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ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活  作者: 沢鴨ゆうま
第二章 剣士となりて

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第三十二話 恋

Szene-01 カシカルド王国、カシカルド城内王室


 カシカルド王国の女王ローデリカは、王室内の壁沿いをゆっくりと歩いていた。

 時々壁や天井へ目をやりながら一周すると、綺麗に磨かれた机に戻る。

 脚を組むために机から幾分離された、無駄に豪華な椅子へと座った。


「はぁ」


 ため息をつきながら、よく鍛えられつつもスラリとした脚を組む。

 ローデリカは王室に一人きりでいると、気を抜く時間となる。

 王室は大して広くない。

 そもそも城と言っても拠点を改築したに過ぎず、大きくはないのだ。

 王室へ入る者は、ローデリカの他に秘書官か侍女。

 机の反対側にはベッドが置かれていることからも分かるように、ローデリカの自室が仕事場となっている。

 組んだ脚を解き、椅子を机に寄せて突っ伏した。


「私の方が早く出会えていたら……ふっ、こんなこと何度言ったかな。また思い出させて酷い人ね、アウフ」


 ローデリカは顔を上げ、先ほど見て回った壁や天井を再び見る。


「濃い赤色。南方であなたがお気に入りだと言った果実酒の色。あの時に話したこと、冗談だと思ってたでしょ? 冗談なんかにしてあげない。私は本気だったのだから」


 首に掛けている革製小袋を開けてブルー・サファイアを出す。

 レアルプドルフの剣聖が持つ証石だ。


「同じものが欲しいと無理を言ったのよね。困ったあなたの顔が忘れられないわ。今でもあの頃のように笑ってしまいそうよ」


 ローデリカは顔の向きを変えて再び突っ伏し、独り言を続ける。


「あなたと話していた将来のこと、実現したんだから。だけど叶えたのは王になることだけ。あなたと私の可愛い従者、ウルリカはいない……」


 王室の外では秘書官が扉の前に立っていた。

 そこへ侍女が歩み寄る。


「陛下はいらっしゃる? 謁見の者が見えたのだけど……」


 秘書官は侍女に向かい、立てた人差し指を唇に当てる。


「あら。早く例の方を招きたいところね」

「山脈の向こうだからね。急がせてはいるのだが、なかなか思うようにはいかないよ」


 秘書官は上級剣士、侍女は王の側近。

 日々ローデリカに付き従っている二人だ。

 自然と話し方が柔らかくなる。


「私が心の穴埋めをできたらいいのに」

「おやおや。僕の前で告白されても困るな」


 体格の良さとは裏腹な優しい声で答える秘書官。

 身のこなしもしなやかで、去る方向をさっと手で指し示す。

 侍女は従い、二人はその場を後にした。


Szene-02 ルイーサ家


 ティベルダがルイーサに威嚇をした翌日。

 エールタインとティベルダは、ルイーサの家に向かっていた。

 到着すると、玄関前でアムレットが仲間数匹と共に二人を出迎えた。


「アムレット!」

「あれ? アムレットが他にもいる」


 二人の声が聞こえたからか、玄関の扉が開いてヒルデガルドが顔を出した。


「いらっしゃいませ。あはは。アムレットはティベルダちゃんを待っていたみたいね」


 ティベルダは、小走りでアムレットに近づくとしゃがんで挨拶をした。


「おはよう、アムレット。この子たちはお友達なの?」


 アムレットは尻尾を振って答えると、仲間と共に茂みに走っていった。


「あ、行っちゃった」

「この茂みがアムレットのお部屋なの。仲間も呼んだみたいで賑やかにやっているようよ」


 木々を見上げて言うヒルデガルド。

 アムレットが駆け上がる姿を見届けるとエールタインたちに挨拶をする。


「挨拶が遅れてしまいましたね。おはようございます、エールタイン様、ティベルダちゃん」

「おはよう、ヒルデガルド。ルイーサはどう?」


 ヒルデガルドはクスッと笑ってから答えた。


「大丈夫ですよ。ご機嫌はとってもよろしいですから」


 そう言って二人を家の中へと案内した。

 二人が中に入ると、ルイーサが慌てて椅子に座る所だった。

 ルイーサは髪をかきあげて背筋を伸ばした。

 ヒルデガルドはクスッと笑いながら報告する。


