第十九話 剣士の仕事、体験版
Szene-01 レアルプドルフ、町役場
レアルプドルフ鐘楼のそばにある町役場に、西門からの伝令が走って来た。
行商人の悲鳴について調査する人員の要請だ。
魔獣が出現した可能性も伝えられる。
すぐに衛兵登録されている剣士たちへの公式要請手続きが開始された。
「いよいよ出てきましたか。見習い剣士様たちには町壁の確認を要請してください。町民には剣士様たちが動きやすいようになるべく家にいることと、町の外には絶対に出ないよう伝令を出してください」
町長からの指示が飛ぶ。
役場の中では久しく無かった緊張が走っている。
よく鍛えられた剣士たちのいる町らしく、町中に伝わるのはあっという間だった。
Szene-02 ダン家、玄関
「ダン様！ ダン様はおられますか？」
戸口からダンを呼ぶ声が家内に響きわたる。
ダンは自室、ヘルマとヨハナは家事が一段落してひと休み、エールタインとティベルダはエールタインの部屋で道具の手入れをしていた。
「何事でしょう」
「町の伝令のようですね。行きましょう」
ヘルマとヨハナが対応をするために動いた。
他の三人も声は聞こえたらしく、遅れて玄関に集まってきた。
「エールタイン様？」
「うん、何かあったのかな。ダンをあわてて呼ぶなんて非常時だと思う」
ティベルダは見当がつかないようで、エールタインの手をにぎった。
それに答えるようにエールタインもにぎり返す。
ヘルマは玄関扉越しに声をかけた。
「どうしました？」
「伝令です。西門の衛兵から連絡があり、行商人が魔獣にやられた可能性があると。そのため町長から、現場へ向かう剣士に加えて町壁の状態確認および警備のために見習い剣士への召集がかかりました」
「ご苦労様です。対応急ぎます」
「ありがとうございます！ では」
伝令の走り去る足音が遠ざかる。
ヘルマのやりとり中に全員が集まっていた。
「ダン様、お聞きの通りです」
「噂は出ていたが本格的に動き始めたようだな。俺とヘルマは町外警備の加勢に向かう。エールたちは町壁の確認と警備だったな。他の連中もいるから初仕事としてはちょうどいいだろう」
ヨハナがエールタインの肩に軽く手を乗せて声をかける。
「集まるのはエール様と同じ見習いたちです。あえて危険が少ない任務にされているので、二人で非常時の雰囲気を感じてきてくださいまし」
エールタインはティベルダの目を見て様子をうかがう。
だがティベルダの表情は硬くなく、エールタインの目線を感じてにっこりとほほ笑んだ。
どうやらエールタインの心配は杞憂に終わったようだ。
「手入れをしておいてよかったね。準備をしようか」
「はい！」
Szene-03 レアルプドルフ、町役場前
役場の前には続々と剣士達が集まってきている。
その中にダン家の四人も混ざってゆく。
「俺たちは騒いでいるあいつらの方へ行く。エールは二人行動を意識して修練のつもりで参加すればいい。色んな連中がいるだろうが、そいつらに釣られてブレるんじゃないぞ」
「ダンは心配性だなあ。ボクはティベルダと一緒で心強いから大丈夫。色々と勉強させてもらってくるよ」
ダンの隣でヘルマが笑っている。
「ダン様、師匠としておっしゃっています？」
「当然だ。想定修練より実践の方が成長するだろう」
「ふふふ。どうにも父親に見えてしまって。エール様、師匠としておっしゃっているようですから、しっかり勉強してきてくださいまし」
エールタインは笑いながら話すヘルマに釣られてにやけた。
「わかったよ、ヘルマ。ははは。師匠からの助言だからしっかり聞かないと」
「お前らなあ……まあいい。いくぞ、ヘルマ」
「はい、ご主人様」
踵を返して歩き出す二人。
エールタイン達は剣士たちの集まりへと混ざっていく二人を見送った。
「ヘルマさん、かっこいいですね」
「そうなんだよ！ 戦闘服なのにおしゃれだし。脚に装備している短剣を出すときなんて……もう……ドキドキするよ」
「はあ。ドキドキ、ですか？」
ダンは剣士が大勢いるからか、軽装防具しか着用していないため身体の大きさ以外で目立つ所がない。
付き添うヘルマもミニワンピースに軽装防具を着用し、タイツにロングブーツというスタイル。
太ももには短剣を装着して小型の鞄を背負っている。
「歴戦の勇者ともなるとあんな感じになるんだよ」
「とてもステキなのですけど、エールタイン様もヘルマさんのようにされたらいいのに」
エールタインは男性用のシャツにズボンをはき、胸が目立たないような工夫がされたカスタム軽装防具を着用。ロングブーツの中にズボンを入れている。
「ボクの戦闘スタイルにはヘルマの装備が合うんだろうね。だけどそこは……ね」
「隠しておきたいのですね。でも……私はこれでいいのですか？」
ティベルダは上がミニワンピースにケープ、下はタイツにミドルブーツをはいている。
ヘルマと同じく背負うのは小型の鞄だ。
「ティベルダは可愛いからそれでいいんだ。動きやすいでしょ？」
「はい。私はこんなに素敵な服を着させていただいてとてもうれいしいのですが……」
「ティベルダもなかなか頑固だね。剣士になれたら考えるよ。今はできるだけ舐められないようにしたいのさ」
剣士の間で階級差による扱いは思いのほか厳しい。
同格でも男性剣士が女性剣士に負けたくないという意識が強いため、女性であるというだけで見下す輩も少なからずいるのだ。
「それでは見習い剣士様、こちらへ移動してください。配置を決めますので」
Szene-04 レアルプドルフ、鐘楼前
役人の誘導で鐘楼前に集められる見習い剣士達。
エールタインたちは手をつないで流れについてゆく。
その中には、見習いらしからぬ容姿で足音をひびかせて歩く女性がいた。
ルイーサである。
彼女の周囲は人一人分の空間ができていた。
「大剣が気になるのかしら。歩きやすいから良いけれど」
「見習いで大剣持ちは見かけたことがありません」
「ふん！ のちに使うようになるのだから、初めから使えばいいのよ」
すでにまっすぐな背筋をさらに伸ばすように胸を張り足音をひびかせる。
一歩後ろにはルイーサの好みを着せられたヒルデガルドが続く。
彼女の服装は偶然にもティベルダとほぼ同じ組み合わせだが、一部違うところがある。
腰のベルトに小さい鞄を装着し、中にはアムレットが隠れているのだ。
「ヒルデガルド……とても可愛いわ」
「あ、ありがとうございます」
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