祭りの後で② ~不機嫌エースと天使のウィンク~
もうチャイムが鳴ろうとするところで朝練を終えた女子バスケ部の部長兼絶対的エースであり、後輩女子から絶大の人気を誇る成田忍が二郎達3人の前に顔を出した。
「おはよう、忍。始業式から朝練お疲れ様だね。強豪の部活はやる気が違うわ」
「すみれ、おはよう。まぁ朝練と言っても今日は始業式の準備で体育館が使えないから、学校の外周をロードワークするだけだったけどね」
忍とすみれが挨拶しているところに一が声を掛けた。
「朝練ご苦労さんだな。男バスも見習わないとなぁ、二郎」
「何言ってるんだよ。朝から部活なんて余程の物好きしかやらねーよ。俺らみたいな雑魚が無理してやったら強くなるどころか部員がいなくなるからやめとけって」
一の言葉をバッサリ否定した二郎に忍が不機嫌そうに言った。
「一がもし朝練やる気があるなら、女バスの方に参加しても大丈夫だよ。ウチらはいつでもウェルカムだからさ。どこかのやる気の無いバカなんて放っておいて良いからさ。ふん」
忍は二郎の言葉を無視するように一に答えた。
「あらら、二人は相変わらず仲良しだね。本当にぶれないね、一君」
「まさに言うとおり、これがこいつらの愛情表現なんだわ。すーみんも大分この二人の事が分かってきたみたいだね」
一とすみれの二人はあきれたように二郎と忍の毎度お馴染みの喧嘩を見守っていた。
「何が愛情表現よ。こんなナンパ野郎に愛情なんて1ミリも無いわよ」
夏祭りの日、花火を一緒に見ようと二郎を誘った忍は四葉の登場によってあっさりと二郎に断られる事になり、その上、凜とのイチャつく姿を見せられた事もあったせいか、その日以来、非常に虫の居所の悪い状況が続いており、二郎と会ったことでそれが爆発しかけていた。
「なんだよ、まだあの時の事を怒っているのかよ。事情は説明しただろ。全く面倒くさい奴だな」
「うるさいわね、バカ二郎!」
忍のいつも以上のヒートアップした姿に一が心配そうに声を掛けた。
「何だ、どうしたんだよ。何かあったのか」
「別にたいしたことじゃ無いから気にしないでくれ。忍が一人で怒っているだけだから」
一の疑問を二郎はなんてことも無いように受け流した。
その言葉に忍がさらに機嫌を悪くしたところでちょうど始業のチャイムが鳴り、慌ただしく一人の生徒が教室のドアを開けて飛び込んできた。
「ギリギリセーフ!はぁはぁ、危なかったけど、遅刻じゃないよね。初日から寝坊しちゃったよ~」
朝っぱらから誰よりも元気に登場したのは誰もが認める校内のアイドル的存在で陸上部の馬場三佳だった。
そんな三佳の後ろから叱るような声がかかった。
「ちょっと、三佳!新学期から遅刻ギリギリはどうなの。先生もちょっと言ってやって下さいよ」
「おう、馬場か。全国大会惜しかったな。4位だって。職員室でもお前の話題で持ちきりだったぞ。まぁ遅刻は駄目だが部活も頑張ったから今日くらいは許してあげよう。明日からはしっかりするんだぞ」
「はーい」
「もう先生は甘いですよ。三佳なんて何も言わなくてもその辺を走り回っている子なんですから、部活で活躍しようが何しようが規律はちゃんと言わないと何処までも緩んじゃいますよ」
どっちが先生なのか分からない注意を三佳にしたのは、始業30分前にはキッチリ通学し、新学期に必要な配布物を職員室から担任と運んできた美術部所属で2年5組の学級委員である飯田エリカだった。
「エリカ、おはよう。何だか久しぶりだね」
「おはよう、エリカ。朝からお仕事お疲れ様」
すみれと忍がエリカに声を掛けると三佳が叱られた子どものように言った。
「うぅ、エリカ母さんは新学期早々厳しいなぁ。明日からはちゃんと寝坊しないように気をつけるから。ごめんなさい、ね!」
三佳は両手を合わせ、顔を斜めに振りウィンクをしながらごめんなさいポーズをしてエリカの説教を回避しようとした。
その笑顔を見たクラスの数人の男子が魂を抜かれた様子でつぶやいた。
「天使や」
「尊いわ」
「今日学校に来てよかった」
エリカはクラスの緩んだ空気に押されてそれ以上の説教はやめることにした。
「はぁ、もうしょうがないな。明日からはちゃんと余裕を持って通学しなきゃ駄目だよ」
「うん、頑張るルンバ!」
三佳の底抜けて明るいバカっぽい返事で話しが一段落したと判断した担任の渡辺はホームルームを始めようとクラス全体に声を掛けた。
「よーし、2学期もしっかりやっていこう。今日は出席確認したらすぐに体育館で始業式だから移動するぞ。はい、日直は号令を掛けてくれ」
こうして相変わらず騒がしい2年5組の2学期の幕が開くのであった。




