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ある梅雨の日 その1 ~凜と二郎の不思議な関係~ ②

 二郎と凜が生徒会室へ入ると4人の生徒が忙しなく事務作業をしていた。


「凜先輩、どこからその暇人見つけてきたんですか」


 二郎のクラスメイトで生徒会広報の一ノ瀬一が笑いながら凜に問いかけた。


「なかなか簡単には見つからなかったけど、写真部の部室に隠れていたみたいでね、逃げる前に下駄箱で捕獲出来たのよ」


「俺を指名手配の犯人みたいに言わないでくれますか。警部さん」


 凜の本気で言っているのかどうか分からないボケに、ノリツッコミで二郎が返すと、それを完全に無視して一人の男子生徒が振り向いて声をかける。


「おう、山田君か。毎度すまないが、少し掲示物の張り替えを手伝ってくれると助かるよ」


 声の主はメガネを掛けた学力学年1位のイケメンであり、生徒会長の藤堂英治だった。英治はいかにもモテそうな容姿だったが目つきが悪く、また毒舌の潔癖症というめんどうくさい属性持ちで近寄りがたいオーラを醸し出していたため、皆に好かれる生徒会長といった生徒ではなかった。   


ただ基本的には真面目で面倒見が良く責任感の強い性格だったので、親しい友人や教員からは絶大の信頼を得ていた。そういったことで英治は生徒会会長に選ばれていた。


「いえいえ、英治先輩が謝ることじゃないですよ。凜先輩と一に後で何かおごってもらうことにしますよ」


「なんで俺がおごらなきゃイケないんだよ。凜先輩の独断でお前の招集が決まったんだぞ」


 二郎の手伝いの見返り要求に、一が凜の横暴だと言い訳をしていると、残りの女子生徒2人から止めが入った。


「一ノ瀬君、ごちゃごちゃ言わずに仕事してください。手が止まってますよ」


「凜、そこで突っ立ってないで、とりあいずドアを閉めて席に座らせてあげなさいよ」


 一に文句を言ったのは2年3組で二郎や一の同学年のもう一人の生徒会である宮森巴だった。巴は剣道部にも所属しており、真面目が服を着て歩いているようなきっちりした性格であり、曲がったことが大嫌いで風紀の乱れを嫌う、規律と自制を重んじるカチカチの真面目女子だった。


 凜に声を掛けたのは3年の生徒会会計でほんわか癒し系の佐倉ほのかだった。ただし普段は優しくおとなしいほのかだったが、一部の噂では怒らすと学年で一番怖いのは彼女とも言われており触らぬ神にたたりなしと、3年の誰もがほのかを怒らすことがないように気をつけていた。


 このように会長の藤堂英治、副会長の二階堂凜、会計の佐倉ほのかの3年3人と書記の宮森巴、広報の一ノ瀬一の2年2人の合計5人で生徒会は構成されていた。


 生徒会の主な仕事は季節毎の式典の準備と進行、校内行事イベントの開催準備や取り仕切り、他にも学外との交流などがあるが、この6月から7月にかけては大きな行事がない代わりに一つの重要な業務があった。それは各部活へ振り分ける予算の編成である。部活の予算はすでに学校予算に組み込まれており、その額を各部活の部員数に大会やコンテストの実績、さらに学校や地域への貢献度などの項目によって点数付けし、それによって予算の分配が決まるのであった。予算の執行は9月が開始時期となっており、部活の新入生の入部の関係で5月一杯で部員数を確定させて、そこから9月1日までに各部の評価を生徒会と学校が行い、その年の予算分配が行われることになっていた。特にその予算配分の最終決定は生徒会担当教師の監視があるものの大きな裁量が生徒会に一任されており、非常に責任のある重要な業務の一つとなっていた。


 そういった事情で生徒会はこの時期忙しい状況にあったため、二郎は雑務遂行の下僕として凜に連れてこられていた。


「それで英治先輩、俺は何をすれば良いんですか。掲示物がどうとか言ってましたが」


 二郎が話題を戻すように、英治に確認をした。


「うん、山田君には二階堂と一緒に校内の掲示物の張り替えと撤去、それといくつか顔を出してほしい部があるから補助としてついて行ってほしいんだよ。いいかな」


「まぁ、俺で出来ることなら協力しますけど、今日は5人とも勢揃いなのにわざわざ俺が必要なんですか。」


 英治の頼みには了解したものの、いまいち自分の必要性が理解できない二郎が疑問を投げ掛けた。


「まぁ確かにそう思っても仕方ないか。実は今、部活の予算編成に取りかかっていて、各部から提出された活動報告書の確認作業と今週末の金曜日に行う部活協議会の準備で色々忙しくてね、それでまぁ雑務だけでも、どうせ暇な山田君に手伝ってもらおうと二階堂が提案してな、それでまぁ今の状況に至るわけだが。すまんな、俺はどちらでも良かったんだが、二階堂が聞かなくてな」


 英治は生徒会の今の状況と二郎の招集の理由を淡々と語った。


「はぁ、全くしょうがないですね。俺が暇なのは確定事項なんですか」


「私が呼んだら、君は無条件で暇になるはずだったけど、違ったかな」


 二郎が諦めたように恨み節をつぶやくと、凜がいつもの事だと軽くあしらった。


「まぁこの二人の関係は中学時代からこんな感じですから。よく中学の頃も二郎が放課後校内をうろついてると、生徒会長だった凜先輩に捕まって雑務をやらされてましたよ。なぁ二郎」


 一が過去を懐かしむように二郎に問いかける。


「最後の方は行事の準備や後片付けにも駆り出されるし、よく3年の先輩達に凜先輩の下僕君って影で言われてたわ」


 二郎が半泣き状態で過去を哀れんだ。


「何を言っているのよ、なんだかんで自分から手伝いに来たじゃないの。私は暇で退屈している可愛い後輩に居場所を提供していただけよ。優しい先輩の心遣いを分かってほしいものだわ」


 凜が過去を都合良く改ざんし始めたところで、二郎が諦めて凜に従い棒読みで返答した。


「もう分かりましたよ。いつもかまってくださりありがとうございます。それじゃ、掲示物の張り替えに行きますか。」


「正直助かるよ。いつもありがとう。本来は俺が各部には行くべきなんだが、俺が行くとどうも各部長達に歓迎されないのでな。まぁ二階堂と二人でよろしく頼む」


 英治が再度二郎に雑務の手伝いの依頼を行い二郎も納得して請け負った。


「凜、これが貼るポスターとテープね。取り外した掲示物はこの紙袋に入れてね」


 ほのかは用意した物品を凜に渡し、二人を見送った。

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