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夏休み その4 花火大会⑧ ~美女が野獣~

 少し強引ではあったが忍と二人きりになることに成功した尊は、ひとまず屋台を一回りしてから忍に告白しようと算段を付けていた。というのも、いきなり告白する勇気もなく、また忍とこういった状況になるのも初めてで少しはデート気分を味わいたいという思いもあり、尊はこれまでに無いほどテンションが上がっていた。


「忍、食べたいものがあれば何でも言ってくれ。今日は俺が何でも奢るぞ」


「そう、まぁ、ありがとう。それじゃ、お腹も減ったしたこ焼きとじゃがバタが食べたいな、それと飲み物も欲しいかな」


「よし、まかせろ。それを買ってその辺で食べようか」


 忍はやけに気前の良い尊の言動に一抹の不安を感じていた。


(なんか怪しいなぁ。また部活関係の事で頼み事でもあるのかな。それとも他に何かやらかしたのかな、尊の奴。明らかに様子が変だけど、奢ってくれるって言うし、ここは素直にお祭りを満喫しようかな)


 忍が怪しむ一方で尊は意外にも素直に甘えてくれる忍にこれは思いのほかチャンスがあるのではないかと、ますます気持ちの高まりを押さえられない状況になっていた。なぜなら二人が並んで歩いていると、周囲からの羨望の眼差しを集めて優越感に浸れる状況にあったからだ。確かにその通りだった。尊は普段は友人からは散々ゴリラと言われているが、黙っていれば身長180センチ以上のがたいの良い爽やかスポーツマンであり、忍も身長170センチを超え、ショートヘアーが似合うスラッとしたキレイ系美女であり女子が憧れるかっこいい女性を体現しており、二人が並ぶ姿は非常に様になり周囲からの注目を嫌でも集めてしまうお似合いのカップルの姿だった。


 こういった要素も相まって尊の告白を大きく後押しする理由となった。


 一通り屋台での買い物を済ませた二人は、尊の先導で人混みから少し離れた場所へ移動して座るのにちょうど良い石垣に腰掛けて食事をする事にした。


「ねぇ尊。せっかく場所取りしたのに、なんでこんなところで座って休憩するのさ」


「いや、まぁあっちは皆がいて騒がしいだろうし、たまには二人でゆっくり話でもしたいなと思ってさ」


 尊は忍をまっすぐ見つめて、問いかけに素直に自分の気持ちを答えた。


「急にどうしたのさ、真剣な顔して。何か相談事でもあるの」


「いや、相談とかそう言うんじゃないけど、とりあえず先に食べようぜ。ほらたこ焼きが冷めちまうぜ」


 尊が話をはぐらかすように、話題を変えたため忍もそれ以上は追求せず、ひとまず腹の空腹を満たすようにたこ焼きとじゃがバタを黙々と食べることにした。 

 

 ある程度食べ終わったところで、ついに尊が本題を切り出そうと手に持ったお茶の残りを一気に飲み干し、片手で缶を潰して気合いを入れて忍に声を掛けた。


「なぁ忍、今日は来てくれてありがとう。今日はどうしても忍と一緒に花火が見たかったから、本当に良かった」


「なによ、いきなり。良かったって、まだ花火も見てないじゃん。随分気が早いんだから。ところで、そろそろ何が目的なのか話してくれても良いんじゃない。うまく乗せられて食べ物を奢ってもらっちゃったから、お礼として私が出来ることなら少しは協力してあげるわよ。ほら、私がこう言っている内に早く話しなよ」


