第四十七話 近づく過去、今見る未来
Szene-01 レアルプドルフ、町役場
ブーズをエールタインに任せたダンは、西側――トゥサイ村についての新たな情報を聞きに町役場を訪れていた。
ダンが来たことを伝えられた町長は、満面の笑みを浮かべて奥から現れた。
「ほう。何やら良い情報があったようだ」
「おや、なぜ分かったのですかな?」
「それだけニコニコしていれば、誰にでも分かる」
いつも話す場所にしている、役場の角にある机を挟んで三人は座った。
町長は、椅子に腰が落ち着く前に話し始める。
「カシカルド王国が絡んでいましたよ」
「ん?」
我慢しきれなかったのか、町長はいきなり話の核心から切り出した。
ダンは話が見えず、剣聖らしからぬ愛嬌を感じさせるように首を傾げ、聞き返す。
それを、隣に座るヘルマは見逃さなかった。
「あら、かわいい」
思わず出たヘルマの言葉で、町長は自身の焦りに気づいたようで、話を改める。
「失礼。つい気持ちが高ぶってしまいました」
ダンは町長の返事よりもヘルマの言葉が気になったようで、隣へ目をやった。
「かわいいってなんだ?」
「独り言ですから、気にしなくても大丈夫です」
「俺が気になるだろ」
「ありがとうございます、気に掛けてくださって。ご主人様から気にしていただけるなんて、従者にとっては至福の時でございます」
ダンは片手を挙げてヘルマを止めた。
「喜んでくれて何より――町長、続きを聞かせてくれるか」
「はい」
クスクスと笑うヘルマを気にしつつ、町長は話を続ける。
「トゥサイ村の件ですよ。どうもカシカルドがトゥサイに人材探しを委託していたようでして」
「人材探し? カシカルドがか?」
「はい。私も不思議に思ったのですがね、どうも戦力を強化したいようですな」
「カシカルドが戦力に困るとは考え難いな」
笑っていたヘルマが真顔になっていることに気づくが、町長は言う。
「カシカルドの人材調査員という者が尋ねて来たのですよ。トゥサイからの連絡が無いので様子を見つつ、直接私に話をしようと」
「直接話をするような事とはなんだ? 剣士をごっそり貸せとでも言うのか?」
「彼女がそこまで困る状況ならば、すでに情報が私の耳に入っているでしょう」
「確かに」
ダンは、膝の上で指を順番に跳ねさせている。
町長に早く内容を聞かせろと急かせているようだ。
「エールタイン様とティベルダに会いたいとのこと。水面下ではティベルダの能力発動について知れ渡っているようでして。その主人がエールタイン様で、英雄の子だったと」
ダンの指ダンスが止まった。
ゆっくりと目線を町長の目に合わせる。
「あいつの耳に入ったと――いずれ訪れる瞬間ってやつが来ちまったか」
「そうなりますな。ちょうど剣士になられたところですし、指揮も執りだした。エールタイン様の紹介と、思い出話をするには良い時期なのではないですかな?」
ヘルマは少し俯き、机の一点を見つめていた。
その横のダンはヘルマとは逆に、天井を見上げる。
「そうだな。約束したことでもあるし、現状からすると、町の西を固めてもらう話ができるか」
「私もそう思いましてな。時期をみて会えるようにすると答えておきました」
目線を天井から戻したダンは、片方の眉毛を吊り上げて町長に言う。
「町長。これは事後報告ってやつじゃねえか」
「ははは。そうなりますな」
「まったく――となると、早いとこエールに話さなきゃならないな。情報の多さにあいつの頭が爆発しなければいいが」
ダンと町長の話が進むにつれて、ヘルマの俯き加減は最大になり、真下を向いていた。
先程からヘルマを気にしながら話している町長は、ダンに釘を刺した。
「エールタイン様に教える情報は、できるだけ少しずつにしてあげてください」
「ああ、そうするよ。ヘルマとヨハナにも手伝ってもらうか……どうしたヘルマ?」
「いえ――なんでもありません。話す時期ならばきちんとお話して差し上げませんとね」
「すまんが頼む。もちろん俺から話すが、話し過ぎないように、な」
ヘルマは黙って頷いた。
町長はその理由が分かるからか、ティーを出すよう役人に指示をした。
Szene-02 ブーズ、西門
作業の指示と見回りを兼ねたティベルダの案内を終えて、帰路に就くエールタイン一行。
西門の近くにいたブーズの民が集まってきた。
「皆さんお疲れ様。それでは、また明日顔を出しますね。皆さん、しっかり休んでおいてください」
集まったブーズの民は、にこやかな表情でエールタインを見つめている。
そして労いの言葉を喜んだ。
「エールタイン様とルイーサ様もゆっくり休んでください!」
「また美しいお顔を拝ませてください!」
様々な言葉が投げられるエールタインとルイーサは、お互いに苦笑いを見せ合う。
「顔を出すってそういうことでは無いんだけど――」
「ご主人様が綺麗なのは本当ですもの、仕方ないです。でも顔を出すとみんなが元気になるならいいことですよ?」
「みんなが元気になる、か。それなら、まあ……いっか」
ティベルダがエールタインの手を握る。
それを見たヒルデガルドもルイーサの手を握ってみた。
「え?」
「駄目、でしたか? そういえば、したこと無かったと思ったので」
ルイーサは思わず避けるような動きをしてしまうが、ヒルデガルドの行動を受け入れ、態勢を戻した。
「仕方ないわね。ヒルデなら何も問題ないから、これからもしていいわ。まったくもう」
「ありがとうございます。私はルイーサ様にしかしませんので」
「ふーん。好きにすればいいわ」
そう言ってヒルデガルドの手を握り返すルイーサ。
ヒルデガルドはクスクスと笑いつつも、嬉しそうに握った手を見ている。
門番の一人が四人のやり取りを見て呟いた。
「剣士様とこんな風に過ごしているのか。まだ、信じられない」
挨拶に立ち会った民は、しばらく街道を歩く四人の背中を見届けていた。
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