夏休み その4 花火大会⑭ ~風紀の乱れは心の乱れ~
一とすみれが幸せな結末を迎える傍ら地獄を見た少女が群衆の中、一人立ち尽くしていた。
それは大和に受けた告白を断り、その後しばらく一人会場をさまよっていた宮森巴だった。巴はしばらくして気分が落ち着いたところで、一の待つ生徒会メンバーシートへ戻ろうとしたおりに地獄を見ることになった。
それはまさに巴が一の姿を確認出来る距離まで来たとき、すみれが一に抱きついた瞬間だった。そのとき巴は開いた口が塞がらないと言う言葉通りの状況に陥った。それからしばらく二人のやり取りを見ていた巴は一がすみれを抱きしめたところを最後に耐えきれず、踵を返してどこか分からない場所へ走り去った。
巴は花火の開始を今か今かと待つ群衆の中で足を止め、今さっき目撃した事を思い返していた。
(もう意味が分からないわ。何なのあれは。公衆の面前で何をしているのよ、一ノ瀬君は!乱れだわ。そうあれは風紀の乱れ。私も一ノ瀬君に惑わされて心を乱してはいけないわ!風紀の乱れは私が許さないわ。もう絶対に許さべし)
巴が一を呪い殺しそうな勢いで唸っているところに、同じく恋破れた大男が体を小さくして歩いてきた。
「あれ、君は生徒会の宮森だよな。こんなところで一人何やっているんだ」
声を掛けたのは忍に盛大に振られた中田尊だった。
「あなたは小野君の友達の中田君でしたね。あなたこそ、ここで何を」
「まぁ気分転換の散歩かな。それよりもう花火が始まる時間だぜ。うろついていると他の人の邪魔になるし早く生徒会の場所へ戻った方が良いぞ」
「うん、そうだね」
尊は振られたショックで落ち込みながらも、元々の人の良さから巴の様子がおかしいことに気づいて声を掛けた。
「もしかして向こうに戻りにくいのか。事情は分からないけど、俺たちの方のシートに一緒に来るか」
「え、でも・・・」
「気にするなよ。知らない中でもないし、一人位増えたって問題ないくらい十分広いからさ。ほら、早く行こうぜ」
尊は少し強引かと思いながらも、様子のおかしい巴を一人でほっておく訳にはいかず返事を聞く前に連れて行くことにした。
巴は尊の心遣いをありがたく思う一方で、ついさっき振ったばかりの大和が待ち受けていることを思い出し、あたふためくも大柄で筋肉バカの尊の手をほどけるような状態ではないと悟り、もうどうにでもなれとヤケクソで尊の後をついて行った。
その後大和が一人うなだれる場所に着き、ようやく二人の事を思い出した尊は、大和に全力で謝罪のポーズをするも今更巴を追い返すわけにもいかず、大和、尊、巴の恋破れた三人が仲良くうなだれながら花火の開始を待つことになった。




