第四十八話 終息する体で
Szene-01 レアルプドルフ、ブーズ東門
ウンゲホイアー川に掛かる東西街道の橋上でエールタインたちと交戦したスクリアニア兵は、ティベルダのフリーズにより衰弱もしくは絶命した者や、能力の餌食とはならずに生き残った者であふれていた。
ダンが率いる後方支援部隊が事後処理にあたり、ブーズ東門横に設置された臨時の尋問所では無事な兵士の意向を聞くため、町壁沿いにスクリアニア兵が並。
「武器の類は全てこちらに渡してください。無抵抗であることが分かれば魔獣は襲いませんので」
レアルプドルフの剣士が『魔獣』と口にする度にスクリアニア兵が肩をすくませる。
町壁と森に散らばって人の動きを眺めているアムレットの仲間は、魔獣効果を高めようとしているのか、入れ替わりでレアルプドルフの剣士の肩に乗ってみせる。
「今でも赤く光っている目を見るとギョッとする時があるけど、肩に乗られるとヒルデガルドの能力を持った気分になって結構楽しいかも」
「それ、わかるなあ。魔獣が味方に付いているってことが心強いし、レアルプドルフの民だから襲われないってのも妙に心地いい。そのせいか、町への移住希望者が多いんだよ。後で町長が苦しみそうだ」
「いや、あの人なら喜んで対応するだろうよ。町が元気な証拠だってな」
「ははは、確かに。でもまだ勝ったと決まったわけではないんだよな。エールタイン様たちは無事なのかな」
「ティベルダがいるし、ヴォルフも引き連れているんだから俺は心配していないけど。あ、ダン様も向かわれたしな」
「おいおい剣聖様を後付けするなよ、町を守ったお方だぞ。ダン様がいることで町は安心して暮らしていられるんだから。弟子のエールタイン様たちが派手に動き回るから忘れがちだけどな。それにしても、少し前まではエールタインって呼び捨てに出来たのに、あっという間に抜かれちまったな」
レアルプドルフの剣士は、半ば戦いの終わりを感じつつ作業を淡々とこなしてゆく。
その光景が壊れないようにアムレットの仲間があちこちから見守っていた。
Szene-02 レアルプドルフ、鐘楼前
ブーズの東門前でレアルプドルフへの移住を希望したスクリアニア兵が、レアルプドルフの鐘楼前に続々と集まっている。
町長は後ろ手を組んで町役場から様子を伺い、呟いた。
「ふむ、今回の戦いが終わればスクリアニアの体制は様変わりするでしょう。となると無理に移住をする必要は無いように思いますな。あの国が何も変わらなければ話は別ですが、これを機に良い方へ向かうことを願いたい」
呟きと思いきや、しっかりと聞こえるように話す町長を見た受付係が話し相手になる。
「兵士全員が移住をするわけではないでしょうけど、スクリアニア公の政策に不満を持つ民がいるのは伝わっているので、移住希望者の数は多くなりそうですね。となると、決して大きくはないこの町では受け入れ切れないですが、何かお考えがあるのですか?」
町長は後ろ手を組んだまま受付係へと振り返り笑みを見せる。
「今のレアルプドルフはエールタイン様やルイーサ様が加わり、さらに士気の上がった剣士の町です。剣士が絶えることなく受け継がれているこの町を相手にしてきたスクリアニア公は、それを実感しているはず。この先のことはすべてスクリアニア公次第ですよ。スクリアニア公国に所属している町も、平和であれば所属していることに不満はないでしょう。しかしその逆となれば話は別。町に所属する義務は無いのですから、独立を選ぶかもしれません。この町のようにね」
受付係は同僚に促されて町長の傍へ向かい、正式に話し相手となった。
「国に所属していることでの恩恵は大きいはずなのに、納得のいかない縛りがあると疑問しか湧かなくなってしまいますね。攻め込まれにくくなるかと思いきや、逆に標的となってしまったり」
「国の存在が後ろ盾となるのは魅力なのですが、あなたの言われた通り争いのきっかけともなりうるのが悩ましいですな。移住しなくてもよい結果となることを願うしかできませんね」
町長は何かを思い浮かべるように鐘楼を見上げていた。
Szene-03 スクリアニア公国、ヴェルム城居館前
エールタインたちは合流したダンと共にスクリアニア公がいると思われる居館の前に到着した。
城の防衛を担う兵士は、結局ヴォルフの存在を前に何もできないままエールタインたちを見送った。中には居館を指差す兵士もいたため、難なくたどり着いた
「この中にいるようだが、妙な仕掛けや不意打ちがあるかもしれない。気を緩めるなよ」
エールタインはティベルダの手を握ってダンに答えた。
「ローデリカさんに会うのとは違って、敵国の城にいるってだけで緊張しっぱなしだよ。なんで無事でいるのかわからないもん」
「ここでお前がそれを言うか。緊張しているやつの仕業とは思えないことばかりだが」
「始めのうちはただ前に進むことしか考えていないけどさ、ふと気付く時があるんだよね。振り返った時うまくいった嬉しさと、とんでもないことをしている怖さが混ざったような感覚に襲われるんだ。それを気にしないようにしようと思ってもっと前に進むようにしてるけど、もっともっと訳が分からなくなって――でも今はダンが来てくれて少し落ち着いてきた」
ダンが言うより先にヘルマが口を開いた。
「落ち着いてきたのはティベルダの手を握っているからですね。ティベルダ、そうでしょ?」
「えっと……はい。エール様は不安を感じると私の手を無意識に握られるので、私の出来ることをしています」
「エール様、戦いが終わったらゆっくり休んでくださいね。随分無理をされていると思うので」
ヘルマに先を越されたダンが話に割り込む。
「このまま終わる前提で話をしているが、上手く行くかどうかはわからんぞ」
「ダン様がいらっしゃるのですから、良い結果しか想像がつきませんが」
「はあ……ヘルマには主人を酷使する癖を直してもらいたいものだな」
主人の言葉には答えずに先へ進むよう背中を押すヘルマを見て、二組の少女デュオと応援に来た三人の剣士は軽く笑みを浮かべて後に続いた。
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ゆるゆる百合ファンタジーも終わりが目前となりました。
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