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夏休み その1 ペンギンランド④ ~呼び捨てファンタジー~

 一番列の後ろに居る二郎と忍がどこぞの評論家のようにあれこれとファッションの話している一方で、先頭にいる剛は緊張して三佳に話しかけることができずにいた。


その様子を見た拓実は再び全体に話題を振った。


「そういえばエリカは皆のことはなんて呼んでるんだ」


「みんなってクラスのみんなのこと」


「そうそう」


「えっと基本的に女子はみんな下の名前だよ。三佳にすみれに、忍ね。あと男子は一ノ瀬君に山田君だよ」


 拓実とエリカは話しを広げようと会話を展開した。


「そっか、みんなはどうなん」


「私も一緒かな」


「うんうん、そうかも」


 三佳とすみれがエリカと同じだと返事をした。


「私は男子も下の名前だな。三佳、エリカ、すみれ、それと一に二郎ね」


 忍の答えを受けて拓実が今日これまで聞けずにいた事を忍に問いかけた。


「そうなんだ。しかしずっと気になっていたんだが、成田さんと山田は付き合ってんのか、仲良すぎだろ君たち」


「はぁ、何を言ってるの服部君は!エリカの友達でも殴るよ」


「服部、さすがにそれは俺に失礼だろう」


「え、いや俺の勘違いだったわ。ごめん」


 ガチトーンで怒る忍と二郎に全力で謝った拓実は話をそらした。


「一ノ瀬はどうなんだ」


「服部、そいつらはいつもそんな感じだから気にしないで良いぞ。それで俺は普通に二郎だろ、忍、橋本さん、馬場さん、飯田さんだよ。二郎も同じだろう」


「まぁそうだな」


 二郎が一に同意したところを見計らい拓実が提案をした。


「どうだろうか、せっかくだし、みんなが嫌じゃなければ、下の名前で呼んでも良いかな。基本的に友達は下の名前で呼びたいタチなんだわ」


「俺もそっちの方が楽だな、女子達はどう」


 拓実の提案に一が賛同を示した。


「私は全然OKだよ、忍もそうでしょ」


「私は今もそうしてるし問題ないよ」


「エリカも良いよね」


 三佳も同調して忍とエリカに了解を求めた。


「橋本さんはどうかな」


「え、わたし。恥ずかしけど、みんなが良いなら頑張る」


「まぁ無理しなくてもいいからゆっくりでね」


 剛がすみれに了解を取ったところで、拓実が話しを進めた。


「それじゃ、俺のことは拓実って呼んでくれ。えっと、三佳ちゃんに忍ちゃん、あとすみれちゃんもね。それと一と二郎もよろしく」


「了解。そんじゃ俺はあだ名で呼ぶとしよう。みかっち、すーみん、えりー、つよぽん、拓っくん、これでどうよ」


「お前な、いきなり距離詰めすぎだよ、大丈夫か」


 一に二郎が全力でツッコミを入れたものの、若干引き気味であった皆もテンションも上がっているせいか、乗りで了承されることになった。


「さすが一だわ。俺は面倒だから、普通に下の名前で呼ばしてもらうぞ。拓実、剛、三佳、エリカ、すみれでよろしく。俺のことも二郎で大丈夫だから」


「拓っくん、つよぽん、かわいいね。それに一君と二郎君って呼ばせてもらうよ。よろしくね」


 三佳がいつも通りフランクにあだな呼びを受け入れた。それからエリカは「一君に二郎君」、忍が「拓実に剛」と呼ぶことを告げて、剛の番が来た。


「わかった。俺も二郎と一、忍にすみれと呼ばせてもらうよ」


「えぇ、す、すみれ!」


「嫌だったかかな、ごめん。すみれさんかすみれちゃんがいいかな」


「いや大丈夫、すみれって呼んでほしい」


「そうか、わかったよ、すみれ。あと馬場さんは馬場さんと言い慣れている分照れるな。三佳ちゃんかな。いや、三佳さんか」


「つよぽん、わたしは三佳でも大丈夫よ。全然気にしないし」


「そうか、でも三佳ちゃんと呼ばせてもらうよ。よろしく」


「最後に私は剛君、拓実君、一君に二郎君でよろしくね」


 剛とすみれとのやり取りで若干あたふたしたが、なんとか下の名前で呼び合う関係となり、拓実や一の気配りもあり少しずつグループ内の壁も無くなり、緊張がほぐれつつあった。


 それからしばらく8人は雑談をしながら列で待っていると、園内スタッフの一人から案内の声が聞こえた。 


「あと四名様乗員できます」


(グループを半々に分けて乗るか、一緒のタイミングで乗るか。でも、最初はせっかくなら皆で乗った方が良いだろうな)


 そんなことを皆が頭の中で同じように思っていたとき、一が声を掛けた。


「つよぽん、みかっち、それとエリーに拓っくん、後ろの人に先譲って良いかな」


 一は自分らの後ろに4人組グループがいたことに気づいて先に譲る事をすぐに提案した。それを聞いた4人も了解して、すんなりと話がつき後ろのグループに譲ることになった。


「一君、やっぱりしっかりしているね。さすが生徒会だね」


 すみれが関心をしたように隣の一に話しかけた。


「そんな事ないよ、皆も同じ事を考えていたでしょ。だからすぐにOKくれたから良かったよ」


「だけど、思っていてもすぐには行動できないモノだよ。ああやって周りの状況を見てすぐに提案したから、私らもスタッフの人も後ろの人たちもぐだぐだしないで済んだと思っているよ。きっと」


「たいしたことじゃないし、俺が言わなくても誰かが言ってくれたと思うけどね」


「そうかもしれないけど、やっぱり凄いことだと思うよ。一君がみんなから好かれる理由がわかる気がするよ」


「そうか、ありがとうな。それにしても今日はいつもみたいに元気がないな。体調悪いのか、すーみん」


 一は話題を変えて、これまですみれが大人しいことを心配するように問いかけた。


「すーみんって私のことだよね。なかなか慣れそうにないわね。いや、別に体調が悪いわけじゃないのよ。ただ少し緊張していてね」


 すみれは一が呼ぶ自分のあだ名に若干引きつりながら、今日の自分の状況を説明した。


「そうなのか、普段は端から見てももっとハキハキして、女子のリーダー的な感じなのに、今日は今のところ一番大人しいから心配していたんだぞ。もしかして絶叫系が駄目な感じかな」


「うん、そうね、絶叫系はあまり得意じゃないのは確かね。三佳と忍は運動バリバリ型だから得意だと思うけど、私とエリカはコテコテの文化系だからあまり得意じゃないと思うわ。それに今日はその、あの・・・」


「そうか、なんかよくわからんが、それで頑張るだのなんとか言っていたのか。まぁ本当にきつかったらいつでも言ってくれよ」


「わかったわ、ありがとう一君」


「おうよ、すーみん」


「う、うん」


 すみれは一が素直に心配してくれたことに感謝を伝えながらもすーみん呼びだけはどうも慣れないなと思うのであった。

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