「ルイーサ様、エールタイン様とティベルダちゃんがいらっしゃいましたよ」

「あらそう。こんなに早くから何かしら」


 二人は、ヒルデガルドに用意された椅子へと座った。

 ルイーサはエールタインたちとは目線を合わせない。


「おはようルイーサ。裏に茂みがあってとても素敵な家だね」

「お、おはよう。茂みがいい感じでしょ? アムレットもいるし、ここしかないと思って!」


 ルイーサはハッとして言葉を止めた。

 エールタインは首を傾げて尋ねる。


「どうしたの?」

「な、何もないわ……褒めてくれて、ありがと」


 ルイーサが肩をすくめて頬をうっすらと赤く染める。

 エールタインはそれに触れず、ティベルダの事について話し始めた。


「昨日はごめん。ティベルダにはよく言っておいたから、許してくれないかな」


 エールタインに促され、ティベルダが謝罪する。


「ルイーサ様、申し訳ありませんでした。私、ご主人様の事になると気持ちが止められなくて。能力の扱いもまだ練習中なので、その……」


 言い淀んでいるティベルダに代わり、エールタインが続ける。


「そうなんだ。この子の能力は扱いが難しくて。ティベルダも頑張っているけど、また同じような事もあると思う」


 ルイーサは改めて背筋を伸ばすとエールタインへ体を向けた。


「仕方がないわね。エールタインが私を守ってくれるのなら受け入れるわ」


 ティベルダの瞼が半分閉じてルイーサを睨んだ。

 エールタインはすかさずティベルダの手を握る。


「こうして止めることしかできないけれど、駄目かな」


 エールタイン達とルイーサの様子を見ていたヒルデガルドが話に加わった。


「ルイーサ様、その辺でやめませんか? ティベルダちゃんを弄るとエールタイン様に嫌われますよ」


 ルイーサは勢いよくヒルデガルドに振り向いた。


「べ、別に弄ってなんかいないわ。ただ私はエールタインと仲良くしたいだけなのだから」

「ボク、仲良くしているつもりなんだけど、何か違うのかな」


 ヒルデガルドがちらりとルイーサを見る。

 ルイーサは両手を握って答えた。


「仲良よくしているけれど、仲良くしていないのよ。ああもう! どうしたらいいの!?」


 ティベルダは主人に手を握られているが、ルイーサへの睨みは続けている。

 ヒルデガルドはルイーサの助っ人に回った。


「エールタイン様。ルイーサ様はもう少しお気持ちを踏み込ませたいのです」

「ち、ちょっとヒルデ?」

「でも、言わないと伝わらないですよ?」

「……もう」


 ルイーサは再び肩をすくめて頬を赤くした。


「踏み込む? んー、この前も言っていたけど、ルイーサとボクがもっと仲良くするって……わかんないな」


 ティベルダの睨みが少し弱くなり、主人の手を両手で握った。

 ヒルデガルドが主人の代わりを続ける。


「お気持ちを今以上に近づけたい、ということです」

「気持ちを近づける……今以上にってことは、家族のような感じかな。ルイーサもダンの弟子になってうちに来るとか」

「惜しい!」


 ヒルデガルドは拳で膝を叩いた。


「え、惜しい?」

「すみません、思わず手が……。エールタイン様、男性に興味は?」


 エールタインは首を傾げる。


「男性かあ。力が強いから剣士としては羨ましいと思う」


 ヒルデガルドはがっくりと肩を落とした。


「エールタイン様のことが分かった気がします。ならば逆に好機ですね」

「ヒルデガルド、今日はなんだか勢いがあるんだけど、どうしたの?」

「その勢いで言わせていただきます。ルイーサ様とお付き合いをしていただけませんか?」


 ティベルダは握っていた主人の手を引っ張り抱き着いた。

 ルイーサは目を見開いてヒルデガルドを見る。


「あ、あ、ヒルデ、なんてことを!」

「ルイーサ様が言いたいことをお伝えしたまでです。それ以上も以下もありません」


 エールタインはティベルダに抱えられながらルイーサに問う。


「ボク、女だけど。付き合うの?」


 ティベルダはエールタインの首に強く抱き着いている。

 目の色が変わらないように、主人の髪の毛に顔をうずめていた。

お読みいただきありがとうございます!

よろしければ、ブクマや評価をお願いします。

執筆燃料となり、完結へ向けて筆がスラスラと進むようになります。

なにとぞ!

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