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ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活  作者: 沢鴨ゆうま
第四章 ボクたちの町

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第二十八話 主人の回復

Szene-01 レアルプドルフ、東端森中


 スクリアニア公の命により国境を越えたスクリアニア軍は、レアルプドルフの深い森の中を進軍中である。

 一度侵攻に失敗しているため前回とは違い、出来るだけ音を立てずに様子を伺いながらの移動をしている。

 しかし全くと言っていいほど索敵を行わずに進軍を開始しているため、前回の教訓が生かされていないのは否めない。

 また、前回の撤退理由の一つが魔獣による横やりということもあり、森の中での兵士の意識はレアルプドルフの動きよりも魔獣に向けられていた。


「森中に散らばっているけど、大勢の人が少々静かに歩いたところで魔獣は気付いちまうよ。これじゃあ前と一緒だ」

「あんた、前回も?」

「ああ、食っていくために仕方なくね。戦後にどこかへ行けば良かったんだが、職人ってわけでもないし家族も病弱で旅が出来なかったんだ」

「なるほど。それじゃ今回も同じ理由で?」

「そうじゃなきゃ戦なんかするかよ。のんびり作物売って生活していただけなのに、村がスクリアニアの所属になっちまった。それからというもの、気持ちが落ち込みっぱなしさ」


 盾を持って最前線を歩く兵士たちは、あちこちで愚痴をこぼしていた。

 進軍よりもおしゃべりへ気が向いた兵士たちの背後を、伝令が走って横切ってゆく。


「敵の民を発見。射手は矢を射る準備を、剣士は盾で射手を守るように」


 伝令の言葉を耳にした兵士が次々にその場で足を止め、攻撃の構えに入った。


Szene-02 レアルプドルフ、ブーズ区長宅前


 背中に受けた矢の傷をティベルダのヒールによって回復させたエールタインは、ヴォルフの背中に乗せられてレアルプドルフ東地区――ブーズの地区長宅前まで運ばれた。

 エールタインは道中、町壁内に残る者たちから温かい声かけを受けていた。

 ブーズの民からの特別な思いを実感したエールタインは、嬉しさ半分、恐縮半分といった様子で、複雑な表情をしている。


「エールタイン様! 矢を受けたと聞きましたが、ご無事なのですか!?」


 出迎えた区長が思わず大きな声でエールタインに問う。


「区長さん、心配させてしまってすみません。ティベルダに治してもらったので大丈夫ですよ。区長さんの声の方がびっくりしちゃいました」

「ほっほっほ、驚かせて申し訳ない。ですが町にとって大事な方の危機ともなれば、焦りもしますぞ。しかし、うちの子が剣士様を助けたというのは、ブーズの民にとっては何よりの朗報。ティベルダ、よくやりましたね。この調子でエールタイン様のお役に立つように」


 ティベルダが区長に返事をしようとした時、エールタインが口を開いた。


「ティベルダのおかげで随分助かっています。この子の能力に頼ってしまうこともある駄目な主人ですけど、ボクが一切困ることなく付いてきてくれることに感謝しています」

「従者に感謝をしておられる……やはりあなたはアウフ様と同様に素晴らしいお方だ」


 エールタインを背中に乗せたままのヴォルフが欠伸をした時、一人の剣士が神妙な面持ちで走り寄ってきた。


「区長……エールタイン様もいらっしゃいましたか! 現在スクリアニア軍と接触、敵兵からの矢により負傷者が出ております。負傷者はじきにこちらへ退避、今のところ剣士は後退せずに交戦を続けます。それに伴いダン様とヘルマさんが部隊に隙がないよう、動き回っておられます」


 ダンとヘルマの名を耳にしたエールタインは、表情を曇らせてヴォルフから下りた。


「負傷者が出るほどの戦いが始まっているんだね。ボクたちもすぐに向かおう」


 ティベルダに持たせていた剣を受け取ろうとしたエールタインの肩に、ルイーサの手が乗せられた。


「ちょっと待って、気持ちはわかるけどまだ早いわ。傷を治して間もない上に、ここまで移動した疲労もあるでしょう。せめて移動の疲れが取れるまでは休みましょ。それまで私は一緒にいるから」

「そうですよ。傷の方はきちんと治しましたけど、それと体の疲労は別です。ティーを飲むだけでもいいので、休みましょう」


 ティベルダもルイーサの意見に同意した。ヒルデガルドはルイーサに心を許し始めていると感じたティベルダの元へツツツっと近づいて、背中にそっと手を当てた。

 ティベルダはエールタインの剣をわざと引いて抱える仕草を見せた。

 エールタインは天を仰ぎ、苦笑顔で答える。


「わかりましたー、みなさんに従いますよーだ。全員の意見が一致しちゃったら従うしかないじゃないか、みんなずるいよ」

「あなたにはこれ以上傷ついて欲しくないのよ。私たちだけでなく、町の誰もがね。そろそろ自分の立ち位置を分かってもらいたいものだわ。まあ、少しだけ抜けているところが可愛いのだけれど」


 ルイーサはエールタインの肩に乗せている手を、さりげなく背中まで撫でてから離した。


「ルイーサはボクを可愛いと思っているの? むう、可愛いのは君たちの方じゃないか。ボクなんて短剣で突っ込んでいくしかしない抜けている剣士だよ」

「ふふふ、そういうところが可愛いの。あなたに対する周りの反応は気にしなくていいから、好きなように動いてちょうだい。あ、私たちは特別に思いっきり気にしてね」

「ルイーサはいないと困るし、そのルイーサを助けるヒルデガルドにはボクも頼っている。ティベルダは常に付き添ってくれているから当然気にしているよ」

「その言葉を聞けてこちらは安心したわ。区長にティーを出していただきましょう。区長、よろしい?」


 にこにこしながら四人の様子を見ていた区長は、手伝いの者にティーの準備を合図しつつ答えた。


「もちろんですとも。ささ、エールタイン様、いったん中で休みましょう」


 再びルイーサがエールタインの背中に手を当てて歩くように促す。エールタインは雰囲気に流されるまま戦場に後ろ髪を引かれつつ、区長宅へと入った。

お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけたら幸いです。

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