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ある梅雨の日 その5 ~エリカの苦悩~

 ある日、一抹の不安を感じていたエリカは三佳の部活のない日を狙い二人で帰ろうと誘った。一緒に二人だけで帰ることは初めてだったので少し戸惑ったが、三佳もエリカに相談したいことがあったのでちょうど良いと思い誘いを受けた。


 二人は駅から少し離れた喫茶店に入るとすぐにコーヒーを2つ頼み雑談もせず話しを始めた。


「三佳、凄く気になっていたんだけど、最近やけに剛と一緒にいるよね。二人はどういう関係なの。すみれが剛の事を好きなのは聞いたでしょ。さすがにやばいよ」


 エリカは我慢出来ないと言った表情で単刀直入に本題を切り出した。


「いや実は私もそのことをエリカに相談したかったんだよ」


「それ、どういうことなの詳しく教えて」


「わかったわ、実はね・・・」


 三佳は最近生じている剛との関係を嘘偽りもなくエリカに説明した。まず初めに梅雨の関係でサッカー部と陸上部が渡り廊下を挟んで隣で練習をする事になって、たまに剛と顔を合わせるようになったこと。すみれの話を聞くまでその男子が剛の事とは全く気づかなかったこと。話を聞いてからつい気になってチラチラ見ていたら、剛に気づかれて追求されたこと。そのとき、エリカとの関係も知ったこと。それから、やけに自分に声をかけてきて普通に知り合いになったことなど、包み隠さずこれまでのいきさつを説明した。


 エリカとしては合点がいった。たしかに三佳は誰とでも分け隔てなく接するし、剛の事も同級生の1人程度にしか思っていないだろうと。だから、よく考えてみれば剛のように三佳に声をかけて仲良く話している男子は相当数いるのだった。


 その結果、勘違いをこじらせて三佳に告白して撃沈するのが一つの流れであり、1年以上三佳と同級生をやっていれば誰でも知っている様式美なのだ。ただし、今回はそうも言っていらいないのがエリカの心情だった。


「三佳、話はわかったわ。今聞いたことは間違いなく本当で、三佳が剛のことをなんとも思っていないことは重々理解したけど、それをすみれがどう思っているかは私にも分からないし、下手すれば最悪の結果になるかもしれないから、もう剛とは必要最低限の接触に控えた方が良いかもね」