 忍は尊がある程度何か目的があり、自分に協力を頼むのだろうと察して話が切り出しやすいように話をふった。


「いや、その、協力とかそういうことではないが、ある意味お願いではあるけど、つまりだから、・・・・」


「もう、はっきりしないわね、もっとシャキッとしてよね。部長なんだからしっかりしなさい」


 しびれを切らした忍が気合いを入れるように尊の背中をたたいた。発破をかけられた尊はようやく決心がついたのか、前置きを一切無くし勢いで告白を始めた。


「だから、俺と付き合ってくれ。頼む!」


「はぁ、今こうしてあんたのわがままに付き合っているでしょうが。他に何を付き合えばいいのさ」


「だから、そう言うことではなくて俺の彼女になってくれって事だよ」


「え、いや、なんで私が尊の彼女になるのよ。ありえないでしょ、さすがに」


 忍はあきれたように尊の告白を一刀両断した。


「ど、どうしてだよ。他に好きな奴がいるのか」


「いや、いないけど、尊と付き合うなんて考えたことないし、別に今は彼氏なんていても部活が忙しくてそれどころじゃないしさ。だから、ゴメン。他をあたりなよ」


 とりつく島もなく忍は尊に死刑宣告を下した。それを聞いた尊はあまりの躊躇のなさに、呆気に取られしばらく凍り付いたように思考を停止させていた。


 そんな尊の様子を見ながら、忍は入学してから今日までの尊の言動について思いを巡らせて、ようやく尊の自分に対する態度の異常さ、異様さの合点がいく思いだった。


(そういえば、入学早々に素人のくせにバスケ部に入部して、女バスの練習に協力的だったり、試合の応援に来たりしていたわね。それに良いプレーをしたり、シュートを決めるとやけにアピールをしていたわ。アレはただの目立ちたがり屋だと思っていたけど、あたしにアピールをしていたのかな。それにやけに二郎に絡んだり、何かと理由を付けてはクラスに顔を出していたのも、あたしと同じクラスの二郎がうらやましくてやっていたのか。てことはバスケが好きなのもあたしのことが好きだから一生懸命やっていたって事なのかな。本当に男子ってバカだね。あたしなんかのために毎日のようにきつい練習して、男バスの練習がなければ、女バスの練習を手伝ったりして、この一年半部活漬けの生活をしてきたわけかぁ。まったく仕方が無い奴だな、尊は)


 忍はうなだれた状態でいる尊に救いの手を差し伸べようと声を掛けた。


「尊、あたしもあんたが嫌いって訳じゃないし、正直に言うけど普段の尊はただのアホそうなゴリラくらいにして思ってないけど、バスケやっているときは結構かっこいいと思うよ。だから、あたしは付き合えないけど、他の子ならチャンスあると思う。実は女バスの中にも尊のことかっこいいて言っている子もいるし、その子のことをちゃんと気づいてあげれば、すぐに彼女だって出来ると思うよ。だから、あたしに振られたからってバスケのことを嫌いならないでよ。バスケ好きの友達として、あたしは尊の事を尊敬しているし、結構頼りにしているんだからさ」

 

 尊は数秒前に自分を地獄に突き落とした忍が自分の事を褒めてくれることを驚きつつも単純に嬉しくなり、ようやく思考停止の状態から抜け出す事が出来た。


「そうか、忍は俺のことをそんな風に思ってくれていたのか。ありがとう。俺のこの一年半は無駄じゃなかったってことだよな。もちろん、バスケはやめないぞ。初めは確かに不純な動機で始めたかもしれないけど、今は俺にとっても一番好きなものがバスケになったから、それだけでもきっかけをくれた忍に感謝しなきゃな」


 尊は忍の言葉を前向きに受け取り、無理にでも明るく笑顔で言葉を返した。


「まぁあたしは何もしてないけど、尊がそう思えるなら安心したよ」


「なぁ、ところで俺を好きな子って誰だよ。教えてくれよ」


「ばーか、そんなことあたしの口から言えるわけないでしょ。でも、あんたが周りをしっかり見ていればすぐに分かると思うから安心しなよ。あんたにはもったいない位の良い子だよ、ホントに」


「マジか、誰だよ。そんなこと考えたこともなかったから全然思いつかないわ」


「はぁ、もう分かったからこの話は終わりにしよう。尊は先に皆の場所に戻りなよ、私は少し会場を見て回りたいからさ」


「わかったよ。・・・・なぁ忍、最後に一つだけ教えてくれ頼む」


「何よ、もう」


「さっき好きな奴はいないって言っていたけど、それは本当なんだな」


「そうだよ、いないよ、そんな人は」


「二郎のことが好きだと思っていたけど違うんだな」


「ああたり前でしょ、バカ。何でアイツの名前が出てくるのよ」


「だって端から見ていると、お前らは本当に仲よさそうにいつも喧嘩しているし、他の誰よりも忍は二郎に心を許しているように見えるから、てっきりアイツのことが好きなのかと思っていたんだよ」


 尊は忍のことを誰よりも見てきたからこそ、なんだかんだ言って忍は二郎の事を認めて信頼している相手だと言うことを気づいており、またその二人の関係を気にしないわけにはいかなかった。


 意表を突いて出てきた二郎の名前に若干動揺をみせるも、自身の気持ちに気づいていない忍は全力で尊の推測を否定することになった。


「ありえないよ、そんなこと。二郎なんて根暗でやる気は無くてあまのじゃくでいつもブツブツ文句言って、猫背で目つき悪くて、部活だってきたり来なかったりで適当だし、一くらいしか友達らしい友達もいないから、同じクラスで部活も一緒のあたしがしょうが無くかまってあげているだけなんだから、好きになるわけないよ、あんなバカ」


「そうか、その通りだけど。アイツ普通にしたら意外とイケメンだし、知らないところで気配りできたり、アイツなりの正義があって、間違っていることには毅然とした態度をとるから俺は意外と頼りにしているところもあるけどな。まぁ忍がそこまで言うなら俺はお前を信じるけどさ」


「ふん、尊のくせにちゃんと分かっているじゃない」


 忍は尊の二郎への評価を聞いて少しだけ笑みを浮かべつぶやいた。


「ん、なんか言ったか」


「いや、なにも。そう言うことだから。これで話は終わりね。それじゃ、私はあっちを見て回りたいから」


 忍は尊と別れ一人胸にこみ上げるモヤモヤと、ドキドキするこれまで経験したことのない感情を抑えようと一人当てもなく会場を歩きまわるのであった。

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