第十七話 決意と仲間
Szene-01 ダン家、ダンの部屋
エールタインとその師匠であるダンは、二人きりで話をするためにダンの部屋に移った。
ダンは椅子にゆっくりと腰を下ろすと、机に肘を乗せて楽な姿勢をとる。
エールタインは普段ヘルマが使用している椅子に座り、自分の部屋のように力を抜く。
「さて、どうした?」
早速本題に入ろうとするダンにエールタインが困った顔をして答えた。
「もう本題に入るの?」
「なんだ、話さないのか?」
「話すけど。久しぶりにこの部屋へ入ったんだから少しは……いや、なんでもない」
エールタインは片手を振ってその先の言葉を自身で止める。
「変なやつだな」
「ダンって……ああもう、いいよ。話せばいいんでしょ、話せば」
口を尖らせてしまったエールタインを見て、ダンは首を捻る。
「お前、たまに分からないことを言うのは変わらないな」
拳で膝をバンバンと叩いてみせるエールタイン。
少々息を荒くしたが、拳を膝から胸に運び、トントンと軽く叩いて落ち着かせた。
それからティベルダの家で得た能力についての情報を伝える。
「ほう、水の違いか。では下流の町でも能力者が生まれているかもしれないな」
「それはボクも気になったよ。これからは案件をこなしながら能力について調べていこうと考えているんだ」
「途方もない事のようにも思えるが、能力について知ることはレアルプドルフにとって重要な情報だ」
ダンは机から肘を離れさせ、両肘を膝に乗せて話を続ける。
「これまで分からず終いで済ましているのが不思議だった。ひょっとしたら真相を掴んでいた時期があったのかもな」
「そんな時期があったのなら、さすがに伝わっていると思う。それか……言い伝えを阻まれた事があるとか?」
二人とも興味を持っているからか、想像が膨らむようだ。
「案外近いところ……役場のどこかにでも情報が眠っているのかもな」
「考えるとありそうな事だらけだね。止めた止めた! はっきりさせるためにボクが動くんだから」
エールタインがダンの前に片手のひらを見せた。
ダンはその手のひらをポンと叩く。
気持ちの確認が完了した合図だった。
Szene-02 ルイーサの家
「はあ。一緒に活動できるようになったのね」
「今日も元気ね。この家が気に入ってくれたみたい」
自宅にて、ルイーサはエールタインと組めたことに酔っていた。
隣では、アムレットがヒルデガルドの両腕と頭の上を行ったり来たり、部屋中を駆けずり回ったりしている。
「アムレット、あなたと私の修練が始まるわ。あなたにとって天敵ばかりを相手にすると思うけれど、私がいるから。怖かったらすぐに戻ってきなさいね」
アムレットは二足立ちをして止まり、主人を見る。
きちんと聞いていると言わんばかりのアムレットを見てヒルデガルドが言う。
「うふふ、分かってくれたのね。ありがとう」
ヒルデガルドが微笑むと、壁の外側からカリカリと音が聞こえた。
「何の音かしら」
アムレットが玄関へと駆け寄る。
ヒルデガルドはアムレットに促されて扉を開けた。
「あら、すごい! みんなアムレットのお友達?」
玄関を囲むようにアムレットと同じ何匹ものリスが二足立ちをしていた。
「あなたには仲間がたくさんいるのね。私を安心させてくれているの? 優しい子」
ヒルデガルドは一旦家の中に入ると袋を持って戻ってきた。
「ごく普通のしかないけれど、私の気持ちよ。受け取ってくれる?」
いつもアムレットにあげている木の実を片手で持てるだけ手のひらに出す。
そして差し出した。
「良ければどうぞ。私とも仲良くしてね」
「ヒルデ、私抜きで楽しいことをしないで」
玄関を開けたままだったせいだろうか。
エールタイン酔いが醒めたルイーサが声を掛けた。
「ルイーサ様。そんなつもりでは……。アムレットが仲間がいると教えてくれたので」
「この子たちみんなアムレットの仲間なの? 情報をくれているのはこの子たちってことかしら」
「そうみたいです。アムレットはみんな仲間だと言っていますから」
「茂みに隠れていたのかしら」
驚いたヒルデガルドが勢いよく振り返る。
「ルイーサ様、アムレットの言うことが分かるようになったのですか!?」
「いいえ。分からないけれど、なぜ?」
「おっしゃる通り、みんなこの茂みにいるそうです」
ルイーサ家の背後を囲む茂み。
そこはアムレットを筆頭にリスの住処となっていたらしい。
リスに囲まれたルイーサの家は、日が沈んだ町の冷えを忘れさせるような風景となっていた。
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ゆるーい百合ファンタジーがツボにはまるといいな。