 エリカはすみれと三佳、そしてクラスの平和のことを考えて、一番安全な対処方法を素直に提案した。


「というと、つまり、剛君が私のこと好きになって告白してくるかもしれないって事だよね」


「恋愛に興味ない三佳でも、さすがにわかるでしょ」


「それは確かに面倒だし、さすがにすみれも良くは思わないよね」


「まぁ仮定の話で、もしそうなっても三佳は悪くないけど、すみれの立場を考えたとしたら、まぁ裏切られたと思うよね」


 三佳とエリカはお互いの考えを確かめるようにこの先に起こるだろう状況をあれこれと話し合った。


「はぁ、そうだよね。やばいね、どうしよう。・・・それとあともう一つエリカに報告したい事がありまして。これがやばい案件になりそうで、どうしたらよいのやらで」


 三佳は困り果てた様子でエリカに助言を求めようと話しを振った。


「もうこれ以上頭が痛くなる話はやめてよ、お願いだからさ」


「そこをなんとか助けてよ」


「はぁ、わかったから話してみて」


 エリカは三佳の様子からほっておける状況では無いことを感じ取り話しを促した。


「実は剛君から夏休みに遊園地に遊びに行かないか誘われまして、てへ」


 三佳はやばい状況を理解しつつ、笑ってごまかそうとした。


「てへ、じゃないわよ、あんた。もちろん断ったんだよね、これどう考えてもデートの誘いなんだから、これ受け入れたら試合終了だからね」


 エリカは三佳の爆弾発言に焦りつつ、事実確認を最優先した。


「えーと、その、だから、つまり、あのー・・安西先生」


「どこのバスケ部の先生よ。あんた、OKしたの!?バカなの、死にたいわけ」


 答えを焦らす三佳にしびれを切らしたエリカが叫び始めた。その突然の叫び声に周囲のお客がわちゃわちゃ騒ぐ女子高生二人に視線を向けて一瞬のざわめきが起こった。


「ちょっとエリカ、人格変わってるって、怖いよ、怖いって。周りのお客さん達に迷惑だから落ち着いてよ!」

「怖いじゃないわよ、私はあんたが怖いわ!もう、結局どうしたのよ!」


 エリカは三佳の制止で声量は抑えながらも、話す勢いは変えずにまくし立てるように三佳に迫った。


「ごめんなさい、怒らないで、ちゃんと話すから。・・・だからね、私としては無い頭絞って、すみれのために何かできないかと考えて、このチャンスを生かそうと思った訳よ」


 三佳はエリカを落ち着かせようとゆっくり自分の考えを説明した。


「だからそれでどうしたのよ」


「だから、デートなんて言葉を剛君も言わなかったから、友達誘ってみんなで行こうよって提案したのさ」


 エリカは三佳の斜め上を行く提案に肩透かしを食らったように反応した。


「え、はぁ、何を言ってるのよ」


「いや、つまり、このチャンスをすみれと剛君をくっつけるためのイベントにすれば良いじゃんって思ったのさ。どう、私、頭良くない。友達思いのいいやつでしょ」


 三佳は自身の考えを名案だと自慢するように胸を張った。


「はぁそれを自分で言っちゃうんだね。まったく。それにしてもすみれのことは置いといて、剛の奴はかわいそうに。勇気を出して誘ったデートを一瞬で無かったことにされて。しかも、誘った相手に別の女子を紹介されるなんて、さすがに同情するわ」


 エリカは幼なじみの友人の無念の想いを推し量り同情した。


「どうしたのエリカ、独り言をブツブツ言って。なんか普段のお母さんキャラとはずいぶん違うじゃん。大丈夫?」


 脳天気な三佳の物言いにエリカはため息をつきながら言い返した。


「はーっ、あのね、誰のせいでこうなっていると思ってるのよ。私だってこんなに自分が大きな声を出せるなんて思わなかったわよ。・・・でも、確かにその切り返しはナイスかもしれないわ。もしかしたら、三佳の言うように良い機会になるかもしれないしね」


 エリカは頭をフル回転させ熟考した末に考え方を前に向きに切り替えて、どうにか二人の恋を応援できるように三佳が作った機会を利用しようと考えるのであった。


「そうでしょ、やっとわかってくれたのね。はっきり言って私は5秒以上考え事はしないことにしてるけど、珍しく3分も考えたわ。おかげその日は夕食をおかわりできなかったんだから」


「いやおかわりできないって、ちゃんと一杯はごはん食べられてるでしょ。全くあんたの頭はカップラーメンのできる時間もまともに働かないの。カップラーメンだって最近は5分待たなきゃ食べられないモノもあるわよ」


「私は固めが好きだから5分待たずに食べちゃうけどね。どや」


「どやじゃないわよ、そんな話知らないわよ。誰が麺の堅さの好みの話をしてるのよ、バカ、じゃなかった三佳」


 エリカは三佳のバカなボケに見事な乗りツッコミを入れつつ、その流れに乗ってこの問題を持ち込んだ三佳に文句を言った。


「あー、今、私の名前をバカって言ったでしょ、ひどい~」


「うるさい、バカ三佳。馬場三佳なんだから、略せばバカでしょ。ほら女優やアイドルだって深キョンとかキムタクとか言うでしょ、それと一緒よ」


「ぜんぜん違うじゃん。それは愛称だけど私のは悪意しかないじゃん」


「うるさいな、あんたがバカなことばかり言うから思わず本音が出ただけよ」


「それが一番ひどいでしょ、もう泣くよ私」


 三佳はエリカの物言いにわざとらしく両手の甲を目元に当て、いかにもわざとらしく泣き真似をして見せた。


「あーあーもう、わかったわよ。私が謝るから。はいはい、ごめんなさいね、よしよし」


 エリカは冗談と変わりながらもここで話しを終わらせようと折れる形で三佳の頭をポンポンとなでた。


「ふふふ、わかればよろしい」


 三佳はさほど無い胸を張って自分の行動を誇るよう満面の笑顔で言った。


「はぁ、どっと疲れたわ」


 二人は緊張が解けたせいか、コントのような勢いでバカな会話を繰り広げながらも、当面はすみれと剛にまつわる恋の騒動を協力して乗り切ることを誓った。

 

(これは確かに一年生の頃に聞いた噂どおりだわ。黙っていればモデルのように綺麗で、笑うとアイドルのように可愛く、話すと宇宙人。まさにその通りだわ。普段は気さくでスポーツ好きな超絶美少女だから、人気なのはわかるけど、性格知ればバカな男子も告白しようなんて思わないじゃないかな。しかし、すみれは良くこの脳天気な子と最初に仲良くなれたわね。たいしたものだわ)

 

 エリカはすっかり冷めたコーヒーをおいしそうに飲む三佳を見ながらふと思うのであった。

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