第十一話 優しい作戦
Szene-01 トゥサイ村
トゥサイ村――レアルプドルフの隣にある村であり、諸国への所属に乗り遅れて孤立していた。
スクリアニア公国からの襲撃を退けたレアルプドルフも、孤立した上に内政弱体化と見なされ、諸国からは村にまで格下げされた。
レアルプドルフは孤立が弱点となると考え、早期再興へ向けた動きを即座に始める。
再興をするに当たり、初めに行ったのが孤立している隣村トゥサイとの同盟だ。
トゥサイ村は亜麻林を有し、物品の生産や修理に長けた職人が多い。また、隣接する森からの魔獣に怯えて暮らしていた。
それは、レアルプドルフにとって剣士への討伐依頼案件や資材調達が容易になる。
トゥサイと同盟を結ぶことが再興に向けた一歩として最適とされ、早々に同盟を締結した。
というのがレアルプドルフとトゥサイ村の関係であったが、トゥサイ村の目に余る多数の違反行為発覚により、レアルプドルフの同盟破棄および侵攻に踏み切ることとなった。
一人の上級剣士が先頭をゆくダンに声を掛ける。
「ダン様、足止め要員は全員村から出ております」
「よし。ならばこのまま入村し、反抗するもの以外は手を出さぬよう、出来るだけ穏便に占領をする。村長は捕らえろ。苦情の一言ぐらいは言わせてもらう」
ダンの言葉が聞こえた剣士たちから笑いが起こる。それを制止するようにダンは片手を挙げた。
「この辺りでいいだろう。回り込み部隊はここから行け。二部隊の合図が揃った時点で占領開始だ」
ダンの両脇にいた回り込み部隊を率いる上級剣士は、それぞれが黙って頷くと自分の部隊へ手で合図をした。
レアルプドルフの侵攻開始である。作戦は、村民を一人も逃さないように村を包囲、一軒ずつ突入するという簡単なもの。
回り込み部隊を見送りながら、一人の剣士がダンに尋ねた。
「それにしてもダン様。レアルプドルフは優し過ぎませんか?」
「ん? 優しいというよりは、人なのだよ。いつも森には魔獣がいるという意識、他国から狙われるかもという不安――町民が偶然にも同じ場所、同じ時間の速さで感じた結果だろうな」
「お話を聞いたら町民であることが誇らしくなってきました」
「おいおい、今まで誇っていなかったのか? 困ったやつがいたもんだ」
「あ、いや、そういう意味では無くてですね……まいったな」
ダンに付いた剣士たちが、声を殺して笑った。
剣士がダンに尋ねたレアルプドルフの優しさとは――。
占領終了後、全村民を集めて各人から今後の意向を問う。
反抗する者は、のちの憂いを払拭するために斬る。その他の者は、レアルプドルフの方針を受け入れて町民となるか、他所へ流れるかの処遇を決める。
出来る限り血を流さない方法を選ぶところが、優しさに捉えられる点だと思われる。
待機しているダンの部隊に、二本の剣を叩く音が届く。回り込み部隊の配置が完了した合図だ。
ダンは軽くニヤリとして、率いる剣士たちに振り向いて言う。
「始めるぞ」
Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城
「なあにい!? あいつらが侵攻だと!」
スクリアニア公国の君主、ロイベア・フォン・スクリアニアが大声を上げた。
ヴェルム城王室内は一気に緊迫した雰囲気となり、執事や複数の侍女は肩をすくめて怯えている。
「なんだ? 我々に対してまだやれると見せている気か? フッ、バカバカしい。あの時は悪あがきをする剣士が邪魔で退いてやっただけではないか! 何なら今すぐにでも潰してやろうか」
情報を伝えた執事が、君主の言葉に対して付け加えた。
「わが国の兵は、ただいま南東の港町へ遠征しておりますので、不在ですが」
「不在だと!? 兵が一人もおらんというのか!」
「全兵で一気に掌握しろとの指示でしたので」
スクリアニア公は憤慨し、執事の腹を蹴り上げた。戦闘経験の無い執事の筋力では上手く受け止めることができず、王室内で宙に浮いてから床へと落下した。
「う……うう」
「全兵を真に受けるなどあり得ん! すぐに退却させろ! 当然占領してからだ」
スクリアニア公は、吐き捨てるように言い放つと王室から出ていった。
早歩きをする足音が廊下で響いている。
一人の侍女が執事の様子を見に駆け寄り、呟いた。
「兵に指示を出すなんて、執事の役目では無いでしょうに。息が落ち着くまでこのままで」
「すまないね。私の住む町がこの国に所属した時、執事に任命されたのだから仕方ないさ。所属したおかげで町は潰れずに済んでいる」
王室に残っている者全員がうな垂れ、絶句していた。
Szene 03 ブーズ東地区、北東の森
ルイーサと分かれて見回りをしているエールタインたちは、育成組とヴォルフ三頭を連れて見回りをしている。
甘い鳴き声を出しながら懐いているヴォルフを、ティベルダが撫でていた。
「君たちはおっきいね。アムレットみたいに木の実では足りないよね。何をあげたらいいのかな」
「やっぱり肉なんじゃない? でもボクたちは持って無いよ」
ティベルダの素朴な疑問に答えるエールタインだが、困った表情に変わる。
するとティベルダが撫でているヴォルフが、ティベルダの目をじっと見つめた。
「あ、そうなのね。エール様、この子達でなんとかするみたいです。無くてもお供してくれるそうですよ」
「ティベルダには通じるんだっけ。それにしてもよく懐いているね」
「私から光石の匂いがするそうです。エール様の証石も好きみたいです」
「へえ。光石を感じていたのか。また一つ能力に絡んだ情報が入ったね。その懐き方からすると、ティベルダから出ている光石の力は能力の強さと関係がありそう」
呆気に取られている育成組の前で、ヴォルフに囲まれても平気な二人は楽しそうに森を歩いていた。
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