、170センチを超える忍と並ぶと大人に同伴されている小学生にしか見えないんだよな。顔もガキみたいだしさ。まぁ元気出せよ。ちゃんと牛乳飲めば大きくなれるからな。はっはっは」


 二郎は毎度展開される天敵の歩との皮肉合戦に勝利を確信したように歩の頭をポンポンなでながら、完全におちょくるように言った。


「むむむ、あんたね、今日こそは許さないわよ。勝負よ!あたしと1on1で勝負しろ!あたしが買ったら土下座させて女バス全員分の飲み物を奢らせるからね。一ノ瀬君は審判して」


 二郎の言動についにブチ切れた歩が白黒ハッキリさせようとバスケ勝負を持ちかけた。


「まぁまぁ歩よ。あまのじゃくの二郎の言っていることなんて9割無視くらいがちょうど良いんだから真に受けて怒るだけ無駄だぜ」


「うるさい!一ノ瀬君は黙って審判してくれればいいのよ!」


「はぁしょうがないな。二郎、お前はちゃんと落とし前つけるために相手してやれよ」


「ったく、朝っぱらから面倒くさいけど、仕方ないか。一にたたき起こされるわ、朝から文句言われるわで、こちとら頭来てんだわ。あのちんちくりんめ。バスケにおける身重さがどれだけ致命的な差になるのかたっぷり教えてやるぜ」


 そんなこんなで突如マッチメイクされた女子バスケ部副部長の歩VS男子バスケ部半幽霊部員の二郎の1on1が行われる事になった。


 試合はボールをカットされるか、ゴールを決めたらゲームを一旦止めて攻守交代しそれを五回繰り返すルールで行われることになった。

 

 普段ポイントガードの歩の武器はスピードと正確なパス技術、全体を見回す広い視野と無尽蔵のスタミナ。これらの能力によって歩は運動神経の良い生徒が集まる女子バスケ部の中で低い身長をモノともせずにチームの不動のレギュラーを勝ち取った類い希のバスケ選手だった。


 一方の二郎といえば、身長175センチで男子バスケ部では小さい部類に入り、圧倒的な平均以下のスタミナ、素人に毛が生えた程度のテクニックに人並みのジャンプ力と走力を持つ普通の高校ならまず間違えなく永久のベンチウォーマーの地位を欲しいままにする凡人中の凡人のバスケ部員だった。


 そんな二郎の唯一の武器と言えば3ポイントシュートが部内の中で大和の次に上手い位で、あとはひん曲がった性格のおかげか意外性のあるキラーパスで相手の虚をついて好機を作るチャンスメーカーとしての一面も持っていたが、それは本戦の試合では一度も披露されず今後も披露される予定もない男子バスケ部の秘密兵器的男だった。


 そんな見るからに結果の見える戦いを控えた二郎は思いのほか余裕を持って準備運動をしていた。


「おい、二郎よ。なんか余裕そうにしているけど、大丈夫か。歩の奴、カンカンに怒っているから負けたら許しちゃくれないぞ」


「なーに、慌てることないって。アイツは1on1の本質を分かってないわ。まぁ見とけって」


 二郎は一の心配を振り払うかのように、自信に満ちた言葉を残し歩が待つコートに向かうのであった。


「覚悟しなさい、山田。負けたら約束通り土下座とジュース奢りだからね」


「はいはい、俺が負けたらな。そういえば俺が勝ったら何してくれるんだ」


「知らないわよそんなもん。勝ってから考えれば。まぁそんなこと考える未来はないと思うけどね、ふん」


 勝つ気満々の歩はそれを最後に集中し始めて試合歌詞の合図を待つのであった。

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