第七話 鐘楼の音
Szene-01 三番地区前、南北街道
エールタインとティベルダの二人は仲良く手をつないで歩いている。
南北街道に出ると、細い横道に差し掛かった。
「ティベルダ、ここの先にボクの生まれた所があるんだ」
「そうなんですか!? 見てみたいです」
「そこにね、父親のお墓があるからダンたちと顔を見せに行くことになっているんだよ」
「父上様が……母上様はどちらに?」
「お空に。ボクを産んだときに行っちゃったみたい」
エールタインが空を指差す。
「……す、すみません」
エールタインがティベルダの前に出てしゃがんだ。
そして頭を撫でてほほ笑む。
「ボクのことについて身内のみんなは全部知っている。ティベルダはもう身内だよね?」
「はい」
「なら、ボクのことはよく知っていてもらいたい。助手になったのだからなおさらね」
「エールタイン様……」
「だから、何でも気兼ねなく聞いてよ。ボクもティベルダについて全部知っておきたい。これからいっぱい聞くから隠さずに教えてね」
「エールタイン様になら全てお話します。私はエールタイン様のモノですし」
ティベルダをギュッと抱きしめるエールタイン。
「モノっていうのもなんか違うけどさ、大事な人になったのは確かだから、ずっとよろしくね!」
エールタインの首筋に頬を乗せて、ティベルダはほほ笑んだ。
そして、気持ちが瞳を刺激して、オレンジ色に光る。
「はあ、エールタイン様……」
そのまま頬ずりをするとエールタインが笑い出した。
「あはは、くすぐったいよ。ん? ティベルダの目って色変わるの?」
「私の目は青色ですけど」
「今違って見えた気がしたけど……青色だね。気のせいだったみたいだ」
くすぐったくて思わず離れた際に一瞬、戻りかけの目色が見えたようだ。
目の色が変わることをティベルダ本人は知らないと思われる。
他人からも言われたことがないため、誰も色が変化することに気づいていない。
「きれいな目なのは確かだから好きだよ」
「うれしいです。エールタイン様の金色、とてもすてきです」
「ありがと。さーてと、時間がもったいないから行こっか!」
改めて手をにぎり、繁華街へと向かい始めた。
Szene-02 レアルプドルフ、街道交差点
「はっ! 近くにいるような気がするのだけど」
突然足を止めたルイーサ。
だが、ヒルデガルドは距離感を保っている。
「見える範囲にはいらっしゃらない様ですが」
周りを見回していると、人々の動きが一斉に止まる。
町中にレアルプドルフ鐘楼からの鐘の音が響き渡ったからだ。
これは昼の休み時を知らせるもの。
町内、特に街道では多くの人が行き交っている。
その中で町民が休みを取るために鐘を鳴らし、作業を中断させるのだ。
街道を利用している外部の行商人や旅人も休まなければならない。
町の警備を担当する剣士達が街道の交通を止め、町の出入りも制限される。
「あら、もう休み? ヒルデガルド、食事にしましょう」
「はい。どちらでお休みしますか?」
「そうね……人は多いけれど、泉の傍にしましょうか」
二番地区の交差点に面している場所には泉がある。
泉の周りは木々に囲まれた広場。
ほとんどが町民の休憩場所になっているが、一部だけ剣士用の場所もある。
ルイーサ達はそこへ混ざった。
「湧き水はずっと見ていられるわ」
「一度ルイーサ様には実家の近くにある湧き水も見てもらいたいです」
「ここよりきれいなのかしら?」
「私が好きなものは全て見ていただきたくて……」
「あなた、かわいいわね」
ヒルデガルドは真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。
「ルイーサ様はドキドキさせるのがお上手ですね」
「あなたが私を好き過ぎるのよ」
「……その通りです」
「仕方のない子ね。あなたならずっと好きでいていいわよ」
勢いよく顔を上げてルイーサへ振り向くヒルデガルド。
「でも、ルイーサ様はあの方がお好きなのでは?」
「それはそれ。あなたの事も私は好き。好きになるのは気持ちが勝手にさせていることだから、あの子の事を好きでも、あなたの事も好きなのよ。私が好きだと思うものは全て私のものよ」
「気持ちに自信をお持ちの所が……その……大好きです」
両手をギュッとにぎりしめてあふれる気持ちをおさえ込んでいるように見えるヒルデガルド。
それを横目でチラッと見ながら空に浮かぶ雲へ目をやるルイーサ。
「あなたも気持ちをそのまま口に出しているじゃない。そういう所、好きよ。回りくどいことは好きじゃないから」
レアルプドルフの泉広場に、温かい空気が湧き出していた。
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